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第6章:「キャンプの綻び」── パート4

シボレー・ベガの細いタイヤが、激しい泥濘の中で空回りし、金属的な軋み声を上げた。

ケイトは両手でハンドルを固く握り締め、フロントガラスを激しく叩く雨と、視界を塞ぐ深い霧の向こうを見つめていた。

ポートランドの市街地から北へ。舗装道路が途切れ、カスケード山脈の奥深くへと続く急勾配の林道に入った瞬間、彼女はクリスの言っていた「外界から隔絶された檻」という言葉の本当の意味を理解した。

この険しく湿った林道は、数週間前にクリスがシンシアの車を走らせ、サラ・ジェンキンスの遺体を密かに運んだあの道そのものだった 。雨水が川のように流れ、ぬかるんだ泥の底には、その時に付けられた細いタイヤの痕跡が、雨に洗われながらも不気味に沈んでいた。もちろん、ケイトがそれに気づくはずもなかった。

彼女は神崎のアカデミーから少し離れた鬱蒼(うっそう)とした茂みにベガを滑り込ませ、エンジンを切った。

「本当に、こんな山奥に……」

ケイトは助手席から重い一眼レフカメラを取り出し、望遠レンズを装着した。

雨が彼女の防寒ジャケットとジーンズを容赦なく濡らしていく。冷たい雨粒が首元から侵入し、背筋に冷気をもたらした。彼女は濡れたシダや棘(とげ)のある低木をかき分け、アカデミーを囲む、錆びついた高大な鉄条網のすぐ外側へと、足音を殺して近づいていった。

鉄条網の支柱の根元、かつてクリスが投げ捨てたガソリンスタンドのマッチの燃え殻が泥に半ば埋もれているその場所から、十ヤードほど離れた斜面にケイトは身を潜めた。

ふと、彼女は鼻をつくような、不気味な「匂い」を微かに感じた。

雨で湿った落ち葉や土の腐った臭い。だが、それは単なる大自然の匂いではない。どこか生温(なまぬる)く、甘ったるい、生物の肉が腐りかけているかのような、生理的な悪寒を呼び起こす匂いだった。

(獣の死体でも近くにあるのかしら……)

ケイトは腕をさすり、その冷たい予感を振り払うように、カメラのファインダーを覗き込んだ。

彼女はまだ知らない。自分が今まさに踏みしめているその急斜面の谷底、わずか数メートル下のブッシュの中に、サラの冷たい身体がダグラスファーの葉に覆われて眠っていることを 。

望遠レンズの焦点を、アカデミーの敷地内へと合わせた。

ファインダーの向こうに、泥まみれの中庭と、その奥に立つ粗末な木造宿舎が浮かび上がる。

そして、ケイトの目に、信じられない光景が飛び込んできた。

雨に打たれながら、薄いシャツ一枚の少年たちが、水分を吸って鉛のように重くなった巨大な丸太を担ぎ、垂直に近い急斜面の崖を這い登っている。その姿は、更生のための「指導」などという生温いものではなかった。それは、言葉の通じない冷酷無比な暴君に支配された、強制収容所の光景だった。

ケイトは焦点をさらに絞った。

少年たちを怒鳴りつけ、泥まみれのブーツで背中を蹴り飛ばしている、黄色い腕章を巻いた少年(ビリー)の冷酷な表情。

そして、その前に立つ、一人の青白い顔をした小柄な少年──トビーの姿を、レンズがはっきりと捉えた。

トビーは激しく咳き込み、喉を不自然に引き攣(つ)らせて喘(あえ)いでいた。音は聞こえない。だが、ファインダー越しに見える彼の胸の異常な波打ち方、今にも死にそうなほど白濁した瞳は、彼が瀕死状態にあることを明確に示していた。

ケイトの心臓が、恐怖と、そしてジャーナリストとしての強烈な興奮で激しく高鳴った。

(これは……ホンモノよ!)

大冒険家・神崎猛の、これが裏の顔。

これは単なる行き過ぎた指導ではない。大衆を激怒させ、全米のニュースを飾るにふさわしい、おぞましい「虐待キャンプの光景」そのものだった。

カシャ、という乾いた金属音とともに、ケイトはシャッターを切り、フィルムを巻き上げた。

ファインダーの中で、ビリーが再びトビーの丸太を叩き、彼を容赦なく急斜面へと押し上げている。トビーの身体は、まるで糸の切れた人形のように激しく揺れていた。

(フィルムは足りる。神崎、あなたの帝国の『綻び』、私がすべて暴いてみせるわ)

ケイトは手が震えるのを抑えながら、夢中でシャッターを切り続けた。

彼女のすぐ足元のブッシュの下で、サラの死体が静かに朽ち果てつつあること 、そして、目の前のレンズの向こうで、もう一つの若い命が、末期的な破滅のカウントダウンを始めようとしていることなど、この時のケイトには知る由もなかった。

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