第十話 竜胆迷宮5
一階層と地上をつなぐ階段に座る。
ステータスカードを取り出してゴブリンを見る。
『ゴブッチ レベル0 5:55:34』。
表記が変わっていた。
今も一秒ごとに一番うしろの数字が減っている。
「再召喚までの時間ってことか?」
「……かもしれないわね。ていうか、きっとそうよ。サーヴァントカードもこんな感じだったのよ」
それなら、この予想で間違っていないだろう。
ほっとしたように実紅が息をつく。……本気で心配していたからな。
実紅がようやく安堵できたようで、俺も安心だ。
「再召喚まで、六時間って感じかな?」
「恐らくそうね」
ここまでの移動に五分程度かかっていたし、きっとそうだろう。
何やら実紅は考えるように顎に手を当てていた。
「どうしたの?」
「ちょっと……色々できそうだなって思ってね」
「色々?」
俺が問うと、彼女は少し悩むようにうなずいた。
「その……えっと、酷いとか言わない?」
「もちろん」
「例えばよ。敵の強さを知るために、ゴブッチとかの仲間をけしかけるとかもできそう」
「……酷い」
「酷いって言わないって言ったじゃない!」
「じょ、冗談だって」
ちょっとだけ、実紅の反応が見たくて言ったのだが、彼女はふんっとそっぽを向いてしまった。
まずい、怒らせてしまった! その姿も可愛いのだが、今はそれ以上に焦りがあった。
「……まったくもう。あなたに嫌われたらって思ったらどうしようかと思ったのよ」
「ご、ごめん」
「それじゃあ、さっき騙した罰よ」
そういって彼女はふわりと浮かび、幽霊のように空中を移動し、俺の隣にくっつくように移動してきた。
「ちょ、ちょっと実紅……っ」
「罰として、今はくっつかせてもらうわね」
ば、罰っていうかそれご褒美だ!
けど、確かに! ドキドキと心臓が高鳴るので、罰というのは正しいかもしれない。
俺は深呼吸して、自分を落ち着かせる。
とりあえず、ゴブッチが無事なことは確認できたので、次は吸収の時間だ。
今回調べたいのは、スキルに新しくゴブリンが追加されるところだろうか。
それが可能なら、とりあえずゴブリンでチームが組める。数の暴力で迷宮攻略だってできるかもしれない。
もう一度吸収を使用する。また一つずつ……だが、一回目ほどステータスはあがっていないし、スキルが新しく追加されることもなかった。
鏑木健吾『竜胆実紅の敵にのみ使う』
レベル0
物攻A(83)物防B(72)魔攻C(67)魔防B(71)敏捷B(71)技術A(81)
スキル
『吸収:EX』
→『ゴブッチ レベル0』
「……相変わらず凄い成長ね」
「確かに、昔と比較したら……凄い進歩だな」
ステータスの最高数値は100だ。この調子なら、100だって近い。
あとは、いつレベルアップできるかってところだな。
「ただ、ちょっと心配なのは、同じ魔物だとそこまで成長しないってところかしらね?」
「そう、だな。……この調子だと次あたりからは素材を吸収しても+1くらいしかされそうにないね」
「……いやまあ、それでも十分異常なんだけどね」
実紅の頬が引きつっている。
ステータスの上昇はなかなか難しいと聞くからね。
「とりあえず、無理のない範囲で魔物を狩っていく方針で今後も魔物を狩っていくってわけだな」
「そうね。結局、魔物の素材がないとステータスもあげられないしね」
基本の方針は固まった。
今は一体のゴブリンとしか戦えていないが、いずれは複数のゴブリンとも戦えるようにしたいな。
それからもう三体ほどゴブリンを仕留めたところで、俺は迷宮を出た。
〇
今日一日で、合計五体のゴブリンを倒した。
それでもう体がくたくただ。原因は一体倒したら、逃げるように移動して……を繰り返していたからだ。
「魔石のほうが強化はよかった……かな?」
全部で五個の素材と四個の魔石を吸収しての感想だ。
そして予想通り、三回目からのステータス上昇は微々たるものだった。
それでも、昔に比べたら全然いいけどな……。俺が冒険者学園中等部で暮らした三年間。そこであがったステータスって+20くらいだからな……。
まあ、基礎基本を学べて、それを実紅に褒めてもらえるから悪いことばかりでもないけど。
吸収について検証できたのは魔石、素材合わせ五回だ。
まだ確定するには少ないが、それでもたぶんこれが覆るということはないんじゃないかな?
「基本的には魔石のほうが優秀だと思うわ。ただ、もしかしたらレア素材とかだとまた違ってくるかもしれないわよ?」
「あー、そういえばそんなのもあったなぁ。……けど、レア素材って結構高額でやり取りされるし、売っておきたいのもあるかも」
「そうね。けど、一度くらいはやってみるのもありかもしれないわね」
だな。
それで低かったら、次からは売ってしまえばいいんだ。
……結局閃光魔法石を何度か使っているので、今後のことも考えて金策をしておきたい。
「けど、ゴブリン相手に一対一で動けるようになったし、明日が楽しみだな!」
「明日も迷宮に潜るの? 健吾、今週どのくらい迷宮潜ってたの?」
「えーと……放課後は毎日、かな」
「それなら、明日は休みにしておいたほうがいいわ」
「け、けど……」
「私のことならゆっくり確実に助けてくれればいいわよ。そんな焦ったって仕方ないんだしね」
「……」
彼女の言う通り、今日も含めて疲労がそれなりにたまっていた。
無理して怪我とかしてもバカみたいだ。
「それに、今の健吾って一般校よね? 冒険者学園と違って、迷宮に潜ってさえいればいい、わけじゃないわよね?」
「……そ、そう、だな」
宿題とか、課題とか……色々あるものを思い出し、詰め寄ってきた彼女から視線を逸らす。
「私を助けたあと、冒険者を続けられるかわからないでしょう? 高校中退とかになっちゃったら、まずいでしょう?」
「……そ、そうだな」
実紅との今後も考えたら、きちんと学校に通わないとだ。
……実をいうと、ある程度休んで迷宮に潜ることも検討していたんだが、それを口に出したら実紅に怒られそうなのでやめた。
俺は一つだけ残しておいた魔石を実紅に見せる。
「そういえば実紅。一つだけ魔石を残しておいたほうがいいって言っていたのはどうしてだ?」
「あのゴブリンからドロップする魔石、たぶんE、D級魔石なのよね。ゴブリンの素材よりもお金になるし、何より……私が魔道具を作れるわ。だから、必要なものがあれば言ってちょうだい」
「……そういうことか!」
閃光魔法石を毎回買っていたら、出費が馬鹿にならないからな……。今後の狩りの調子次第だが、彼女にお願いして魔道具は基本的に作ってもらったほうがいいのかもしれない。
方針がだいたい決まったな。
ステータスの上昇はゴブリンの討伐と、魔石による上昇。
ゴブリンの素材は、もうロクにあがらなかったし、ギルドにもっていって少しでもお金に変えたほうがいいかもしれない。
また、本当にお金に困るか、武器や防具が欲しい場合は魔石も売ってお金を貯める、か。
魔石に籠められる魔法は、基本的に魔石の質に応じて限界がある。
G級魔石に籠められる魔法とS級魔石に籠められる魔法では、その限界が大きく違う。
先ほどの閃光魔法石、爆弾魔法石は両方ともE級魔石を使用したものだ。
E級魔石でも、魔道具となれば結構な値段だ。
ただ、今後実紅が作ってくれるのなら、その出費がなくなる。
……よし、順調だな。
家についたところで、実紅がキッチンに向かう。……今度、エプロンとか買ってこようか? エプロンつけている実紅の姿が見てみたかった。
「一日、お疲れ様。ごはんは準備するから、シャワーでも浴びてきたらどう?」
「実紅は疲れてない?」
「私は基本魔法だけだしね。移動はあなたに憑依するようにくっついてたし」
彼女はそれこそ背後霊のようについてくることもできた。途中からずっと張り付いてきて、色々柔らかいのが当たってそれどころじゃなかった。
俺はお言葉に甘えて、シャワーを浴びに行く。
学校か。
学校ともなると実紅とも離れ離れになってしまう時間ができてしまうのだろうか?
ちょっと寂しいな。




