第9章:「カルトの生贄」── パート1
KPL-TVの地下編集室には、現像液と定着液の刺激臭が鼻を突くように立ち込めていた。
暗室から上がってきたばかりの十六ミリ反転フィルムは、乾燥器の温風をくぐり、微かな熱気を帯びていた。ケイト・コリンズは編集用ビュワーのハンドルを手動で回し、小さなレンズを通して、前日自分が撮影したカスケード山脈の映像をコマ送りで確認していた。
低コントラストの粗いモノクロ画面の中で、雨に打たれた少年たちが泥の中に膝をつき、鉛のように重いダグラスファーの丸太を肩に担ぎ直している。喘息の発作を起こして顔を歪めるトビー・ジェンキンスの横顔、そして鉄条網の向こうで仁王立ちする黄色い腕章のビリーの姿が、一コマごとに鮮明に映し出されていた。
「ニューヨークのネットワークから回線接続の要請だ」
報道デスクのフォスター(Foster)が、煙草の煙とともに編集室のドアを押し開けた。その手には、大手放送ネットワークのシカゴ支局から届いたテレックスの紙片が握られていた。
「ケイト、お前のフィルムをイブニングニュースの本番で全米中継したいと言っている。買い取り価格は三千ドルだ。クレジットには『KPL-TV ケイト・コリンズ特報』のテロップが入る」
フォスターの声には、過度な興奮はなかった。ただ、地方局の安普請なフロアに舞い込んできた巨大なビジネスに対する、単なる実利的な計算だけが滲んでいた。
「放映の手順は?」
ケイトはビュワーから目を離し、静かな声で尋ねた。
「三十分後の臨時ニュース枠で、まずうちが第一報を打つ。郡保安官事務所が発表した公式コメントを読み上げ、お前の撮ったこの十六ミリを流す。その直後に、ニューヨークの回線にテレシネで映像を流し込む。……見出しは決まったぞ。『カスケードの地獄──名門更生施設で連続殺人の遺体発見』だ」
編集室の小型モニターに、テロップが焼き込まれた映像がテスト送出された。
画面の隅には、シカゴから電送されてきたトビー・ジェンキンスのポートレート写真と、神崎猛が手錠をかけられてパトカーに押し込まれる現場のスチール写真が並んで配置されている。
ケイトは無言で腕を組んだ。
前日、鉄条網の外側で自分が抱いた「過酷なシゴキ(虐待)」という認識は、わずか一晩のうちに「連続猟奇殺人犯の拠点」という巨大な陰謀の枠組みへと姿を変えていた。メディアという機構が、泥にまみれた十六ミリフィルムの断片を、全米が納得する「邪悪な殺人施設」という記号へと瞬時に再構築していく過程を、彼女はプロフェッショナルとしての冷徹な眼差しで見つめていた。
午前七時。ポートランド市街の交差点。
湿ったアスファルトの上に、太い麻紐で結束された朝刊の束が、配達トラックの荷台から次々と投げ落とされていた。
『オレゴニアン』紙の紙面には、網点の荒い大判の写真が刷り込まれていた。泥濘の中で二人の州警察官に腕を極められ、顔を歪めて抵抗する神崎猛の顔写真。その横には、黒枠で囲まれたサラ・ジェンキンスの顔と、正門脇の工具小屋から押収された十四金ペンダントの写真が証拠物件番号とともに並んでいた。
大見出しには、装飾を削ぎ落とした活字が躍っている。
──『カスケード山林に二遺体。著名冒険家・神崎猛を逮捕』
──『失踪の女子大生遺留品、施設内工具小屋から押収。過酷な訓練名目で暴行・殺害か』
大通り沿いにある大衆食堂「クーパーズ」の店内は、トースターの焦げた匂いと、鉄板から立ち上る油煙、そして常連客たちが広げる新聞紙の擦れ合う音で満ちていた。
カウンターの最奥にあるボックス席で、ジェリー・マッケンジー刑事は冷え切ったダイナーのコーヒーに角砂糖を一つ落とした。スプーンでかき混ぜる金属音が、店内の喧騒の中に低く響く。
テーブルの上には、ポートランドで発行される二紙の朝刊が広げられていた。
マッケンジーは、老眼鏡の奥の濁った目で、記事の細部を追っていた。
クラカマス郡保安官事務所のバーンズによる記者発表の要旨。
採取されたマニラ麻ロープの撚り(ピッチ)と太さの一致。遺体の背部に残された挫傷と、押収されたダグラスファー製丸太の寸法的一致。さらに、神崎が当初「暴風雨の中での単独脱走」と主張していたトビー・ジェンキンスについても、過失致死および死体遺棄の容疑で裏付け捜査が進められている旨が、淡々とした警察発表の文体で記されていた。
「おい、読んだかよ」
二つ隣のスツールに座る、給油所の制服を着た男が、広げた新聞を指先で弾いた。
「あのエベレストだかシベリアだかを踏破した東洋人の冒険家だ。親から大金を巻き上げて子供を山奥に集め、裏じゃ若い女を引っ張り込んで丸太で殴り殺してたんだとさ」
「ヒッピーや非行少年を叩き直すって触れ込みだったらしいがな」
向かいのカウンター越しに、エプロンをつけた店主がコーヒーポットを傾けながら相槌を打った。
「結局のところ、大自然だの精神鍛錬だのって言ったって、人殺しの隠れみのに過ぎなかったってわけだ。あんな鬼畜に子供を預けたシカゴの医者もいい面の皮だが、あの女学生たちの親はたまったもんじゃないな」
「電気椅子送りだ。あんなサディスト、裁判にかける時間すら無駄だぜ」
男たちの会話には、何の疑いも挟まれていなかった。
朝刊に印刷された客観的な証拠物件の写真、保安官事務所の公式見解、そしてケイトの画像が提示した「泥にまみれた少年たちの悲惨な光景」。それら複数の要素が、大衆が元々抱いていた「人里離れた山奥の閉ざされた更生施設に対する不気味さ」と一つに結合し、揺るぎない社会的合意を形成していた。
マッケンジーは新聞から目を離し、曇った窓ガラスの外を見つめた。
市街地を走る市電の架線から、青白い火花が散っている。
新聞のどこを読んでも、クリストファー・ベネットの名は影も形もなかった。
数日前までマッケンジーが追っていた「模範的な法学生」に対する疑惑は、この圧倒的なカスケードの事件報道によって脇に押しやられ、社会の関心からすっかり消滅していた。警察の上層部、検察局、そして市民のすべてが、神崎猛という「絶妙な容疑者」の存在によって満ち足りていた。サディスティックな教育論という動機、押収されたロープと丸太、敷地境界という遺棄現場、そして工具小屋から出た被害者のペンダント。検察局が大陪審を通過させ、有罪評決を勝ち取るために必要な要件は、捜査報告書の紙面の上ですでに何一つ破綻なく揃っていた。
マッケンジーは、ポケットから折れ曲がった煙草を取り出し、マッチを擦った。
立ち上る紫煙を目で追いながら、彼は自らがこれから対峙しなければならないものの強大さを噛み締めていた。それは、一人の狡猾な殺人鬼だけではない。証拠という名の厳然たる障壁と、それを疑いなく飲み込む市民社会の心性だった。
冷めきったコーヒーを一気に喉へ流し込み、マッケンジーは伝票と小銭をテーブルの上に残して席を立った。彼の足取りは、濡れた重いトレンチコートに引きずられるように、鈍く、重かった。




