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第6章:「キャンプの綻び」── パート8

嵐が去った翌朝のカスケード山脈は、水を含んだ深い静寂に包まれていた。

ゲートの周囲を、乳白色の濃い霧がゆっくりと這い回っている。ケイト・コリンズは、ぬかるんだ泥にシボレー・ベガを停め、重い一眼レフカメラとKPL-TVのポータブルマイクを両手に抱えて、アカデミーの頑強な鉄ゲートへと歩み寄った。

昨日、鉄条網越しに隠し撮りしたあの凄まじい「シゴキ」のフィルム。それだけでも十分に強力なスクープだったが、ケイトの野心はそれだけでは満足しなかった。この虐待キャンプを支配するボス・神崎猛の生々しい罵声のデータを、自らのテープレコーダーに収める。それこそが、彼女を全米のトップキャスターへと押し上げる決定打になるはずだった。

ケイトが硬い鉄ゲートの鎖を揺らし、大声で呼びかけると、やがて霧の奥から、数人の影がゆっくりと現れた。

先頭に立つのは、分厚い登山用のウールコートを羽織った神崎猛だった。彼の引き締まった肉体と、風雪に晒された岩肌のような顔は、見る者を圧倒する風格を放っている。そしてその背後には、少年たちと、黄色い班長の腕章を巻いたあの少年──ビリーが立っていた。

(……やっぱり、ただ事じゃないわ)

ゲートに近づく彼らの姿を見た瞬間、ケイトは自らのスクープの価値を確信した。

後ろに立っている少年たちの顔色が、昨日望遠レンズで覗き見た時よりも明らかに青ざめている。まるで、ボスである神崎の一挙手一投足に怯え、言葉を発することすら恐れているようだった。神崎の恐怖による支配が、彼女の想像以上に深くこの施設を侵食している──ケイトの目には、その張り詰めた圧迫感が、自分の持ち込んだ「虐待キャンプ」という企画の正しさを証明する何よりの物証に見えていた。

神崎は、ゲートの向こうに立つケイトの姿を、異分子を見るかのように疑い深く見つめていた。

(よりによって、このタイミングで報道関係者が嗅ぎ回りに来るとはな)

トビーの死体を南の資材小屋に隠し、ビリーたちの口を塞いだのは、昨夜の嵐の中だった。警察に「脱走による行方不明」の第一報を入れるタイミングを慎重に図っていたその矢先に、ポートランドのメディアが突撃してきたのだ。

ここで一歩でも対応を誤れば、完璧な「脱走・事故死」の隠蔽工作に致命的な亀裂が入る。神崎は、極寒のクレバスを渡る時と同じ、張り詰めた緊張感のレベルを一段引き上げた。

「何か用かね、記者さん」

神崎は、ゲートの鉄格子の向こうから、非の打ち所のない流暢な英語で語りかけた。その声は低く、威厳に満ちており、何のやましさも感じさせない。

「神崎猛さんですね。KPL-TVのケイト・コリンズです。昨日、私たちはこのアカデミーの周辺から、極めて過酷な『シゴキ指導』の様子を撮影しました」

ケイトは録音スイッチを入れたマイクをゲートの隙間に差し向けた。

「大冒険家の更生施設、という美名の裏で、少年たちに対する深刻な人権侵害や肉体的な虐待が行われているという具体的な情報が、私たちの元に寄せられています。中に入って、施設内と、少年たちを取材させていただけますか?」

「お断りする」

神崎の拒絶は、一瞬の躊躇もなく、素早かった。

「ここは私有地だ。そして、君たちが『虐待』と呼ぶものは、極限の自然を生き抜くための、我々独自の厳格な自己管理のプロセスだ。ここにいる若者たちの親は、彼らを『一人前』に叩き直してほしいと、私を信頼して大金を払っている。ぬるま湯の中で生きている軟弱者に、我々の哲学を土足で荒らされる覚えはない。今すぐ立ち去りなさい」

その毅然とした口ぶり。

だが、ケイトの記者としての鋭い目は、神崎の厳しく堂々とした姿の奥にある後ろめたさを見逃さなかった。何よりも、神崎の肩の隙間から見えた、ビリーや他の少年たちの表情が、彼女の疑念をさらに強めた。

彼らの目は、単に厳しい訓練に疲弊しているのではない。

ボスの前で一言でも失言すれば、その場で叩き潰される──そんな暴君に対する怯えが、彼らの引き攣った表情から露骨に伝わってきた。特に、昨日トビーを泥水の中で激しく蹴り飛ばしていた班長のビリーは、全身を強張らせ、虚ろな目を細かく痙攣させていた。マイクを持つケイトと一瞬たりとも目を合わせようとせず、地面のぬかるみをただ凝視している。

(誰も、この男には逆らえないのね……この奥には、もっと凄まじい秘密があるわ)

ケイトは震える指先で、一眼レフカメラを神崎の顔に向けた。

「神崎さん、何かを隠しているのではないですか? 少年たちのこの怯えた目は──」

「カメラを下げろ、コリンズさん」

昨夜、トビーの遺体を隠したばかりの神崎にとって、眼前に突きつけられたカメラのレンズは、自らの嘘を暴き立てようとする最も危険な敵にしか見えなかった。神崎は、革の手袋をはめた大きな手で、ケイトのレンズを容赦なく乱暴に遮った。

「これが最後の警告だ。二度とこの山に入り込むな」

神崎はビリーたちに冷たく顎で指示を出し、彼らを引き連れて霧の奥へと引き返していった。

ケイトは林道に一人取り残され、濡れたカメラを胸に抱きしめながら、興奮と悪寒で全身を激しく震わせていた。

神崎は一方的な拒絶を見せた。だが、その拒絶そのものが、この施設で「おぞましい虐待行為が常態化している」何よりの証拠だった。彼女にとって、この徹底した拒絶こそが特大のスクープの予感だった。

(絶対に、暴いてみせるわ。あの神崎という男は、私の次の成功を約束する、この上ない『獲物』よ……!)

ケイトはシボレー・ベガへと走り、一刻も早くこの成果をフォスターに伝えるため、泥を跳ね上げて林道を急降下していった。

彼女が今、踏みしめたその林道のすぐ脇のブッシュに、すでにサラ・ジェンキンスの遺体が埋められており、神崎たちが隠した「トビーの死体」と結びつく準備を終えていることなど、彼女はまだ、想像すらしていなかった。


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