第十四話 ユニークモンスター1
それから平日の放課後はひたすら迷宮に潜り、気づけば土曜日となった。
実紅と話して、毎週日曜日は休養日と決めた。といっても、学校の課題であったり、買い物だったりと、私生活の準備をする日と考えたほうがいい。
まあ、迷宮に入らない分、体を休められる。
迷宮は体の疲労が大きいからね。
というわけで、今週の仕上げともいえる土曜日だ。
……目標としては、第三階層での戦闘だ。
これは決して無謀ではない。今の俺たちなら、十分に戦えるだけの成長をしてきた。
実紅の迷宮に移動しながら、俺はステータスカードを取り出した。
鏑木健吾『竜胆実紅の敵にのみ使う』
レベル0
物攻S(100)物防S (100)魔攻S(100)魔防S(100)敏捷S(100)技術S(100)
スキル
『吸収:EX』
→『ゴブッチ レベル0』
→『スラスラ レベル0』
ステータスはかなりがんばったこともあって、すべて100に到達していた。
改めてそのステータスを見た実紅は、
「……相変わらず、凄いステータスね」
そんなつぶやきとともに頬を引くつかせていた。
というのも、ステータスが100に到達したところを、彼女はほとんど見たことがないそうだ。
その前にレベルアップするのが当たり前だからだ。
「……どうしたらレベルアップできるんだろうな?」
「それがわかれば世の冒険者も苦労しないんじゃないかしら」
「だよね」
はぁ、とお互いため息をつく。
ステータスの限界は100なため、レベルアップしないと今後の狩りが無駄になる。
だから、なるべくより深い階層に行く必要があった。
ここまでステータスがあがったこともあって、今の俺は一、二階層の魔物相手なら問題なく戦えるようにもなった。
いつもの通り、実紅の迷宮一階層に降りたところで、俺はゴブッチとスラスラを召喚する。
「ゴブ!」
「スラ!」
二匹は登場と同時に、ポーズをとる。ゴブッチは持っているパイプを天井へ向け、スラスラはその場でびよーんと体を伸ばす。
この二匹もかなり成長して、今では頼れる仲間たちだ。
「ゴブッチ、スラスラ。今日は三階層に向かうから、二階層までは先行してくれ。一応、ゴブッチには閃光魔法石も渡しておくぞ」
ゴブッチがアイテムを入れておける袋を渡す。ゴブッチはアイテムを適正に使い分けられるだけの頭脳がある。正直いって、それらができるのがかなりありがたい。
「閃光魔法石を使うときは、きちんとみんなに合図を出すように」
「ゴブ!」
といっても、俺の戦いを見てきたからか、きちんと投げる前には合図を出してくれる。
賢い仲間だ。
「それと、スラスラにはいつものようにポーションね」
傷を癒してくれるポーション。それをスラスラに渡すと、ごくごくと飲んだ。
スラスラはそれを三本飲んで満足げに跳ねた。
スラスラは攻撃、回復の二つができることが発覚した。
スラスラは自分の体内にポーションを保管しておけるらしく、三日前からはこうして最初に飲ませている。
ポーションの回復要素を取り出し、それを仲間に吐きつけることで回復させられる。
きっかけは俺がポーションを飲んでいたときだった。スラスラが飲みたそうにしていて、まあそんなに高くないしというわけで一本渡した。
その後の戦闘で、ゴブッチが大ダメージをもらったところで、スラスラが回復してあげていたんだ。
ただ、ポーションを仲間に使うときは、唾でも吐き掛けるような感じなので、人によっては受け付けないかもしれない。
ゴブッチとスラスラが先行し、俺と実紅でその後ろをついていく。
「まさか、一週間とちょっとでここまで攻略できるようになるとは思っていなかったわ」
「実紅の補助があったからこそだな」
「そんなことないわ。仲間の召喚、戦闘での立ち回り、連携の指導――それらは基本的に健吾がやってるじゃない。健吾の力よ」
実紅が笑って俺の背中にぴたっとくっつく。迷宮内の移動は、こんな感じで背後霊のようについてきていた。
……重さは感じないが、色々な感触が伝わってくる。
「相変わらず、顔真っ赤にしてカワイイわね」
「……うるさい」
なかなか、その感触になれない。実紅は気にしていないのか、それとも俺をからかうためか何度かこうして押し付けてくる。
……迷宮内でこうしていられるのは、スラスラとゴブッチが優秀だからだ。
ちょうど、前方にゴブリンの群れが現れた。
敵は三体――それでももう、恐れることはない。
スラスラが体を弾丸のように分裂させ、ゴブリンたちに先制攻撃を放つ。
それに怯んだゴブリンの一体へ、ゴブッチが接近する。
鉄パイプを強く握りしめ、スキルを発動。強打がゴブリンの頭を殴りつけると、倒れた。
数的不利はこれでなくなった。二対二……だが、ゴブリンたちの連携よりもゴブッチ、スラスラの動きのほうが優れていた。
ゴブッチの体にスラスラがまとわりつき、防具のようになる。ゴブリンがゴブッチを殴りつけたが、スラスラがそれを受け止める。
ゴブリンが棍棒を引き抜こうとしたが、スラスラが離さない。物理に関して、スラスラはかなりの耐久力がある。
そこへ、ゴブッチが殴りかかる。脇からもう一体が迫っていたが、そこは無視する。
ゴブッチは目の前のゴブリンを仕留めた。脇から迫っていたゴブリンの棍棒はスラスラが受ける。
スラスラは物理に対して強いが、無傷ではない。それでも、ポーションがあるため回復はいつでもできる。
ゴブッチは体をひねるようにしてパイプを振り回した。
ゴブリンの頭をなぐりつけると、ゴブリンがその場で崩れる。
崩れたゴブリンに、容赦なくゴブッチとスラスラが襲い掛かり、そして仕留めた。
……本当に二匹は強い。
「ゴブ!」
「スラ!」
二匹はドロップした素材を持って俺たちのほうへやってくる。
「お疲れ。ありがとね」
ゴブとスラの頭を撫で、素材を受け取る。
実紅も二匹の頭をなでると、嬉しそうに二匹は再び前線に向かった。
そりゃあ実紅に頭を撫でられればやる気もでるよな。
俺もちょっと撫でてもらいたいという気持ちがないではなかった。
頼んだら、撫でてくれるだろうか。……めっちゃからかってきそうだ。それもまた、カワイイんだけど。
いざというときは俺たちも動けばいいが、一階層では問題なかった。
どちらかという、二階層かな。あそこのスライムはエンチャントがないと厳しい。
魔法、か。
「エンチャントの魔法くらいは手に入れておきたいなぁ」
今後もスライムのように物理攻撃が通りにくい相手がいる。
そういう場合に必要になるが、魔法書だ。
「魔法書はかなり高いわよ?」
「……だよな」
まれに敵がドロップする魔法書というものがある。
魔法書を読むことで、新しく魔法を習得することが可能だ。
……そんな魔法書はもちろん高い。簡単にいえば、スキルが一つ増えるようなものなんだからな。
実紅が火魔法の使い手になったのも、いくつかの魔法書を読んだこと、またそれらを使い続け、派生スキルを獲得したからだそうだ。
それから何度かゴブリンたちと戦っていたが、二階層にはすぐに到着した。
ここでもスラスラとゴブッチに任せて、進んでいく。
三階層までの道のりは昨日確認済みだ。
途中、実紅のエンチャントに頼りながらも、スライムたちを倒し、素材を集めながら進んでいき――。
三階層に到着した。
ここで厄介なのは、スライムとゴブリンが同時に出現することだ。
階層が深くなれば魔物の強さもそれに合わせて上がっていく。
……スライムは実紅のエンチャントか魔法がなければ倒せない。だから、ゴブリンは俺たちで戦う。
「いいか、スラスラ、ゴブッチ。これからの戦いでは敵を倒すことよりも、実紅の魔法までの時間を稼ぐことを優先する」
「ゴブゴブ」
「スラ!」
連携についての打ち合わせをしているときだった。
ぞくり、と悪寒が走った。続いて、激しい咆哮――。
「……な、なんだ?」
「もしかして――」
実紅の表情が険しくなる。
声のしたほうに視線を向ける。そこには、見たこともないゴブリンがいた。
「……進化、したのかもしれないわ」
「なんだって……?」
迷宮内の魔物には、稀に同じ魔物を殺すことができるユニークモンスターがいる。
それらは魔物を仕留めることで、俺たちと同じように成長できてしまう。
それらは、異常な強さを持っている。気づかれる前に、逃げる必要がある。
だが――進化したゴブリンはこちらに気づくと恐ろしい勢いで迫ってきた。




