お正月の風景
うん、久々ですが、まあそんなシリーズというかそういう話だということで。
「おはよーう」
目をこすりながら環が台所に入ると、正月だというのに、悠は、柚子と格闘していた。どうりで、なんとなく柚子っぽい香りがした…と、環は納得する。
「悠ちゃん、精がでるね…」
「や、鉄子と散歩に行ったら、貰ったんだよ」
どうやら、公園近くの家の人と出会って立ち話をした結果らしい。
細かく刻んだのと、一センチくらいの巾に切られたものと、皮の剥かれた状態のものと、ボウルにそれぞれ入ったものを見て行く。
毎年の柚子仕事は十二月中に終わっている。ということは、毎年作っている分は終わっているということだ。――何を作るつもりなのだろう、と考える。
「柚子ジャムと、柚子ピール。ちょっとだけお返しするのに丁度良いだろう?」
「柚子ジャム、今年は沢山だね」
「円があるなら使うっていうからさ」
「へえー。何作るんだろう?」
「パウンドケーキとか言ってたけどね、レモンパイの柚子バージョンもちょっと考えてるみたい」
悠の説明に、環は思わず、じゅる、と口の中にたまった唾液をすすった。
パウンドケーキに柚子パイ! と頭の中は、柚子とバターの香りでいっぱいだ。
「ああ、ヨダレが…」
呟く環に、悠は苦笑してみせた。
「朝ごはん、何を食べる?」
「あ、テキトーに食べるよ。悠ちゃんは作業続けて」
朝ごはん、と言ってもすでに十時を過ぎている。昨晩遅くまで本を読んでいたといっても、遅すぎるくらいだ。正月も四日ともなれば、既に疲れがたまっていたなどのイイワケは通用しない。と思いつつも起きれなかったのだから仕方ない、とも開き直っている。
朝から(既に朝ではないが)食欲は充分だ。何にしようかと台所を見回して、雑煮の出汁が残っていることに気付いた。
「おお」
雑煮でも良いが、三日間も食べれば少し飽きてもいる。ここは目先を変えるのが良い方向だ、と、残っている野菜を確認した。
大根、三つ葉、白菜、ニンジン、ネギ…。
「いやいや、ここはやっぱり」
ぶつぶつとひとり言を言いながら、大根と三つ葉を取り出す。
まずは、大根おろしだ。大きなままの大根をそのままガシガシとおろし、必要な量ができたら、切り口をキレイに切り落とす。それを千切りにして、雑煮の出汁に投入し、火をつける。三つ葉もざっと洗って、二~三センチに刻んでおく。餅は表面についている粉を水で洗い流してからキッチンペーパーで水分をとってから、四等分。それから小さ目の鍋にサラダ油を入れた。
油が温まるまでの間に、小どんぶりを用意する。
「揚げ餅か」
「うん。ブランチにするー。あ、海苔も刻もう」
鍋の側に戻って油の上に軽く手をかざし、なんとなく温度を感じてから、火を弱める。それから味付け海苔を取り出して、ハサミで細く刻み、油の前に戻った。
「悠ちゃんも食べるー?」
「うん、昼にするから、環は気にしなくていいよ」
「ホント? じゃあ、自分のぶんだけねー」
出汁は小さく沸騰を始めているので中火にする。すでに朝食で餅を煮たあとの出汁なので、濁っているから、注意が必要だ。小さなヤカンを持ち上げて少し水が残っていることを確認して、出汁に水分を足す。
それから、油の温度を菜箸で確認をして、餅を投入した。
再び温まってきた出汁をお玉で少しすくって味見をし、頷いて火を止める。
餅は少し膨らみかけている。それを菜箸で軽く混ぜ、油から取り出した。箸で持ったまま油を落として、用意していた小どんぶりの中に入れていく。
「油はしまっておいたほうがいいー?」
「出しといていいよ」
「ありがとー」
短くやりとりをし、コンロの火を切ってしまう。出汁を小どんぶりにかけ、その上に大根おろし、さらにその上に三つ葉と刻み海苔を載せると完成だ。
「うーまーそーう」
語尾にハートマークをつけながら、環はうっとりと言った。
と、そこへ、悠が刻んだ柚子を二~三本載せた。
「おおおー!」
なんていう、スペシャル感だろう。
「悠ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
もう、腹の虫は鳴きっぱなしだ。足早に箸を手に持って空いた席につく。
ふと見ると小さな皿に、細く刻まれた柚子の皮があった。どうやら、昼食用のようだ。
環は小さく笑って、手のひらを合わせた。




