episode14.5 受付嬢フェイのミス
「休憩頂きました~」
「お帰り。んじゃ私は上がるよ」
「わかりました!お疲れ様です」
休憩から戻った私と入れ替わりで、シェリル先輩の業務が終わった。
ここ冒険者ギルドは、シェリル先輩が帰る時間にはだいぶ落ち着きを取り戻し、クエストを受けに来たり魔物の素材を売りに来る冒険者の数も少なくなるから、私一人でも対応出来るようになるのです。
「はぁ~それにしても今日は色々とあって疲れたわ」
「アハハハ。そうですね」
金髪の綺麗な髪を整えながら、シェリル先輩がため息をついた。
シェリル先輩の色々とは、多分クラウン様の事を言ってるんだと思う。
最初は仮面を付けた変な人が来たな~って思っていたけど、その仮面の下には……あわわわっ今思い出しても顔が熱くなってしまう程に格好良かったのですよ。
冒険者登録を済ませた後にプレート発行してる間に、新人狩りのダグラスに決闘を申し込まれた時は決闘なんて受けないで欲しいって強く思ったのに、クラウン様は決闘を受けてしまった。
冒険者ギルドも強く言えない厄介者のダグラスだけど、その実力は他の冒険者も認める程で、新人狩りなどしてなければ銀級になれると噂されていたぐらいだから、本当に終わったって思っていたのに、一番最初にクラウン様が受付に戻ってきた時は、あのダグラスに勝ったのだと心底驚いた。
「まさかあのダグラスに勝つなんてねぇその後の「持ち物全部回収だ!」とか急に言われて運び出すの、凄い疲れたわ」
「それは、お疲れ様でした」
「そこに奴隷が三人もいたんだけど、痛々しい姿だったわ……あぁぁ!今思い出してもダグラスにイラつくわ!」
「あの三人ですよね。確かに痛々しい姿でした。でも、やっとダグラスから解放されて良かったですよね!」
ダグラスの家にギルドの職員が持ち物を回収しに行った時に、奴隷が三人いたみたいで私も三人の姿は見た。最初ギルドに来たときのあの表情は……
それに、ボロボロの服に痩せ細った体。大小様々な大きさの痣がいくつもあった。たとえ奴隷だろうと、女性に対してあそこまでするなんて……
「まぁあのクラウンって人がどんなのなのか分からないけど、ダグラスよりはマシな事を祈るわ」
「クラウン様なら、きっと大丈夫ですよ!」
「その自信はどこから来るのやら」
クラウン様なら、きっと大丈夫!だって最初に会ったときの三人の表情はとても暗かったけど、クラウン様と出ていく時の表情は、最初に会った時より明るくなっていたから。
きっとクラウン様なら、大事にしてくれるはず。
「ふぅとりあえず私は帰るわね。さぁて飲み行くぞ~」
「飲みすぎには注意してくださいね」
「フェイも終わったら来なさいよ~いつもの場所でやってるから」
「アハハハ~行けたら行きますね」
「はぁそれ絶対に来ないやつじゃない」
ため息ををつくシェリル先輩に申し訳なさを感じながら、やんわりと断る。
だってシェリル先輩酔ったら色々とめんどくさいだもん。
この前だって、男にフラれた!飲むぞ!って誘われて飲みに行ったら泣くわ怒るわで色々大変で、最後には「この体が悪いのか!」なんて言って店の中で脱ぎ始めたんだから。
「あ、そうだフェイ!あんたあの仕事やって無かったでしょ?」
「あの仕事?」
「はぁフェイ~あんた完全に忘れてたでしょ。朝ギルド長が言ってたでしょ「魔物の繁殖期が確認された。深淵の森へのクエストは危険度が判るまで発行しないこと」って」
「あっ!!」
「あんたって子は……とりあえず、さっきまで貼ってあった深淵の森へのクエストは私が剥がして置いたから」
「本当ですか!ありがとうございます!!」
「感謝しなさいよ~ってことで、今日は終わったら来なさいよ」
「は、はぁい」
これで、シェリル先輩との飲み会が確定してしまった!でも、感謝してるのは本当なので楽しく飲みたいな。
そうだ。繁殖期の事を色々とあってすっかり忘れてた。確か繁殖期は
魔物は繁殖期に入ると、強さが変わってくる。より狂暴性を増してゴブリンでさえもその危険度は一番下のEランクからDランクへと上がる程だ。
そして繁殖期に入った魔物の一番怖いことは、群れで行動すること。
それは雌を守る為に自分達のテリトリーを作る。そこに入った者は同じ種族の魔物でも容赦なく殺すのだ。
その群れをは10~20体で構成されてる。
群れを率いるのは、その中でも一番強い魔物が率いており、そんな群れが何十と形成されるのが繁殖期だ。
って教えられたはず!
「私が見てきた中では、深淵の森へのクエストを受けた冒険者はいないようだから安心しなさい」
「本当ありがとうございます!これで楽し……あっ!!」
「ちょっ!何よ急に大声だして!」
「あ、あの!私やっちゃいました」
「フェイ……あんたまさかっ!」
「はぃ。クラウン様へ薬草採集のクエストを……渡してしまいました」
ヤバイ。ヤバイヤバイ。
あの時確かクラウン様は薬草採集のクエストを持ってきた。
あの時私は繁殖期の事なんてすっかり忘れて、そのままクエストを受理してクラウン様を見送った。
時刻はすでに夕方をまわってる。クラウン様がギルドを出たのは、かなり前だから既に深淵の森へ行っててもおかしくないよね……
「ど、どうしましょう!どうしたらいいですか!!あっ!さ、探しに行かなくちゃ!」
「あっ!ちょっとフェイ!!」
もう深淵の森に行ってるかもしれないけど、もしかしたらまだ行ってないかも知れない!
そう思って急いでギルドを飛び出した。後ろでシェリル先輩が何か言ってるけど、ごめんなさい!後でいくらでも聞きますから!
「すいません!仮面を付けて三人の女の子を連れた人を見ませんでしたか!?」
オレンジ色に染まる空の下、行き交う人達一人一人に聞いていく。
どうもクラウン様は噴水広場で何かをやっていたみたいで、道行く人の大半がクラウン様を知っていた。
けど、どこに行ったかを知ってる人は、誰もいない。
そんなとき
「フェイちゃんじゃないか。仕事終わりかい?」
「オズマさん!」
諦め掛けていた私に声を掛けて来たのは、宿屋ルーキーのオズマさん。
買い物の帰りみたいで、その太い腕には何個も買い物袋がぶら下がってる。
「あの!オズマさん!仮面の付けて三人の女の子を連れた人を見ませんでしたか!?」
「あぁその人なら、うちの宿に泊まってるよ」
「本当ですか!その人に用があるんです!案内してもらってもいいですか!?」
「勿論さね。ついてきな」
良かった!クラウン様は宿に泊まってるんだ!やっと見えた救いの光に、不安が消えてくれた。
オズマさんに付いていきながら宿屋ルーキーに向かい、クラウン様が泊まっている部屋の番号を教えて貰い直ぐに部屋へと向かう。
「すいません。冒険者ギルドの者ですけど、クラウン様はおりますか?」
三回部屋のドアをノックして声を掛けるが、反応が無い。
もしかして……もう深淵の森へ行ってしまったのだろうか……
もう一度ドアをノックしようとした時に、部屋のドアが開いた。
「はい。どうかなさいましたか?」
ドアを開けてくれたのは、クラウン様と一緒にギルドを出ていった奴隷の女の子のうちの一人。
茶色の髪と瞳が特徴の三人の中で一番年上に見えた女の子だった。
「冒険者ギルドの者ですけど、クラウン様はおりますか?」
「えっ?ご主人様なら、冒険者ギルドに行くと言って出ていったのですが……」
「そう……ですか」
女の子が驚いている。私も驚いている。
クラウン様は冒険者ギルドに行くと言って、部屋を出たのにあれから冒険者ギルドへは来てない。と言うことは……
そう思うと、涙が出てきそうになる。私のミスで、酷い怪我をしてしまうかもしれない。もしかしたら死んでしまうかも知れない。そんな事を思うと涙が出てくる。
「ご主人様は、冒険者ギルドへは行ってないのですか?」
「……はぃ」
「もしかして、お一人でクエストへ行ったのでしょうか?ご主人様がお出掛けになって結構な時間が経ちますけど、薬草の採集なので直ぐに戻ると思いますよ」
知るはずがない。知っているはずがない。
この女の子が、今は深淵の森の魔物が繁殖期に入ったことなんて……
そしてクラウン様が出ていってから、かなりの時間が経っている。それが示す結果は……
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「えっ?えっと、あの。ど、どうしたのですか?」
「私のミスで!私のせいで……クラウン様が、クラウン様がぁぁ!」
「ご主人様に何かあったのですか!?」
もう耐えられなかった。
涙が止まらない。それでも謝らなきゃ
私のミスでこの子達のご主人様を死なせてしまったかもしれない。
私は女の子に全てを話した。薬草の採集に向かう深淵の森が繁殖期に入った事。繁殖期の事。私のミスでそのクエストを受理してしまったこと。そしてこの時間までクラウン様が冒険者ギルドへ来ていないこと。
女の子の顔は、どんどん深刻な顔になっていく。その表情は、不安や怒り。悲しみが混ざってるようだった。
「だから、もしかしたら……クラウン様はもう…」
「言わないでください!それ以上は……言わないでください」
「っ!!はい……すいません」
「いえ。私も大声を出してしまい、すいません」
「……私は一度ギルドへ戻ります。もしかしたら入れ違いの可能性もありますから」
「……わかりました」
私は女の子に頭を下げ、来た道を戻っていく。階段の前で振り返り女の子を見ると……泣いている。
声を殺して泣いている。
私は罪悪感に蝕まれながら宿屋を出て冒険者ギルドへと戻っていく。
クラウン様が冒険者ギルドへ来ていることを祈って。




