第二十四話
「街の移動も、ルフルでできれば楽なのにな」
「けど、そうしたら今みたいにゆっくり歩けなくなっちゃうわよ?」
隣に並ぶ実紅が、すっと俺の手を握ってきた。
……た、確かに。それは駄目だ。実紅と手を繋いでいると、なんだか心が温かくなる。
さわさわと、彼女がからかうように手の甲を撫でてくる。
「くすぐったい?」
「……まあ、な」
お返しに実紅の甲をさっとくすぐってみたが、彼女は特に効かないようだ。
悪戯に成功したような笑顔を見せる実紅に俺はくらりと倒れそうになる。本当に、カワイイ人だ。
彼女とともに街を歩く。
ギルドがある学園まではもうしばらくある。……一人で歩いていたときは、この移動だけでも結構しんどかったが、今はそうでもない。
もうちょっとゆっくり歩いてもいいかもと思えたのは、実紅が隣にいるからなんだろう。
学園についたところで、冒険者通りへ向かう。まっすぐにギルドへ入り、素材売却に並ぶ。
学生のアルバイトはいたが、みんながみんな俺の顔まで知っているわけじゃない。
並びながら、現在の自分のステータスをさっと確認する。
鏑木健吾『竜胆実紅の敵にのみ使う』
レベル0
物攻SSS(214)物防SSS(209)魔攻SSS(204)魔防SSS(201)敏捷SSS(213)技術SSS(216)
スキル
『吸収:EX』
→『ゴブッチ レベル1』
→『スラスラ レベル1』
→『ルフル レベル1』
すべてのステータスは200を超えた。さすがにSがさらに増えることはなかったな。EXにでもなるのかと思ったが、そういうわけでもないようだ。
それか、300くらい超えたら次の表記になるのかもしれない。そこまで行くかどうかは、今後次第か。
ルフルのレベルも今日の狩りで1になった。……本当みんなレベルアップして羨ましい。嫉妬だ、嫉妬に狂った戦士だ。
これ以上、俺のステータスは恐らくあがらない。
もしかしたら、ユニークモンスターが出れば可能性はあるかもしれないが、それは狙って倒すものじゃない。
むしろ、運悪く遭遇することのほうがほとんどだ。
だから俺は、このステータスで十階層に挑む必要がある。これでも、まだ勝てるかわからない、か。……今後が思いやられるね。
ステータスの確認が終わり、しばらく待ったところで、俺の番になり。
そこで、受付が変わる。
「久しぶり」
雨宮、狙ってたろ?
「今日も素材の売却に来たんだけど」
「そうなんだ。それじゃあ、出して」
いわれた通り、俺は素材を出していく。
一つ、二つ程度まではよかったのだが、その数が五十を超えたところで雨宮が頬をひきつらせた。
「こ、これどうしたの?」
「えーと、一緒に狩っていた人の素材も含めてなんだけど」
「魔石にC級が混ざってる……っ」
雨宮がいくつかの魔石をとって、目を見開く。
他の素材を見て、さらに雨宮は驚いたように声をあげる。
「……これ、どこの迷宮にいってきたの?」
「まあ、色々、かな」
「この辺りで、プラントが出る迷宮はない……遠出したの?」
そういえば、そうかもしれない。
素材に関して深く考えていなかったが、彼女の言う通りだ。
……これからは、そのあたりも考慮して売却したほうがいいかもしれない。
「そんなところだ」
竜胆迷宮に入っている、なんて言ったら絶対質問攻めになる。
雨宮に余計な心配をかけさせたくなかった。
「……学校、普通の公立だったはず。大丈夫、なの?」
「ああ、問題ないよ」
「それなら、いいんだけど……」
雨宮が手元のタブレットをいじりながら、魔石や素材を見ていく。
他の職員もやってきて、手伝うほどだった。
そして――。
「合計で35万4500円」
……マジで?
これまでの稼ぎからは想像もできないほどだった。
「今何人パーティーで組んでるの?」
「その……五人だ」
「それなら、かなり良い稼ぎなんじゃない?」
一人あたり7万900円。週の稼ぎとしては十分だろう。
……これ、一人分だぞ? この調子で稼いだら月収で100万を超える。そんなのB級冒険者くらいあるぞ?
「冒険者として生活できるくらい稼げてる。……よかったね」
雨宮が微笑んでいる。
五人は今戦っているメンバーであるが、実際はすべて俺の取り分である。
まあ、実紅が欲しい物があれば買うし、第一今後のことも考えて貯金を始める必要がある。
結婚するのにお金がないなんてダサいからな……!
「それにしても……凄い。私たちの同級生でも、こんなに稼げている人いない」
「みんなが強いんだ。俺なんてお荷物だよ」
「けど、鏑木をパーティーに入れてるってことは、きっと何か価値があるんだよ。そういう人たちに出会えて、よかったね」
「……うん」
確かに、仲間には恵まれている。その点は素直に頷けた。
「……私がそのくらいの人に、なれればよかったのかな」
「どういうことだ?」
「ううん、なんでもない」
雨宮は唇をぎゅっと結んで笑った。
お金を受け取ったあと、俺はギルドを出た。
冒険者通りに向かった俺は、まずは必要になるであろうポーション類を大量に買い込んだ。
ポーションはゴブッチもポーチに入れて持ち歩くようになった。いくらあっても困らない。
魔法石に関しては実紅がだいたい作れるが、念のために全属性の魔法石を購入しておく。
実紅は火属性が基本だからな。特に相手が火属性の場合になかなか戦いに参加できないため、水属性の魔法石を多めに購入しておいた。
これだけですでに出費は8万ほどだ。全部を一度の攻略に使うわけではないとはいえ、それでも冒険者というのが危険なわりに金を稼ぐのが難しいことがよくわかる。
実力のある人以外は本業にするな、とよく言われていたな。趣味で稼ぐ分には最高の仕事だ。
毎日コツコツとやっていれば、月で十万くらい稼げるからね。副業としては完璧だ。
冒険者として上を目指す必要がなければ、それほど道具も必要ないし。
だから、場合によっては俺のように冒険者が厳しくて一般校に転校した人のほうが、本業とあわせての収入がそこらの冒険者本業の人よりも多いというのは珍しくない。
十階層に挑むための道具類の準備はこれで終わりだ。
あとはゴブッチの武器だが……武器屋を見て回っていると、それなりに良さそうな武器があった。
ゴブッチの持っていた鉄パイプとそう変わらない。ただ、質はあがっている。
それの値段が、五万ほど。……これでもう稼ぎの三分の一くらいが消えたんだから恐ろしいものだ。
準備万端になったので、明日に備えて家に戻った。
食事などを済ませた後、ベッドに入る。
すっと実紅も慣れたように俺のベッドに入ってきた。
俺は実紅に背中を向けるように眠っていたが、ぎゅっと抱きついてくる。最近は、ずっとこうだ。
「み、実紅近くないか?」
「耳まで真っ赤ね。まだ慣れないの?」
ふっと耳元に息が吹きかかる。
「……な、慣れるかって。実紅は、そのカワイイし……色々、柔らかいし」
「ふふ、相変わらずね」
ちらと、視線を向ける。……そういう実紅だって耳まで赤いじゃんかっ。
「おやすみ」
「……うん、おやすみ」
実紅が目を閉じる。
俺も目を閉じて、そして思う。
……実紅は、きっと心配しているんだろう。
冒険者通りで買い物をしていたときも、時折不安そうに唇をぎゅっと結んでいた。
実紅を、安心させたい。そのためにも、明日の挑戦で、中ボスを倒す。
それで、明日の迷宮攻略は終わりだ。お祝いに、どこかの店で派手に食事でもしよう。




