第7章:「裏切りの導火線」── パート2
シンシアは、アパートのキッチンの窓から、ブラインドの隙間をほんの数ミリだけ押し下げて外を見下ろした。
(……まだいるわ)
オレゴンの冷たい深夜の雨が、舗装道路を濡らしている。そのアスファルトの片隅に、一台の薄汚れたシボレーが、まるで動かない置物のように佇んでいた。街灯の鈍いオレンジ色の光が、濡れたボンネットの上でぼんやりと反射している。
車の中にいる男の姿は、雨と闇に紛れてはっきりと見えなかったが、シンシアには分かっていた。ジェリー・マッケンジー刑事だ。
あのヨレヨレのトレンチコートを着た諦めの悪い男は、この前の昼間にシンシアから烈しい拒絶を喰らい、アパートから追い出されたにもかかわらず、いまだに見張りをやめていなかった。彼は、クリスの一挙手一投足、彼の「ベージュのフォード」が駐車場から動く瞬間を、文字通り夜を徹して監視し続けているのだ。警察組織からも孤立し、上層部からも警告を受けているはずの男が、なぜこれほどまでに執拗なのか。シンシアには、それがマッケンジーの自滅行為にしか思えなかった。
シンシアはブラインドから指を離し、怒りで胸を静かに波立たせながら、深くため息をついた。
(本当に、迷惑で哀れな老人。あんなに真面目で、未来のあるクリスを犯人に仕立て上げようとするなんて)
だが、彼女の心の中に湧き上がったのは、恐怖ではなく、かつてないほどの強固な意志だった。
マッケンジーがどれほどしつこくクリスを監視しようとも、自分という防壁がある限り、クリスには指一本触れさせない。彼女はすでに、マッケンジーが提示してきた「深夜の空白時間」をすべて穴埋めするための、偽証のアリバイを自分の頭の中で創出させていた。クリスがホットラインのボランティアに行っていた時間も、ダイナーで勉強していた時間も、すべて「私と一緒に部屋で過ごしていた」と、陪審員の前でも、神様の前でも、宣誓する準備ができている。
それは彼女にとって、嘘ではなかった。最愛のクリスを守るための、聖なる行いであり、真実だった。
シンシアは、テーブルの上に並べたワックスペーパーに、作りたてのハムとチーズのサンドイッチを丁寧に包んだ。深夜のホットラインのボランティアに向かうクリスのための、夜食だった。
「シンシア。また僕のために、夜食を作ってくれたのかい?」
寝室から、クリスが穏やかな声をかけてキッチンに入ってきた。
仕立ての良いウールのセーターを着た彼は、少しだけ疲れたように目頭を押さえている。その非の打ち所のない端正な佇まいと、自分に向ける柔らかい微笑みを見るだけで、シンシアの胸は慈悲と決意で満たされた。
「ええ。深夜のボランティアセンターは冷えるでしょう? 魔法瓶に温かい紅茶も淹れておいたわ。ちゃんと食べてね、クリス」
「ありがとう、シンシア。君は本当に、僕にはもったいないほどの女性だ」
クリスは彼女に近づき、その華奢な両手を優しく包み込んだ。その手の温もりが、シンシアにとって何よりの報いだった。
「マッケンジー刑事は……まだ外にいるかい?」
クリスは少しだけ怯えたように、窓の方へ視線を向けた。その頼りなげな、庇護を求めるような少年の表情が、シンシアの「彼を絶対に守る」という覚悟を限界まで引き上げた。
「ええ、まだあの薄汚いシボレーの中にいるわ。本当にしつこい老いぼれデカ。でも、心配しないで、クリス。あの老いぼれが何を言おうとも、ハリス議員の事務所があなたをハメようと企む警察を黙らせるわ。それに、いざとなったら私が何とでも証言する。あなたが昨夜も、その前の夜も、ずっと私と一緒にこの部屋にいたってね。私の愛する人は、世界で一番優しくて誠実な男性よ。誰にもあなたを傷つけさせない」
シンシアは彼の胸に顔を埋め、その頑強な身体を強く抱きしめた。
シンシアを抱きしめるクリスの口元に、彼女からは見えない背後で、不敵な笑みが深く浮かび上がっていた。
(本当に、扱いやすい防波堤だ)
マッケンジーがいまだに見張りをやめず執拗に自分を監視していようが、この無垢な女性の「清潔なアリバイ」という防壁がある限り、自分の領域が侵されることはない。
クリスは、シンシアのその自発的な挺身に、ゾクゾクするようなの快感を覚えていた。彼女はクリスがこれから、その「清潔なアリバイ」というお守りをポケットに忍ばせ、夜の闇へと滑り出して「七人目の犠牲者」を狩りに行くことなど、夢にも思っていないのだ。
「今日のホットラインのシフトは、深夜十二時から朝の六時までだ」
クリスは穏やかに微笑み、彼女の髪をそっと撫でた。
「マッケンジー刑事がああしてフォードを見張っているから、僕はあえて自分の車を置いて、深夜にアパートの裏口から徒歩で向かうつもりだよ。雨は冷たいけれど、彼を刺激したくないからね」
「歩いて行くなんて駄目よ、クリス!」
シンシアは即座に首を振り、彼のセーターの袖を強く引いた。
「こんな凍えるような雨の中を歩いたら風邪をひいてしまうわ。それに、あの執拗な刑事が、あなたを歩いて尾行しないとも限らない。……私のダッジを使いなさい」
彼女はドレッサーの引き出しを開け、中からグリーンのダッジ・セダンのキーを取り出すと、クリスの手のひらに無理やり押し付けた。
「ダッジは裏のガレージに置いたままだし、あの刑事は私の車のナンバーを正確には把握していないわ。ガレージから裏通りに抜ければ、絶対にあいつには気づかれない。お願いだから私の車を使って、クリス。温かい紅茶を飲みながら、安全にボランティアセンターに行って。それが私の安心のためなの」
クリスは手のひらに乗せられた冷たい金属の重みを見つめ、戸惑ったような表情を作ってみせた。
「……本当にいいのかい、シンシア? 君の車を汚してしまうかもしれないし、万が一事故にあったら……」
「いいのよ。私の車は、あなたのためのものなんだから」
シンシアは、クリスを窮地から救う名案を自ら実行できたことに、この上ない誇らしさと安らぎを感じて、優しく微笑んだ。
「ありがとう、シンシア。少し一人の時間に耽ってから、出かけるよ。君は先に眠っていて」
「ええ、おやすみなさい、クリス。気をつけてね」
シンシアは彼に微笑みを送り、寝室へと戻っていった。
クリスは一人、キッチンの暗闇の中に立ち、窓の外で雨に濡れるマッケンジーの車を見下ろした。
老刑事はいまだに見張りをやめず、自分がアパートの中に閉じ込められていると思い込み、冷たい車内で無駄な時間を浪費している。だが、クリスは今夜、シンシアが自ら差し出してくれた彼女の車を借りて、マッケンジーの目の届かない裏口から闇へと滑り出すのだ。
無私の思いやりが、新たな犠牲者を運ぶ深夜のダッジのエンジンを静かに始動させる。クリスはポケットの中の鍵を握りしめ、暗闇の中で、静かに牙を剥くのだった。




