第十九話 レベルアップ1
次の週。
放課後になった俺はいつものように実紅の迷宮へと向かった。
上昇したステータスで第三階層まで一気におり、そこで何度か戦ったが――。
「私、必要なさそうね」
俺に張り付いていた実紅の声が耳をくすぐる。
時々、からかうように息を吹きかけてくる。あまりにも暇だからだそうだ。
「だ、大丈夫だけどな。からかうのはやめろってっ」
「周りに魔物がいないのを確認してるから大丈夫よ」
俺の心が大丈夫じゃないんだけどっ。
実紅の言う通り。今の俺たちは問題なく戦えていた。
ゴブリンもスライムもある程度ステータスでごり押しすることができてしまっていた。
なんだかんだ、ハイ・ゴブリンを倒せたのは俺たちにとってよかったようだ。
なので、四階層に向かうことにした。
四階層も、これまでの階層と造りは同じだ。
いつものようにスラスラとゴブッチが先行して進む。
「確か四階層はプラントだっけ?」
「ええ、そうよ。見た目でいえば、そのあたりにある木に目がついているだけだから、すぐに気づくと思うわ。根を鞭のように操って攻撃してくるから気を付けるのよ?」
それは厄介そうな相手だ。
俺は呼吸を整え、先行するゴブッチとスラスラを見守る。
と、ゴブッチが鉄パイプを構え、腰を落とす。
「ゴブ!」
ゴブッチは索敵がうまくなった気がする。ゴブッチの声に反応するように、一本の木が動き迫ってきた。
本当だ。幹に目だけがついていて、こちらを見ていた。
接近と同時、根を伸ばし、振りぬいてくる。
ゴブッチがそれをかわし、スラスラが弾丸のようなタックルをお見舞いする。
だが、プラントはまだ倒れない。ゴブッチが殴るが、それもプラントは受け切った。
かなり、耐久力のある魔物のようだ。
最後に俺――視覚外から一気に迫り、剣を振り下ろした。
すっと、剣は抵抗なくプラントの腕のような枝を両断する。
……新しい剣はかなり使いやすい。俺は一級品を拾い上げてしまったのかもしれない。
「ギャア!」
プラントはつんざくような悲鳴をあげる。口はなさそうだが、どこから音を出しているのだろうか。
疑問を抱いたのは一瞬だ。次の瞬間には、ゴブッチとスラスラの攻撃に倒れた。
大丈夫そうだな。吸収を使ってみたが、プラントもスキルに表れない。
ちょうど良い。ステータスの成長限界に到達するまで、スキルとして獲得できるか調べよう。
実紅の力を借りる必要もなさそうだな。
その後、しばらく第四階層で魔物を狩っていく。
移動しながら戦っていたからか、第五階層までもう少しとなる。
俺はステータスと時間を確認しつつ、第五階層に視線を向ける。
プラント狩りは正直もう必要ないくらいステータスがあがっている。
プラントはそれほど動きが早くないのと、基本一体で行動していたため、狩りやすかった。
おまけにスライムと違って、物理攻撃への耐性ももっていない。いわば、ボーナスステージだ。
ずっとここで狩り続けたいけど、同じ魔物を狩っていても限界がきてしまうからな。
それさえなければ、一か月くらいはこもりたかった。
「第五階層はゴブリンの亜種だったか?」
「ええ。第六階層はプラントとゴブリン亜種ね。それで、第七階層はスライムの亜種ね。八階層は、ウルフよ。九階層は、スライム亜種とウルフよ」
「……うーん、仲間に出来るかはわかんないけど、とりあえず第五階層で何体か倒してから今日は戻ろうかな」
「そうね……時間的にもそれがちょうど良さそうね」
仲間が増えれば連携の難易度はあがるが、数は正義だ。
だからこそ、さらに増やすためにと考えて俺は第五階層に降りる。
……やはり、ゴブリン系の魔物は群れるようだ。
今の俺たちなら勝てるかもしれないが、安全に挑みたい。無茶は絶対にしたくない。
一体だけのゴブリン亜種を探して歩く。
ようやく見つけた。
ゴブリン亜種はゴブリンと比較すると一目瞭然だ。全身真っ黒だ。ゴブッチよりも随分と凶悪そうな顔をしている。
……こくり、と実紅が頷く。魔法の準備が終わったようなので、攻撃を開始する。
ゴブリン亜種は、こちらに気付くとすぐに動いた。
速いな……速度だけでいえば、ハイ・ゴブリンを超えるかもしれない。
その素早さに、ゴブッチとスラスラもなかなか対応できない。
俺へと飛びかかってきたゴブリン亜種の一撃を剣で受ける。
結構重たい。だが、ハイ・ゴブリンほど一撃の威力はない。
ステータス的にいえば、敏捷の値が高い感じだろうか?
現状では、ゴブッチとスラスラではスピードについていけない感じだ。
敏捷の値が130を超えている俺でようやく対応可能ということは、普通のレベル0ではまず勝ち目がないのだろう。
俺がゴブリン亜種を受けとめ、注意を集める。
――その背後から、ゴブッチとスラスラが迫った。二匹の一撃をもろに背中に浴びたゴブリン亜種はそのまま倒れる。隙だらけの体に、実紅の魔法が降り注ぎ、仕留めた。
「よしっ、みんなありがとな!」
「ゴブー!」
「スラ!」
俺が片手を出すと、ゴブッチがぴょんとはねるようにハイタッチ。スラスラも体を伸ばしてパシッと叩く。
ゴブッチとスラスラはそのまま実紅のほうにいって同じようにハイタッチ。
素材を回収した俺たちは、そろそろいい時間なので、そのまま戻ることにした。
かなり、強かったな。プラントも一撃に関してはハイ・ゴブリン並みのものであった。だが、あいつは動きが遅かった。だから、危険もなくあっさりと狩れた。
だが、こいつらゴブリン亜種は……正直まだ群れを相手するのは厳しいだろう。調子に乗らなくてよかったな。
今回は四対一だったからそれほど苦戦せず倒せた。だが、もしもゴブリン亜種にハイ・ゴブリンと同じ周囲を咆哮で攻撃するスキルがあれば、かなり苦戦させられたはずだ。
下手すれば、またゴブッチとスラスラがやられていたかもしれない。
一階層と地上をつなぐ階段でステータスカードを取り出し、俺はゴブッチの肩を掴んだ。
「ゴブッチ、ちょっと話があります」
「ゴブ?」
「なんで俺より先にレベルアップしているんだ」
「ゴブー!」
誇らしげに胸を張りやがった。
「れ、レベルアップしたの?」
驚いた様子で近づいてきた実紅に、俺はステータスカードを見せた。




