第九話 竜胆迷宮4
発動した瞬間、手にもつステータスカードにあった『ゴブリン』の文字が変化した。
『ゴブリン レベル0』というものになって、なんとなく察したね。
次の瞬間、階段にすっと現れたのはゴブリンだ。
「ゴブ!」
ゴブリンの登場に実紅が驚いたように目を見開いた。
……それは俺も同じだ。
だってこれって、要はサーヴァントカードと同じことができてるんだからな! しいて違いをあげるなら、サーヴァントカードの場合、人間とそっくりの魔物が召喚できる。
俺の場合は、どちらかといえばサモン系スキルに似ているのだろうか?
「……吸収した魔物を召喚できる、ということかしら?」
「まだ、一体だけだからわからないけど、その可能性は十分あるな……」
「この先、たくさんの魔物を仲間にしたら、全部召喚できる……ってことかしら? だったら、心強いわねっ」
「そうだな! そうだったらいいな!」
この階層にいるゴブリンたちだってかなり強いんだからな。それと同じ強さのゴブリンが仲間にできたのなら、心強いなんてものじゃない。
ただ、少し不安があり、俺はゴブリンを見る。
ゴブリンは先程俺たちで倒したのとは違う姿をしている。
どこか可愛らしさがあった。
……なんだろうか。デフォルメされたゴブリンという感じだ。このままぬいぐるみとして売り出しても問題なさそうな感じ。
そんなゴブリンは手に小さな棒を持っていた。鉄パイプみたいなそれが、武器だろうか?
こちらに気づくと、きゃっきゃとはねている。
「子どもみたいでちょっと、カワイイわね」
実紅が手をのばすと、ゴブリンもそれに気づいたようだ。
嬉しそうにさらに大きく跳ねた。
「実紅のこと見えているみたいだな」
「あなたが召喚したからかしら?」
「……かもしれないし、ここが実紅の迷宮っていうのも関係しているかもね」
「まあ、それはどっちでもいいわね別に」
そうだな。
ゴブリンが大きく跳ねたときだった。階段を踏み外し、ゴロゴロと転がっていった。
まったく。ただ、怪我はしていないようで、すぐに戻ってきた。
ちょっと反省、という感じで頭を下げている。
さて……仲間としてゴブリンを召喚できたのはいい。
問題は――
「ゴブリン。何ができるんだ?」
「……ゴブ!」
「も、もしかしてわかるの健吾?」
実紅の期待するような目に、首を横に振る。
「わからん!」
「ゴブー!」
「……そうなのね」
ゴブリンも実紅もちょっとがっかりしている。
し、仕方ないだろ。わからないんだから。
「とりあえず……敵でゴブリン出てくるし、名前でも決めておいたほうがいいかな?」
指示を出す時とかゴブリンと呼ぶと混乱するだろうしな。
俺の言葉に、ゴブリンは目を輝かせていた。
「名前、ね……ゴブリンをもじった名前とかかしら?」
「将来を期待してつけるのもいいかもな。ドラゴンとか」
「ご、ゴブ!」
ぶんぶんと首を振るゴブリン。さすがにそれは荷が重いみたいだな。
俺が考えていると、実紅がぴきーんと目を輝かせて口を開いた。
「それじゃあ……ゴブッチとか?」
なんていい名前なんだ。
「どうだゴブリン?」
「ゴブーっ!」
「嬉しそうだし、それでいいか」
ゴブリンは首を縦に振る。
それから俺は、ゴブリンに手を向ける。
「それじゃあよろしくなゴブッチ」
「ゴブ!」
とりあえず、スキルはこんな感じか。
「……あとは、ゴブッチがどのくらい戦えるかよね? もしも、一階層のゴブリンたちと同じくらいなら……かなりの戦力アップになるわね」
「そう、だな。……それの確認も含めて、もう一度戦いに行くか。だいぶ体力も回復したし」
もう先程の戦闘の疲労は残っていない。
今度はゴブッチを連れて、一階層に向かう。
「ゴブッチ、俺たちは敵にデタラメに攻撃しないんだ。とにかく、一体のゴブリンを狙って戦うようにする、いいな?」
「ゴブ!」
「……けれど、ゴブッチ。あなた仲間と戦うことになるけど、大丈夫かしら?」
「ゴブゴブ!」
ブンブンと手に持ったパイプを振り回している。
やる気満々である。
「『お、俺には仲間を殺すことなんてできない!』みたいな葛藤はないの?」
妙に迫真の演技だ。実紅は結構漫画とか好きなのかもしれない。
「ゴブ!」
ない! といったのはわかった。
これなら問題なさそうだ。
ゴブッチとともに歩くこと数分。群れから離れたゴブリンを見つけた。
魔法の準備が整ったところで、攻撃へと向かう。
「ゴブ!」
ゴブッチが殴る。
しかしまったく効いている様子はない!
ゴブリンがゴブッチをにらみつける!
ゴブッチに棍棒を叩きつけた!
ゴブッチが消滅した!
待て待て!
感傷に浸っている暇もない。今の一瞬で起きた出来事を把握するより、ゴブリンと戦わないといけない。
「ガァ!」
こっちのゴブリンと比べて吠える声も迫力あるなぁ!
持っている棍棒だって、ゴブッチより強そうだ。
そして、それを見てから、かわしきる。
……ステータスが向上したからか。随分と動ける。
さっきまでのギリギリの戦いが嘘のようだ。
これなら、魔道具の使用も抑えられるだろう。
だからといって、無理はしない。
ゴブリンの攻撃が激しくなったところで、俺は閃光魔法石を放り投げた。
ゴブリンが両目を押さえて、うずくまる。
今だッ!
ゴブリンの腕へと剣を振り抜く。
……さっきよりも手応えがあるぞ!
これなら、削れる……っ。
真っ先にやるのは、相手の機動力を奪うこと。
俺は執拗に片足を狙って切りつける。
「魔法、行くわ」
実紅の声に合わせ、俺は後退する。
闇雲に棍棒を振り回していたゴブリンに、火魔法が襲いかかる。
ゴブリンが体を起こしたが、かなり削られているようだ。
すかさず、飛びかかり、剣を振り抜く。ゴブリンの喉を剣が捉え、ゴブリンが膝から崩れ落ちた。
そして、魔石と素材だけが残った。
……やった。倒せた!
俺はすぐにそれを回収し、この場から離れる。
「健吾……動きがかなり良かったわね」
「……そうだな」
それは自分でも思っていた。
もしかしたら、この迷宮内だと俺の動きがよくなっている?
初めの戦闘ではゴブリンが強すぎたので気づかなかった。
「あなたの戦いを見ていて思ったのは、レベル0のステータスとは思えないのよね……」
「そう、なのか?」
実紅が滅茶苦茶驚いたような顔をしている。それが普段見ない表情でやっぱり可愛い。
ただ、多少疑問もある成長したレベル0ならこのくらい戦えるのではないだろうか? というものだ。
「たぶんだけど、あなたのステータスは普通のレベル0よりも優れているわ。以前ここに来た冒険者がいると言ったでしょう?」
「そう、だな。確かに、言ってたね」
「そのときの冒険者たちはゴブリンにも勝てずに逃げたのよ? まあ、あれはゴブリンの集団に挑んで、さらに集団のゴブリンに囲まれていたってのもあるけど……それでも、一体も倒せなかった」
「……そうなんだ。ってなると、俺のステータスはこの迷宮内で数値にでない補正がかかっている、とか?」
「その可能性もあるわね」
「まあ、なんでもいいけど、強いんだったら強いでいいかな。そうすれば、実紅を助けられるんだしな」
「……そうね」
「それと……あとはゴブッチだな」
「……死んじゃったの?」
実紅が今にも泣きそうな声をあげた。
……とりあえずステータスカードを見てみるか。




