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社畜転生〜転生したら第5王子だったので、ダラダラ過ごしたいと思います〜  作者: 桔梗


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11.嫌な予感はだいたい当たります

「角持ちの死骸が……!」


その声に、リカルドの足が止まった。


俺も、嫌な予感が背筋を撫でるのを感じて振り返る。


(……まさか、追加イベントか?)


いい加減にしてくれーー俺はただ、屋敷に行こうとしてるだけじゃないか。


門前では、倒れた角持ちの周囲に兵たちが集まりかけていた。


さっきまで赤黒い血を流していた巨体が、ぴくり、ぴくりと痙攣している。

まだ生きているのかと思ったが、違う。

死体そのものが、内側から何かに食われているように、ゆっくりと萎んでいた。


毛皮が乾き、筋肉が痩せていく。

骨ばった背が、さらに歪に浮き上がっていく。

まるで、飢えた何かが死体の中から肉を吸い上げているみたいだった。


「全員下がれ!」


リカルドが鋭く叫び、兵たちが一斉に後退した。


その瞬間、角持ちの胸元が、ぼこり、と不自然に膨らんだ。

裂けた肉の奥から、黒い石が覗く。


魔石か?いや、違う。

普通の魔石は、もっと澄んだ色をしている。

魔物の属性によって赤や青や緑に染まることはあるが、それでも光を含んでいる。


だが、あれは黒い。

しかも、ただ黒いのではない。

石の内側で、飢えた影のようなものが蠢いていて、見ているだけで嫌な気分になる。


「……何だ、あれ」


俺が呟くと、リリアの表情がわずかに硬くなった。


「魔石にしては、気配が濁りすぎています」


「だよな」


リカルドが剣を構え直し、老魔法使いへ目を向けた。


「鑑定できるか?」


「……やってみます」


老魔法使いは杖を突きながら、角持ちの死骸へ近づいた。


「灯よ、照らせ。その神髄を映せ」


さっきの戦闘で消耗しているのだろう。顔色が悪い。

魔力が足りないようなので、俺はそっと老魔法使いの杖に魔力を注いだ。


ぎち、と嫌な音が鳴理、石の表面に、細い亀裂が走る。

その隙間から、赤黒い煙が漏れた。


次の瞬間、黒い石から、煙のような魔力が噴き出した。

それは一瞬、大きな顔のような形をとって消えた。


耳の奥で、声がした。


――足りない。


――足りない。


――足りない。


俺は、ぞくりとした。


「……黒餓石こくがせき


老魔法使いが、震える声で言った。


リカルドが眉を寄せる。


「……まさか」


(黒餓石?なんだっけ、それ)


どこかで聞いたような気もする。いや、聞いたことがある。

たしか、王宮の授業で一度だけ出てきた。

俺が半分寝ながら聞いていたやつだ。


こういう時に限って、ちゃんと聞いておけばよかったと思う。

授業とは、だいたい必要になってから価値に気づく。最悪である。


「……ですが……これは間違いなく、暴食の王が用いたとされる呪石です……。魔物の体内に埋め込むことで、飢えと狂暴性を増幅し、群れを操ると……」


「つまり、こいつらは自然に襲ってきたわけではないと?」


リカルドが怪訝そうに言う。


「おそらくは……」


”暴食の王”


その単語に、門前の空気が一段冷えた。


この世界に生きる者なら、子供でもその名くらいは知っている。


傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰。

人の罪を冠する、七つの災厄。


暴食の王とは、その厄災のうち、暴食の権能を持つ王である。

この世界には、七つの災厄の権能を持つ、原罪の七王がいると言われている。


俺は反射的に額を押さえたくなった。


本来なら、今ごろ暖炉の前で茶を飲み、寝床を整えているところだったはずなのに……。


これは、非常にまずい。

仕事が増える匂いしかしない。


「動くな!!」


門の脇から、若い兵士が声を上げた。


視線がそちらへ集まる。


壊れた荷車の陰で、何かが小さく震えていた。


ーー小鬼だ。さっきの群れの一匹だろう。

片腕に矢傷を負い、錆びた短剣を取り落としたまま、身を丸めている。


兵士が剣を構えた。


「生き残りです。すぐに処分をーー」


「待ってください」


周囲の視線が俺へ集まる。


ーーしまった。


俺は内心で舌打ちしながら、小鬼の方へ歩いた。


小鬼は怯えていた。


魔物が人間に怯えるなんて、変な光景だ。

いや、魔物だって死にたくはないのだろうーー多分。


俺は数歩手前で止まり、小鬼を見下ろした。


「お前、俺の言葉がわかるか?」


小鬼の喉がひゅっと鳴った。


「コロさ……コロさナイで……」


兵たちがざわめく。


「小鬼が喋った……?」

「魔物が人語を?」


正直、俺も少し驚いた。


王都の図鑑には、小鬼は簡単な合図や鳴き声で意思疎通をすると書かれていたはずだ。

少なくとも、人の言葉を話すとは書かれていなかった。


「お前たちは、なぜここを襲ったんだ?」


小鬼は震える指で、角持ちの死骸を指した。


「アレ……黒イ石……イレラレタ。腹、スク。ずっト、スク。食ベテも、タリナイ……。角のアレ、オレたち命令スル。サカらエナイ」


つまり、角持ちも、誰かに操られていたーーということだろうか?


「角持ちは、石を誰に入れられたんだ?」


「おうサマ……飢えノ、王サマ……」


小鬼はそこまで言うと、ぐったりと俯いた。


傷のせいもあるだろう。

だが、それ以上に、何かに怯えきっている。


リカルドが低く言った。


「殿下。魔物の言葉を信じるのは危険です」


俺は頷いた。


「でも、確認したいことがあるので」


リカルドは黙った。


老魔法使いが、黒餓石を見ながら唇を噛んでいる。

兵たちも、剣を構えたまま動けずにいた。


小鬼は魔物だ。

本来なら、紛れもない討伐対象である。

だが、もし黒餓石で操られていたのなら、こいつは敵であると同時に情報源でもある。


「この魔物を治療してください」


「殿下」


リカルドの声が低くなる。


「それはなりません!」


「ですが、こいつから話を聞かないと、また同じような群れが来るかもしれないでしょう?」


(俺は早くこの件を解決して、ダラダラした生活を送りたいんだよ!)


「それは……」


俺は小鬼の前にしゃがみ込んだ。


傷口を見る。

傷は浅そうなので、放っておいても死にはしないだろう。


「お前、名前は?」


小鬼は怯えた目で俺を見る。


「……ナ、ナ……マエ……無イ」


「うーん、それじゃあ不便だからーー」


俺は少し考えた。

呼びやすくて、短くて、覚えやすい名前。


「お前は今日から、タロウだ」


ーーうん。我ながらいいネーミングセンスだ。


こいつには申し訳ないが、タロウならいつでも思い出せそうだ。

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― 新着の感想 ―
 お〜! 魔物の小鬼が人語を喋ったー❗️(体内に『黒餓石』を入れられたからでしょうか?) そして、主人公が小鬼をテイムしてしまった!!  これから、魔法無双するのか?それとも‥‥。 続きを期待してお…
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