10.とってもコスパが悪いです
「……っと」
倒れるほどではないが、身体の奥がすうっと冷えるような感覚があった。
無詠唱で細かな作業を続けるのは、派手な大魔法より目立たないぶん、神経を使う。
言ってみれば、巨大な岩を一発で砕くのではなく、針の穴に糸を百本通すような作業だ。
俺はまだ十四歳ということもあって、この小さな体に莫大な魔力を押し留めるだけでも神経をすり減らしている。
ーー面倒くさい。非常に面倒くさい。
というか、正直、コスパが悪すぎる。
でもーーこれも全部、怠惰な生活のためなのだからしょうがない。
俺は自分にそう言い聞かせながら、ゆっくりと息を整えた。
目立たないように働くーー。
前世でも今世でも、結局これが一番疲れる。
リカルドがこちらへ歩いてきた。
剣にはまだ角持ちの赤黒い血が残っていた。
戦いの直後だというのに、彼はすぐに兵たちへ指示を飛ばしていた。
「門扉の損傷を確認しろ!魔法兵は、魔石の残量を確認して早急に報告するように!魔物の死骸は北側へまとめて、血の匂いで別の魔物を呼ばないように気をつけろ!」
ーー手際がいい。
こういう人間は、放っておくと際限なく働いてしまう。
前世で見た。何人も見た。
というか、俺もその一人なのだけれどーー。
リカルドは俺の前まで来ると、片膝をついた。
「到着早々、お騒がせいたしました、アルト殿下」
「いえ……到着祝いにしては、少し派手でしたけど」
俺は王子らしい顔を作って、門前に並ぶ兵たちを見た。
「みなさん、お強いのですね」
その言葉に、周囲の兵たちがわずかに息を呑んだ。
リカルドも一瞬だけ目を伏せる。
「……ありがたきお言葉です」
リカルドはそれだけ言って、深く頭を下げた。
「改めて、屋敷へご案内いたします。まずはゆっくりとお休みください」
”休む”ーーうん、とてもいい言葉だ。
だが、ここまでのフェルミアを見る限り、休める気がしない。
俺は嫌な予感を抱えながら、リカルドの後について歩き出した。
背後では、兵たちの声がまだ続いている。
「さっきの火弾、曲がらなかったか?」
「風だろ?北風だよ、きっと」
「隊長はいつも以上にすごかったな!」
「角持ちがなんか弱くなかったか?」
(やめろ。そこは深掘りするな)
全部、北方名物の気まぐれな風のせいということにしておいてくれ。
隣を歩くリリアが、ちらりと俺を見る。
「アルト様」
「何だ」
「うまく誤魔化せそうですね」
「だな」
「……あくまで、今のところは……ですが」
「おいおい、不吉な付け足しをするなよ」
(そんなのフラグじゃんか)
俺は嫌な予感を振り払うように、屋敷のある街の方へ向かって歩き出そうとした。
ーーその時だった。
「隊長!」
門の方から、若い兵士の声が飛んだ。
「角持ちの死骸が……!」




