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第十八話 ステータスバグ3


「だ、だれ? 女?」

「男のわけないだろっ!」

「そ、そう、だよね……」


 滅茶苦茶動揺しているようだった。

 雨宮は固まったまま動かないでいた。

 

「おーい、大丈夫か?」

「う、うん……えっと……それで、何しにきたんだっけ?」

「素材を売りに来たんだ。とりあえず、これらを鑑定してもらっていいか?」

「わかった……ってえ?」


 取り出した魔石を彼女に渡すと、驚いたような声をあげた。


「こ、これ……全部E、D級魔石ばっかり」

「やっぱり、そうなのか?」


 実紅は鑑定系のスキルを持っていないが、魔石くらいなら経験でだいたいわかるといっていた。

 その鑑定が、おおよそE、D級魔石。やっぱり実紅は天才だ。おまけにカワイイ。


「……うちの生徒でもこのレベルの魔物と戦えるのは優等生だけ」


 あっ……そうだった。

 その点について深く考えていなかった。

 ……そもそも、彼女が受付じゃなければ気づかれることもなかったのに。


「これ、全部……鏑木が一人で倒したの?」

「いや……まあ、その。一緒に戦ってくれてる人がいて。その人の代わりに換金に来たんだ」

「……恋人、さん?」


 絞り出すような口調で雨宮が言う。

 ……確かに実紅は一緒に戦ってくれている恋人で、間違いはない。

 もうここまできたら、全部素直に伝えてしまった方がいいだろう。


「そうだ。その人は夕食の準備で先に戻ってな。俺がこうして売りにきたんだ」

「ゆ、夕食……? 同居、中?」


 雨宮は驚きが隠しきれていない様子だ。改めて他人の口からそういわれると、恥ずかしさがこみあげてくる。

 俺たち今同居中なんだよな。彼女からすれば見ることはできないのだが――。


「そうだ」

「そう、なんだ……」


 ぼーっとした様子で彼女は魔石を数えていた。ついでに、ゴブリンの素材も出しておいた。

 雨宮に伝えるうえで、そこが一番不安だった。万が一雨宮が会いたいといったときに、俺は会わせられない。


 『なんだ、彼女がいるっていったのはただの見栄か』と誤解される分ならいいんだが、『こいつ頭大丈夫か?』と心配されかねない。


 今も俺の後ろに実紅はいる。ちらと視線を向けると何やらちょっとむくれた顔をしていた。

 実紅は実紅でどうしたんだ? わけがわからん。


「けど……E級の魔物たちを狩れるようになったってことは、レベルアップした、とか?」


 雨宮はまだどこか落ち込んだような表情をしていたが、それでも復活したようだ。


「ま。まあ、そんなところだ」


 限界突破しました。なんて言えるわけがない。

 歯切れの悪い俺に、雨宮は眉間を寄せて頬をわずかに膨らませる。


「うー、何か隠してる?」

「何も隠してないぞ」

「それなら別にいいけど……」


 まだ気になるようで頬を膨らましている。疑われてるな、俺。

 ただ、とりあえず……ばれなくてよかった。


「とりあえず、魔石全部で五十個。金額は13万円」

「それじゃあ、これで」

「わかった」


 冒険者カードを渡す。これはクレジットカードとしても使用できる。

 それにしても13万円か。おおよそ二週間の狩りでこれだけ稼げたのは久しぶりだ。


「……前に来た時は、こんなに稼げてなかった。凄いレベルアップだったの?」

「ああ。とうとう俺の眠れる才能が開花したのかも」

「開花、しすぎ。レベル1でE級の魔物を倒すのは難しい……。その一緒の冒険者さんも強いの?」

「……まあ、俺よりかは少しかな」

「それなら、納得できる……けど。……本当に付き合っているの?」

「ああ」


 恥ずかしかったが、言い切ると雨宮は唇をぎゅっと噛んだ。

 なんで、泣きそうな顔をしているんだろうか。


「それじゃあ、また」

「うん」


 雨宮の表情の意味はわからなかった。

 ギルドを出たあと、俺は通りを歩いていく。


「まずはポーションを購入して……武器とかも見たいな。実紅はどこか見たい場所はあるのか?」

「その前に、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「……あなた、あの雨宮って子とは仲良いの?」


 実紅の質問に俺ははっと気づいた。

 ま、まさか浮気を疑われている!?


「中等部のときに同じクラスで、よく話してたんだ。それだけだ。それ以上の関係はないからな!」

「そうなのね。あなたは……あの子の気持ちに気づいているの?」

「……気持ち?」


 何の話だ?

 実紅は考えるように顎に手をあててから、首を振る。


「それなら、いいわ。……私も別に何も言うつもりはないわ」


 実紅がふっと息を吐き、それから視線を通りに戻した。


「少し思ったのだけど、ゴブッチの武器とかは別のにできるのかしらね?」

「……確かに。せめてハンマーみたいなものがあれば良さそうだけど」


 とりあえず、ポーションを購入して、それから武器屋を見て回る。

 ゴブッチが今使っている鉄パイプに似たようなものがいくつかある。

 ……ただな。武器はその人の手に馴染むかどうかもある。


「ゴブッチに実際に選んでみてもらったほうがいいけど、ここで召喚するのはまずいよな」

「うまく、こう体で隠すのはどうかしら!?」

「監視カメラがあそこにあるんだよね」

「なんだか強盗の計画でも立てている気分ね……」


 確かに。不審な行動を取り続けても問題だ。


「あとで買いにくればいいか」

「それもそうね。健吾ももうちょっと切れ味の良い剣を購入しておいたらどうかしら?」

「……そう、だな」


 次の攻略は第三階層からだ。そこが問題なければ、どんどん下におりていくつもりだ。

 今のうちに良い武器に変えておけば、攻略難易度も下がるだろう。


 五万円以内で買えそうな良い武器を探す。

 といっても、値段に制限をつけているため、それほど目立つものはない。


 ……しいてあげるなら、学生が作成した武器は比較的安いというところか。 

 三万円の剣を掴み、軽く振ってみる。今と重量も変わらないし、軽い。これでいいか。


 武器や防具はオーダーメイドのほうがいいと言われているが、高額だからな。

 俺のようなしがない冒険者は使い捨てで切り替えていくほうがいい。


 剣を見ると、Tsukasa、という文字が彫られていた。これは、かなり手に馴染むな。

 使いやすかったら、またこの人の剣を探してみるのもいいかもしれない。


「とりあえず、次の攻略の準備は整ったかしら?」

「ああ。ばっちり。来週いっぱいで十階層まで行けたらいいな」

「……十階層。そうね。けど、焦りは禁物よ?」

「わかってる」

「それじゃあ帰りましょうか」

 

 彼女が手を握ってきた。俺もその手を握り返し、帰路についた。

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