第二十七話
事情を司に説明しおえた瞬間だった。
それまで仏頂面だった彼の表情がぐしゃっと崩れた。
突然の変化に動揺する。
「好きな、好きな人の、ためか……! おまえ、良い奴だなぁ……っ」
バシバシと俺の肩を叩く司。
……さっきまでのイメージとまるで違ったため、それに少し驚いていた。
校内にある彼の工房に来ていた。
一応部室、ということで貸し出しているようだが、ほぼ彼の私物であふれていた。
鍛冶師の部屋というよりは研究者、といったほうが近いかもしれない。様々な資料本が積み重なって、かなり汚いのだが、彼はどこに何があるか把握しているようで、高く積みあがった荷物の中からノートを取り出した。
彼が手を差し出してきた。司の視線は俺の腰にむけられている。司に剣を渡すと、鞘から抜いた。
折れたその剣を彼は片手で遊ばせていた。
「この剣はオレが作って、姿を隠して適当に店に置いたもんだ。誰か運のよい奴へのプレゼントにでもしてやろうと思ってな」
「……そうなのか」
「どうやら、運命ってのは本当にあるらしい。オレは……自分の気に入った相手にしか武器を作るつもりはなかったが、たまたまこうして出会えたのはこの剣のおかげだな」
彼は剣を近くにぽいっと放り投げた。
「新しい剣を作ってやる。次にその迷宮に挑む予定はいつだ?」
「……土曜日に行こうと思っていた」
「そうか。それまでにはできあがるだろう」
「そんな早くできるものなのか?」
生産職について、あまり知らなかった。
……知ろうとしなかった、というほうが正しいか。少しでもそっちに興味を示すと、学園の教師たちがすぐに勧めてくるからな。
冒険者学科では、才能のないものを支援学科に移す。そのため、支援学科は落ちこぼれたちの集まり、と言われている。
もちろん、司のように才能ある一部の人は、下手な冒険者よりも有名だ。
「スキル使うんだからな。今時の鍛冶師は窯とかは使わないことくらいは知っているだろ? 大事なのは、スキルを制御する緻密さだけだ」
彼はそういってヘッドホンをつけた。
「これから、仕事を始める。土曜日に来な。朝までには完成させておく」
「……ああ。ありがとう」
これで……とりあえず、武器はなんとかなる、か。
あとは、俺の問題だな。
あのとき――戦いに集中しきれていなかった。
俺が知らぬ間に実紅を傷つけていたとか。
実紅をこの場で戦わせてはいけないとか。
そういう戦い以外のことを考えすぎていた。
……次はクラウスを倒すことだけに集中しないと。
まだまだ、未熟だ。これ以上、ステータスの向上が難しいのなら、そういった精神面、ステータスに出ない部分を鍛えるしかない。
今あるステータスの全開を引き出せるように。それを超えられるように。
〇
土曜日の朝。
俺は剣を受け取るため、学園に来ていた。
校舎は静かであり、警備員たちが入り口を塞いでいる。
関係者以外は立ち入り禁止だそうだが、司から話は言っていたらしく、外部者入館の書類に記載後、中へと入ることができた。
司の部屋に行くと、生ゴミの臭いが凄かった。
ちらと見ると、司は酷い恰好であった。
「……司」
「ん? ああ、土曜日か?」
彼はソファで横になって眠っていた。テーブルの上には以前使っていた剣と似たものがあった。
「剣は出来上がったぞ。持って行ってくれ」
司はあくびとともに剣を示した。
それを握りしめ、鞘から抜く。その美しく輝く刀身に目を見張る。
別に目利きができるわけではない、良品であることはすぐにわかった。
握った瞬間、なぜかよく手になじむ剣は、前と同じだ。
「以前作ったのをモデルに、かなり改良させてもらった。あとはおまえの手になじむかどうかだが、どうだ」
「……完璧だ。まるで腕の延長みたいだ」
「物騒な腕だことで」
司はソファで横になったまま、手を枕のようにしてこちらを見た。
そんな彼に俺は伝える。
「料金はいくらになるんだ?」
「タダでいいぜ」
「ほ、本当か?」
「と、かっこいいことをいいたいが、こっちも仕事だ。そうだな……竜胆迷宮で手に入る素材を一通りくれ。それだけでいい」
「本当か?」
「ああ。竜胆迷宮を攻略する間に手に入れた初めての素材を必ず一度、オレに納品してくれればいい。そうすりゃ、攻略するまでの間、オレが武器のメンテはしてやる」
「……マジかよ」
「ああ。協力したいと思った奴にはとことん付き合わせてもらう。悪いな」
悪い、どころ、か最高だ。
「ありがとな!」
「そりゃあこっちもだ。代わりに、竜胆迷宮は絶対攻略しろよ。あとで自慢に使ってやるから」
「ああ、いくらでも自慢してくれればいいよ!」
「その剣なら、破壊されることはないはずだ。そんじゃ、オレは休ませてもらう」
次の瞬間には、いびきが聞こえた。
……これで、武器は揃った。
彼の部屋をそっと後にして、俺は竜胆迷宮へ向かう。
実紅には、武器を受け取りに行く、としか伝えなかった。
だが俺はこれから、竜胆迷宮十階層を攻略に行くつもりだ。
……実紅はきっと、俺の挑戦を止める。だから、彼女には何も伝えていない。
第一、実紅が一緒にいてはダメだ。これ以上、彼女に負担をかけるわけにはいかない。
ここからの迷宮攻略は、俺一人でやっていく。
そこで、ゴブッチたちを召喚する。
この一週間、ひたすら鍛え続けた彼らは、気づけば全員レベル2にまであがっていた。
ありがとな、みんな。
「みんな、準備はいいか?」
「ゴブ!」
「スラスラー」
「ウルルル!」
みんな元気いっぱいで返事をしてくる。
腰に下げた剣に手を伸ばし、深呼吸。挑む準備はできた。
ルフルに乗って迷宮を駆け抜ける。
途中の雑魚はすべて無視だ。
第十階層につながる階段には、思っていたよりもずっと早くついた。
ルフルが成長したのもあるんだろう。
一度そこで足を止める。ゴブッチとスラスラは大丈夫だろうが、移動しっぱなしのルフルに休んで貰う必要があった。
「みんないいか。今日はぶっ倒して、それで終わりだ。家に戻って、実紅に笑顔で報告するためにな」
「ゴブー!」
ゴブッチが武器を掴みあげ、
「スラッ!」
スラスラが体の一部を拳のようにして構え、
「ウル!」
ルフルも後ろ足で立ち上がり、両手をバンザイとばかりにあげた。
みんなが協力してくれるんだし、絶対に倒さないとな。
十階層に降りた俺は、そこで以前と同じように待っていたクラウスを見る。
「また、来たのか?」
「ああ、今度は、勝つためにな」
クラウスは笑みとともに大剣を持ち上げた。
「そうか。勝つ見込みはあるのか?」」
「前回とは何もかもが違う……だから、倒されてくれよ」
「悪いが、加減はできない。けど、全力のオレを超えてこそ、安心させられるんじゃないか?」
「……そう、だな」
「倒せると、いいな」
クラウスがそうつぶやいたのが戦いの始まりの合図だった。
彼が大地を蹴るのにあわせ、こちらも動き出した。




