第十七話 ステータスバグ2
「100って……超えるのか?」
自分の常識が間違っているのではないか、とばかりに当然のように数値が100を超えていた。
もしかしたら分かるかもしれないと、S級冒険者に訊ねてたみたのだが、
「こ、超えないわよっ。少なくとも、私は初めてみたわ」
荒げた声で返されてしまった。
……そうか、そうだよな。
ステータスの限界は100だ。これを超えたなんて聞いたことがない。
……どうなっているんだ?
「健吾も私もわからないのなら、たぶんあなたが世界初のステータスが限界突破した人なんじゃないかしら?」
「そう、なのか。けど、それよりは早いところレベルアップしてくれたほうがよかったんだけどな」
「手っ取り早く強くなるのに、レベルアップは優秀だわ。……けど、私が知る限りでは高ステータスでレベルアップしたほうが、強くなれたはずよ」
「そういえば、そんな話は聞いたことあるね」
例えば物攻10でレベルアップするのと、物攻100でレベルアップした場合、物攻100のほうが力は上になる、らしい。
とはいえ、確定している情報ではない。
レベルアップすると、ステータスカードでの表記上はリセットされてしまうからだ。
俺でいえば、今SSまであがったステータスも、レベル1のGからまた始まるからだ。
「なんにせよ……。健吾が目立ちたくないなら、ステータスは隠しておいたほうがいいと思うわ」
「だよな。……こんなの絶対研究対象にされちまうし、隠しておくよ」
「有名になるチャンスよ? いいの?」
「けど、実紅を助けるための時間がなくなっちまうよ」
「そ、そう……ありがと」
その後、素材を吸収してみた。ステータスがさらにあがり、すべての数字が110を超えた。
体から力が沸き上がるような感覚だ。
今なら、ハイ・ゴブリンと戦ってもいい勝負ができるかもしれない。そう錯覚するほどの力だ。
ただ、一つだけ残念なのは――
「ハイ・ゴブリンは仲間にならなかったな」
「……そうね」
俺のスキルが新しく増えることはなかった。
これはちょっと残念だ。いや、まあ普通なんだけどな。今までが異常だっただけで。ただ人は一度味わった裕福をなかなか手放せないのと同じだ。
「もしかしたらな、仲間になる魔物とそうじゃない魔物がいるってことか?」
「かも、しれないわね」
「あとは単純に、仲間にできる数に限りがあるとか」
「そうね。もしかしたら、仲間にするには確率も影響しているのかもしれないわね。たまたま今まで、百パーセントだっただけで」
「レアモンスターは仲間にしにくいとかかな?」
「そういうこと」
「まるでゲームみたいだな」
ステータスを持つ人が生まれてから、しばらく差別があったらしい。
未知の力を持つ彼らは現実の人間ではない、偽物あるいは仮想の人間だと揶揄するようなものだ。
ステータスの力は大きいが、全人類に与えられたものではない。……差別を受けた人には、神に選ばれし人間と宣言し、差別する人間を力で押さえつけた人もいたとか。
しばらくはそんな時代が続き、今は安定している。それでも、ステータスを悪用する人は今もいる。ステータスを持つ人が、持たないものを下に見ることも結構ある。
ステータスカードをしまい、俺は学園内にある冒険者通りに向かう。
校舎から少し離れた場所にあるそこは、一般の人たちも自由に出入りできる。
大きな校舎はもちろんだが、実紅はその通りに目を輝かせていた。
「……凄いのねっ。なんだかおいしそうなものもたくさんあるわ」
「迷宮内だと食料も大事だからな。……ただ、高いものがおおいけど」
「確かに……稼ぎの悪い冒険者にはちょっと手が出せないわね」
「……面目ない」
「あ、あなたに言ったわけじゃないわよ!」
ぶんぶんと首を振る。
実紅の迷宮に入ってからしばらくは、ギルドで売買を行っていなかった。
最近ではゴブリン、スライムの素材ではステータスがあがらなかったので、今日はそのほとんどを売却する予定だ。
いくつかは閃光魔法石、爆弾魔法石作成のために残しておくつもりだ。実紅が作ってくれるらしい。もったいなくて使えないかもしれない。実紅オリジナルを一つは部屋に飾っておこうか。
とりあえず、ここまで知り合いとは出会っていない。
学生はだいたいもう帰宅しているんじゃないだろうか?
「ずっと俯いているわね」
「……あ、ああ。一応知り合いもいるし。見つかると面倒なんだ」
学園最弱といわれていたからな……。結構規模の大きい学園だが、俺のことを知らない人はいないとまで言われている。
マスクでも持ってくればさすがにばれることはなかったかもしれない。
「そうなのね。けど、今のあなたは十分強くなってるわよ?」
「実紅の迷宮限定だけどな」
「それでも、稼げるんじゃないかしら?」
それはどうだろうな。
ギルドについて、受付に並ぶ。
よし、外部からのパートだろう。主婦っぽい見た目の人だ。
と思っていたら、俺の目前で人が変わった。
新しい受付は――俺の知っている女性だった。
「お待たせしました……って、鏑木?」
あまり表情の変化しない子だが、珍しく彼女は動揺した様子を見せていた。
雨宮雪。彼女は俺の数少ない学園の友人である。
青の双眸がこちらを見据えていた。
「しばらく迷宮潜ってたから、まあその」
「そう、なんだ。……迷宮、大丈夫?」
「ああ、まあなんとかなってる」
「……そっか。こっちは進級式のあと、ちょっとバタバタしてて連絡取れなかった」
雨宮はぽりぽりと頬をかくと、彼女の透き通るような白髪が揺れた。
「別にそんな無理に連絡しなくてもいいって。そっちもそっちで色々あるだろうし」
「……」
むすーっと彼女は頬を膨らませていた。
……なんだ? なんで怒っているんだ。
「落ち着いてきたから、またあとで家に遊びに行ってもいい?」
「え? あー、その……」
いや……別に雨宮はただの友人だから、家に呼ぶのは別におかしくはないんだが。
……実紅と付き合ってるしな。さすがに、そのまま受け入れるのはまずいよな?
今付き合っている人がいるから誤解されたくないしと言うのか? そ、それは……照れくさいぞ。
「ちょっと今部屋汚れてて」
だからこそ、濁したような言葉で誤魔化しておく。
「片付けるの手伝う」
良い子だ。
「い、いやぁ……さすがに汚い部屋を見せるのは男として嫌だしな」
「別に、そんなの気にしないで」
他にどのように言えばいいのか、困ってしまう。どうにかしようと思って考えてみても、俺の頭では利口な返答は出てこなかった。
諦めるように息を吐く。仕方ない。そもそも友人に隠しておくのも失礼だ。
羞恥で頬に熱が集まるのが自覚できた。きっと頬も赤いだろう。それを隠すように、俺は頬をかく。
「……その、今付き合ってる人がいまして」
「え……?」
驚いたように彼女が目を見開いていた。




