第二十三話
土曜日。
放課後と今日一日使い、ようやくスライム亜種狩りが終わったところだ。
スライム亜種によるステータス強化のほうが、ウルフ狩りよりも大変だったため、先にウルフのほうを倒していたほどだ。
パーティーメンバーを再確認する。
新しく仲間になったルフルも、ようやくみんなとの連携が取れるようになってきた。
ルフルは非常に甘えたがりで、だいたいいつも近くにいる。そのため、ゴブッチとスラスラが多少嫉妬して、二匹も近づいてくることが増えた。
基本的に魔物たちは仲が良かったが、その点に関してだけは少しばかり争いがあったが、まあ、些細なものでわざわざ取り上げて指摘するほどのものではない。
ルフルは移動の場面において非常に助かった。ルフルに乗れば、移動が楽なのはもちろんなのだが、ルフルは鼻と勘が非常に優れていた。
索敵において、ルフルがいることで効率がかなり良くなった。
だって、ルフルに頼めば一体で行動している魔物の場所まで連れてってくれるんだからな。
今も俺たちは第九階層に降りて、ウルフとスライム亜種のペアを探して移動していたところだ。
「ウルッ」
吠えるようにルフルがなく。ちょうど、目的の魔物を見つけたところだ。
そこで、ゴブッチとスラスラが現れた。彼らはステータスカードから勝手に出ることができるらしいのだ。
移動の間はゴブッチとスラスラには一度ステータスカードに戻ってもらっている。
俺が拒絶すれば、出てこれないようだが、迷宮内ではいつでも出られるようにしておいた。
ルフルに乗るたびに出たり入ったり、すべて指示を出すのは面倒だったのもある。
あとは、戦いの戦法としても使えた。例えば、ゴブッチが相手を足止めし、実紅が巻き込むような魔法を放ったとしても、ゴブッチが俺のステータスカードに戻ってくれば敵にだけ魔法をぶつけることも可能だった。
魔物たち限定ではあるが、遠距離のワープに使えるのだ。スライムくらいなら投げられるし、それを利用して遠くのものを回収とかできるかもしれない。
ゴブッチとスラスラが軽く体を動かしたあと、ウルフたちに突っ込んでいく。
このペアを相手にするとき、スラスラがスライム亜種を足止めし、俺たちでウルフを仕留めるのが基本だった。
ルフルがウルフへとかみつき、ウルフも負けじと応戦する。
そこで硬直した二体。ゴブッチと俺でウルフを攻撃すれば、あっという間に倒せた。
次はスラスラの援護に向かう。スライム亜種相手でも負けないくらい、スラスラは強くなった。
たぶん時間をかければスラスラだけでも倒せる。けど、わざわざ待つ必要はない。
俺たちはスライム亜種の火炎攻撃にだけ気を付けて、タコ殴りにした。
ルフルにもう一度乗って、階段へと戻る。
一度そこで休憩をとる。ルフルにもステータスカードに戻ってもらう。階段だとその巨体は邪魔になっちゃうからね。
一緒に座っていた実紅に視線を向ける。ようやく、この階層でも実紅の援護が必要ないくらいに戦えた。
となれば、だ。残すは十階層だ。
「実紅。そろそろ十階層に挑んでも大丈夫じゃないか?」
「そう、ね……」
ぶっちゃけるともうやることがない。
九階層までに出現する魔物はステータスが成長する限界まで狩ってしまったので、意味がない。
ユニークモンスターを待つということはできるかもしれないが、前回のハイ・ゴブリンから一度も遭遇していない。これから先、一年待っても出ない可能性だってある。
だって、冒険者によっては人生で一度も遭遇したことがないこともあるそうだからな。
ゴブッチたちの成長に関しては俺とは違うようなので、まだ成長するかもしれない。
ただ、俺としてはさらに強くなるためにも十一階層に向かいたいところだった。
しかし、実紅は難しい顔だ。
「かなり、強いのよ中ボスは。今のままでも、勝てるかどうかは……わからないわ」
「……マジかよ」
今の俺でも勝てない、か。
それは俺としては最悪な話だった。
すでに俺ができる強化はほとんどすべて終えている。
この一週間で、俺は色々と試していた。
例えば、他の迷宮の魔物から素材を回収して、吸収することができるのか。
以前、冒険者学園にいたときに獲得した魔石と素材が部屋を掃除していたら出てきたので、吸収しようとしたが、できなかった。
素材を実紅の迷宮に持ち込んで使ってみても、ダメ。発動してくれない。
契約通り、実紅の迷宮以外でこの力は使えないようなのだ。
つまり、だ。
現状俺がこれ以上強くなる術がない。あるとすればレベルアップだが、する気配がまるでなかった。
だったら俺はむしろ開き直るまでである。レベルアップしなくとも、ステータスはどんどん上がっているんだし、しばらくはこれでもいいんじゃないかと。
どうしても十一階層に行きたかった俺は、そこで彼女に一つ提案をする。
「十階層でも、別に帰還のアイテムは使えるよね?」
「そうね」
「だったら、一度だけ挑んでみてもいいか? それで実力差がわかれば……最悪十階層はルフルにのって無理やり突破して、その先の階層でステータス上げをすることだってできるんじゃないか?」
「一度挑んでみるのはあり、かもしれないわね。ただ、十階層を突破するには中ボスを倒す必要があるわ」
そういうパターンの迷宮か。
迷宮によってはボスとかを無視して先に進めることがあるんだが、実紅の迷宮はダメと。
実紅は顎に手をやり、首を振る。
「どちらにせよ。これまでに稼いだアイテムを全部売って、装備品を整えましょう。みんなの装備品をそろえて、またあとで挑みましょう」
「……わかった。それじゃあ、これからギルドに行って、素材を売る。そのあと、装備品を購入して……明日十階層に挑むっていうのでいいか?」
「……そう、ね」
実紅の表情はさえない。十階層の中ボスはそんなに強いのか。
これまで、なんだかんだいって一緒に戦ってくれた実紅の評価ともなれば、俺も不安を感じる。
ただ、やるしかない。倒して前に進まないと、実紅は一生このままだ。
だったらやる。それだけ。
色々考える必要はあるのかもしれないけど、結局答えは一つだ。
八階層でルフルに乗る。だいぶ、この移動にも慣れた。
「実紅、今週の稼ぎはどのくらいだと思う?」
「かなりいくと思うわよ? C級魔石がちらほらと出てきたし」
「それじゃあ、ギルドに売るときは知り合いがいないことを祈るか……」
「そうね。たぶん、驚かれるくらいの金額よ?」
からかい気味に彼女が微笑んできた。
この階級は月に一度開かれる試験を受けることで、昇級することが可能だ。
ただし、一度落ちたら半年は受験が不可能になるので、受ける場合は慎重にしないとな。
階級が上がっても利点がそれほどあるわけではない。ギルドを積極的に利用し、依頼を受ける人にとっては必須だが、ただ迷宮に潜るだけの冒険者には何かあるわけじゃない。
しいてあげるなら、素材の売却時に疑問を抱かれるくらいだ。売却時には冒険者カードを見せるからね。
すっと、俺の前に座っていた実紅が背中を預けるようにしてきた。
「やっぱり、落ち着くわね」
「……そういってもらえるなら、うれしい限りだ」
「凄いドキドキしてるわね」
「ルフルにしがみつくのに、必死なんだ」
「そうなのね? 私も、あなたにしがみつくので大変だわ」
ぎゅっと実紅が体を寄せてきた。たまに実紅も甘えたがることがある。
……改めてこうされると、気恥ずかしい。
俺の顔を見て、実紅がにやっと笑う。この子は、俺の恥ずかしがっている顔を見るのが大好きらしい。
けど、そんな顔も可愛いんだから、ずるい。




