↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/30

第十六話 ステータスバグ1


「健吾っ、大丈夫!?」


 泣きそうな顔で彼女が近づいてくる。


「実紅のおかげで、なんとかな」

「……ごめんね。魔法の準備に手間取ってしまって」

「……いや、助かったよ。ほんと、ありがとう」


 実紅の目が赤くなっていく。

 俺はそんな彼女に、何も言えず素材と魔石を回収しに向かう。

 今日はもう、戦うだけの気力が残っていない。


「実紅……とりあえず迷宮から出ようか」

「そう、ね」


 ……情けない。

 彼女を助けるといって、悲しませてしまっている。


 順調に進んでいたわけじゃない。……俺はまだ、彼女を助けられるほどの男じゃない。

 今回だって、実紅がいなかったら――。


 もっと、もっと強くなりたい。

 強くならないと、大好きな人も助けられない。

 もう、実紅を泣かせないように……そんな男にならないと。


 迷宮に出るまで、実紅は一切口を開かなかった。

 俺も、なんて声をかければいいかわからない。

 外に出ると、夕方だ。このまま黙っていても仕方ない、と思って俺は実紅の手を掴んだ。


「実紅。帰りにギルドで素材を売ろうと思うんだけど、いいか?」

「……そうね」


 迷宮を出てからずっと、実紅の表情は暗かった。

 それを見ているのが嫌で、俺は何度も声をかけていく。


「明日はどこか遊びにでも行くか? それとも、家でゆっくりしてるか?」

「……そう、ね。私は、たまには家で休んでいたい、かしら。あなたも疲れていると思うし」

「俺は別に大丈夫だって。それでさ――」


 とにかく明るい話をしていれば、彼女の不安気な表情もなくなるだろう。


「健吾」


 そんな思考とともに話していた俺の言葉に、彼女の声が割り込む。

 実紅のつらそうな顔に、ぎゅっと胸が痛んだ。


 彼女にこんな顔をさせてしまっている自分が、情けなくて悔しい。

 助ける、結婚する……そんな言葉だけで、俺の実力はまるでついてきていない。


「いつ、また今日みたいなことが起こるかわからないわ……。無理に、攻略を進めなくてもいいんじゃないかしら?」


 実紅はハイ・ゴブリンとの戦いの最中、ずっと不安そうだった。

 それが彼女の本心なんだろう。


「……今日はイレギュラーだったし、それに、万が一の場合は脱出用のアイテムも用意しているから」

「けど、あなたが戦ったのは、私を助けるためでしょ?」


 それは否定できない。

 あのままハイ・ゴブリンを放置しておくと迷宮が荒れていた危険がある。

 俺が黙っていると、実紅は唇をぎゅっと結んだあと、首を振る。


「私は……私のためにあなたが死ぬかもしれないってなったら、耐えきれないのよ」


 ……それもそうだよな。

 俺は実紅を助けるために、命を賭けているようなものだ。

 もしも俺が逆の立場なら、止めるかもしれない。いや、絶対に止める。自分のためになんて、やめてくれって。

 

「実紅……のためだけじゃない」


 だから、今伝えるのは俺の気持ちだ。

 実紅を助けるためだけに、迷宮に潜っているわけじゃないってこと。それをちゃんと伝えるんだ。


「きっかけは、実紅だった。実紅っていう……カワイイ女の子を助けたいって思ったからだ」

「……」


 実紅の顔を見て、俺は必死に訴える。


「けど、今は違う。もちろん、実紅を助けたいって気持ちはあるけど、それ以上に冒険者として迷宮を攻略するのが楽しいんだ。幸いにも、いい仲間たちにも恵まれたしな」

「仲間……そうね」


 彼女もきっと、ゴブッチとスラスラと思い浮かべているのだろう。俺はそこに、実紅もいた。


「だから、俺は今冒険者として迷宮に潜ってる。……実紅のためだけじゃなくて、俺自身がこの生活を楽しんでるんだ」

「本当に?」

「ああ、本当だ。もちろん、俺ってそんなに強くないから心配をかけるかもしれないけど、これからも一人の冒険者として迷宮に挑ませてくれないか?」


 実紅は唇をぎゅっと結んだ。……たぶん、まだ彼女は言いたいことがあったのだろう。

 きっと俺なんかよりもたくさんのことを考えているのだろう。

 けど、それらを押し込めたように、実紅は口許を緩めた。


「……だったら、約束よ。絶対死なないって」

「わかってる。そんなの約束するまでもないよ。俺だって死にたくはないし」

 

 彼女は目と唇をぎゅっと結んでから、笑った。

 それはきっと、無理やりに笑ってくれたのだ。『やめてよ』、『危険なことはしないでね』。そんな言葉を飲み込んで。


 実紅の優しさに甘えてしまう形になってしまった。

 もっと強くなって彼女を安心させないとな。


「それなら、いいのよ健吾。今後何があっても、無茶はしないこと」

「わかってるって」

「約束よ? それじゃあ、ギルドに行きましょうか? 今日中に色々済ませておけば明日は二人で一日家にいられるものね」

「……そう、だな」


 二人きりか。

 それはそれで、何だかどきどきしてしまう。

 俺たちは国が運営しているギルドへと向かう。


 あんまり、ギルドには行きたくないんだよな。

 ……というのも、俺の家近くのギルドは、冒険者学園のものしかない。

 そして、ここでは学生がアルバイトをしている。つまり、中等部時代の友人と会うかもしれないのだ。


「そういえば、ハイ・ゴブリンを倒した後ってステータスどうだった? レベルアップした?」

「そういえば! 倒したあとに体が軽くなったんだっ、もしかしたらレベルアップしたかも!」


 あのときの感覚がレベルアップなのかもしれないな。

 レベルアップというのは自分の限界を超えた時に行われることが多い。


 ワクワクしながらステータスカードを取り出す。実紅が俺におんぶするようにくっついてきて、覗きこんでくる。

 もうすっかり実紅の定位置になったが、それでもやはり背中に当たる感触には一瞬ドキリとする。

 俺たちはステータスカードをじっくりと見て、


 鏑木健吾『竜胆実紅の敵にのみ使う』

 レベル0

 物攻SS(110)物防SS (110)魔攻SS(111)魔防S(109)敏捷S(108)技術SS(110)

 スキル

 『吸収:EX』

 →『ゴブッチ レベル0』

 →『スラスラ レベル0』


「え!?」

「どうなってんだこれ!?」


 俺たちは揃って声をあげる。

 取り出したステータスカードがバグっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。