第十三話 仲間2
迷宮で一番厄介なのは、それほど階層ごとに違いが見当たらないことだろうか。
そのため、現在自分が何階層にいるか分からなくなることがある。
迷宮内を移動するためのスキルを持っている人なら、そういう事態に陥ることはないが、俺は持っていない。
そんな冒険者たちは階層に入った時間と、現在の階層をメモしておくのがいいといわれている。
まあ、まだ二階層だ。そこまできっちりする必要もないんだけど。第一、実紅が把握できているらしいし。
スライムを探して、第二階層を移動する。
スライムは……すぐにみつかった。
ゴブリンと違い、群れで移動しているものは少ない。
一体はサッカーボール程度だろうか? 液体の塊のようなものに目と口がついていた。
……他の迷宮で見たスライムと違って、ちょっと可愛らしい。あれはぜひとも仲間にしたい。
「スライムは物理攻撃が効きにくかったよね、確か」
「ええ、だからエンチャントで武器に属性を付与して攻撃するか、魔法で攻撃するのが基本ね」
「実紅はエンチャントも使えるの?」
「火属性なら、使えるわ。すでに準備完了よ」
俺とゴブッチにエンチャントがかかる。
ぴくり、とスライムが反応して周囲を見る。
そして、こちらに気付いた。恐らく魔力に反応したのだろう。相変わらず、ここの魔物は反応が速い。
「次の攻撃魔法までの戦闘をお願いね」
俺とゴブッチはスライムへ近づく。
スライムを俺たちの接近を黙ってみているわけではない。その体が何度か脈動すると、まっすぐに俺へと飛んできた。
それはまるで弾丸だ。寸前で足を止め、かわした。
スライムが地面に着地。次にはまた発射された。
見た目のわりにかなり機敏だ。
体当たりを行ったり、スライムの体の一部を剣のようなものに変化させて殴ってくる。
スライムは……少なくとも俺の知るスライムはF級の魔物だ。
魔法以外が通りにくいので、F級になっているが、魔法を使える人からすればゴブリンより弱いのでは? といわれているほどだ。
俺とゴブッチは互いに距離をあけ、攻撃に巻き込まれないようにしていた。
と、スライムは一度距離をあけ、その体をぷるぷると震えさせ――次の瞬間弾けた。
それはショットガンとでも言おうか。
散弾のようにはじけたスライムが、俺にもぶつかり、衝撃に弾かれる。
……予想もしていなかった一撃に、回避が間に合わなかった。あんな攻撃もあるのかよ!
スライムはすぐに合体して、また突進してくる。
くっ! 目のようなものがあるのだから、閃光魔法石も効くだろう。
タイミングよく放り投げると、スライムの動きが止まった。
俺とゴブッチで何度か攻撃したあと、実紅の魔法が仕留めた。
「……想像以上に素早い魔物だったな」
「そう、ね。ここまで強いスライムなんて初めてだわ。でも、健吾も動きについていけていたわね、凄いわよ」
「まあ、実紅の魔法があるって思えばな」
フィニッシャーがいるというのは心強い。
それらが、あるかないかで、心の余裕が随分と変わってくる。
いつまで続くかわからない戦闘を続けるのは厳しいからな。
本当、実紅のおかげで何とか攻略できてるな。
「ゴブ!」
ゴブッチが素材を回収してくれたので、アイテムボックスにしまう。
腕時計を見ると、もういい時間だった。
「そろそろ帰るかな。また、一階層と地上につながる階段で素材とかの吸収はしようと思う」
そろそろ、19時半になる。地上に出て、家に帰ればいい時間だろう。
「そうね。お疲れ様、二人とも」
とはいえ、まだ一階層を抜けて戻る必要がある。
戦闘は行わず、さっさと一階層を目指して移動すると、それほど時間をかけずに戻れた。
階段に腰かけ、ステータスカードを取り出す。
「やっぱり新しい魔物を倒すとステータスの伸びが高いみたいね」
のぞき込んできた実紅にうなずく。
スライムを倒したあとで、すべてのステータスがあがっている。
これは、魔石による強化も期待できそうだ。
問題は素材と魔石を吸収した後だ。
俺がそれらを吸収すると、ステータスが変化した。
鏑木健吾『竜胆実紅の敵にのみ使う』
レベル0
物攻S(95)物防A(88)魔攻A(80)魔防A(86)敏捷A(88)技術S(93)
スキル
『吸収:EX』
→ 『ゴブッチ レベル0』
→『スライム』
やった。スライムが新しく増えた。
俺はさっそくスライムを召喚することにした
現れたのは先ほど戦ったのとほぼ同じスライムだ。同時に、ステータスカードの表記が『スライム レベル0』になった。
「スラ―!」
びしっとスライムは片手のようなものを作り、アピールしてきた。
やはり、スライムも実紅が見えているようで、俺と実紅に合わせて敬礼のようなものをしている。
ゴブッチにも気づくと、スライムはシュタッ! とさらに敬礼した。
「……か、カワイイわね」
実紅はスライムがたいそう気に入ったようだ。
頭を軽くなでると、スライムは心地よさそうに目を細めている。
俺も触れてみる。ぷにぷにで気持ち良いな。ちょっとひんやりしているので、夏場とか枕にしたいかも。
「スライムの名前どうしようか」
「……そうねぇ。戦闘のことを考えると必要だけど……スラ、スラ……」
と、実紅が考えているときだった。スライムがぴょーんとはねた。
「スラァ!」
「スラスラがいいのか?」
「スラスラァ!」
スラスラがいいみたいだ。
じゃあそれでいいか? と実紅を見ると、彼女も頷いている。
「それじゃ、よろしくなスラスラ」
「スラッ」
「何かわからないことがあったら、先輩に聞くといい」
いうとゴブッチが胸を張る。
スラスラが片手を伸ばすと、ゴブッチもその手を握る。
「それじゃあ、明日からは二匹の育成しないとだな。ちなみに、三階層は何が出るんだ?」
「三階層は、スライムとゴブリンだわ」
「なら、休日にはそこに挑めるくらいに成長したいな」
「そうね……これだけのペースで成長できるなら、十分可能だわ。……ゴブッチとスラスラもいるしね」
「そっか……それならよかった」
「本当……あなたのステータス、異常なくらい凄いのよ」
「それじゃあ実紅のおかげだな」
実紅がいなければ魔物は倒せていないからな。
実紅に感謝していると、彼女は後ろで手を組んで微笑む。
「そういってくれるの、嬉しいわね」
「そ、そうか?」
上機嫌の実紅とともに外を出ると、後ろで組んでいた手がこちらに伸びてきた。
「一緒に歩いて帰りましょうか」
「……そう、だな」
ぎゅっと手を握りあって夜の街を歩く。
ステータスは順調にあがっている。あとは、いつレベルアップしてくれるかだな。
焦らず、ゆっくりと……俺は実紅とともに、家へ向かった。




