第6章:「キャンプの綻び」── パート3
トビーの肺は、凍りついた針葉樹の針を何千本も飲み込んだかのように、激しく疼いていた。
「ヒュー……ヒュー……」
喉の奥から、乾いた、笛を吹くような不吉な喘鳴が絶え間なく漏れ出す。吸い込もうとしても、湿った極寒のカスケードの空気が気管を狭め、酸素がどうしても肺に届かない。トビーはぬかるみの中に両膝をつき、泥まみれの爪で自分の首をかきむしった。
シカゴの自宅にあった、あの気管拡張剤があれば──。
だが、そんなものはこの「神崎アカデミー」に放り込まれた初日に、ボスの神崎によって没収されていた。神崎はトビーの親から預かった薬の入ったバッグを目の前で暖炉に投げ捨て、流暢な英語でこう言い放ったのだ。
『薬は、お前の精神の弱さを甘やかす毒に過ぎない。この大自然の寒気こそが、お前の肺を真に鍛え直す唯一の治療薬だ』
「立て、トビー! 芝居は終わりだ!」
頭上から、厳しい怒号が降ってきた。
ビリーだった。腕に班長の黄色い腕章を巻いたビリーは、ぬかるんだ崖の途中に立ち、泥まみれのブーツでトビーの肩を乱暴に小突いた。
トビーの細い肩には、雨水を吸って鉛のように重くなったダグラスファーの丸太が乗せられていた。一本三十ポンド(約十四キロ)はある。それを担いだまま、谷底から雨で滑りやすくなった急斜面の崖を登りきる──それが神崎の命じた今日の「訓練」だった。
「お願いだ……息が……できないんだ……本当に、死んじゃう……」
トビーは泥水に顔を伏せ、涙と鼻水を流しながら懇願した。
だが、その深く歪んだトビーの泣き顔を見つめるビリーの瞳には、同情の光など微塵もなかった。
(甘えるな。死ぬわけがない)
ビリーの脳裏には、かつて自分が薬物まみれの泥沼の中でのたうち回っていたときの記憶が、トビーの姿と嫌悪感をもって重なっていた。自分も最初はそうやって泣き叫び、ボスの前で命乞いをした。だが、ボスは自分を甘やかさなかった。徹底的な無慈悲なシゴキによって、自分の中にあった「生ぬるい考え」をすべて叩き出してくれた。そのおかげで、今の強い自分がいる。
ビリーにとって、トビーの喘息は肉体の病気ではなかった。それは、親の金をあてにして甘やかされて育った「精神の腐敗」の象徴だった。ここでトビーを甘やかすことは、ボスの聖なる「教育」への裏切りであり、己の忠誠心を汚すことに他ならない。
「お前の金持ちのパパや警察が、この山奥までお前を助けに来ると思うか?」
ビリーはトビーの髪を力任せに掴み、その青白い顔を泥の中から引きずり上げた。
「ここには警察も法律もない。お前を救えるのは、ボスの教えだけだ。立て、丸太を担げ! 自分の足でこの崖を登りきるんだ。できなければ、お前は一生ゴミのままだ!」
「ヒュー、ヒュー……!」
トビーは引き攣った呼吸を上げながら、ビリーの厳格な瞳の中に、一筋の慈悲もないことを悟った。この男は、本気で自分を追い詰める気だ。
ビリーはトビーの細い肩に、再び丸太を乱暴に押し付けた。トビーの背骨がきしむ音が、雨音に紛れて聞こえたような気がした。
「さあ、登れ! 一歩でも止まったら、沢の水をお前の口に流し込んでやる!」
トビーは白濁していく意識のなかで、震える脚に力を込めた。泥濘に滑り、爪が剥がれて血が滲むのも構わず、ただ直感的な死への恐怖だけで、垂直に近い崖を這い登り始めた。
ビリーはその後ろ姿を、腕を組んで、冷酷な監視者の目で見つめていた。カスケードの深い霧は、少年たちの喘鳴と絶望を包み込み、外界から遮断されたこの檻を、さらに深く、静かに監視していくのだった。




