第6章:「キャンプの綻び」── パート1
ポートランド市内の古びたホテルのラウンジは、重厚な革張りのソファと、微かに響くジャズの旋律、そしてマティーニのグラスに浮かぶオリーブの香りに満ちていた。
薄暗い琥珀色の照明の下で、ケイトはクリスが席に着くのを待っていた。
生放送のインタビューから一週間。KPL-TVの電話回線をパンクさせた「クリス熱狂」の波は、今やオレゴン中に完全に定着していた。ハリス議員の選挙事務所には、彼を擁護する市民からの手紙が山のように届き、マッケンジー刑事の非公式な捜査は世論の批判によって完全に凍結されていた。そして、クリスを最初にカメラの前に引っ張り出したケイト自身も、男たちのニュースルームを出し抜き、局内での地位を不動のものにしつつあった。
「待たせてしまって申し訳ない、ケイト。ハリス議員の事務所でのボランティアが、少し長引いてしまってね」
クリスが現れた。仕立ての良いキャメルのウールコートをスマートに羽織り、非の打ち所のない紳士的な微笑みを浮かべている。
「いいえ、全然。忙しいのは分かっているわ。……改めて、おめでとう、クリス。大学でも、あなたの無実を信じるファンたちがすごい騒ぎらしいわね」
ケイトはグラスを傾け、自慢げに微笑んだ。
「すべては君のおかげだよ、ケイト」
クリスは彼女の正面に腰掛け、その澄んだ瞳で彼女をまっすぐに見つめた。
「君が僕に、真実を語るためのスポットライトを当ててくれた。君の勇気ある報道がなければ、僕は今頃、あの偏執的な老刑事にハメられ、未来を奪われていたかもしれない。僕にとって、君は命の恩人だ」
その甘い言葉と、ウッディなコロンの香りが、ケイトの胸に心地よい興奮を呼び起こす。やはり、自分の選択は正しかったのだ。この美しい青年は無実であり、自分がその潔白を全米に証明したのだという達成感が、彼女を満たしていた。
だが、クリスは微笑みを浮かべたまま、その澄んだ瞳の奥で、ケイトの「ぎらつく野心」を冷徹に観察していた。
(本当に、扱いやすい猟犬だ)
ジャーナリストとしての成功に酔いしれているこの女に、次の「獲物」の匂いを嗅がせる。それこそが、彼が今夜、彼女をこの静かなラウンジに呼び出した真の目的だった。
「ケイト……実は、君という本物のジャーナリストにだからこそ、相談したいことがあるんだ」
クリスは突然表情を曇らせ、少しだけ周囲を気にするように声を潜めた。彼の端正な顔立ちに浮かぶ、真剣で、どこか悲痛な影。ケイトは瞬時に背筋を伸ばし、仕事モードの目へと切り替えた。
「どうしたの、クリス? また警察が何か?」
「いや、警察じゃない。僕が夜間にボランティアをしている、自殺予防ホットラインでのことなんだ」
クリスは苦しげに首を振り、グラスの水を一口飲んだ。
「数日前の深夜、僕のシフトのときに、信じられないほど激しく泣きじゃくる少年の声が受話器から聞こえてきた。彼は、カスケードの山奥にある更生施設──『神崎アカデミー』から命がけで脱走してきたと言っていたんだ」
「神崎アカデミー……」
ケイトの脳裏に、かつて極地遠征で全米の喝采を浴びた伝説の冒険家、神崎猛の名が浮かんだ。
「そう。あの世界的な冒険家の神崎猛が、非行少年の更生のために運営しているキャンプだ。少年は震える声で話してくれた。そこでは、大自然での鍛錬という名目のもとで、丸太で殴られ、凍えるような沢に沈められ、人間としての尊厳をすべて破壊されるような過酷な体罰が日常的に行われていると……。少年は『助けて、もう限界だ』と一縷の望みをかけるように叫んでいたが、突然電話が切れてしまった。僕の力では、彼を救い出すことも、彼の居場所を特定することもできなかったんだ」
クリスは顔を覆い、自らの無力さに深く傷ついているようなポーズをとった。
「神崎は世界的な有名人だ。地元警察の保安官や地元の有力者たちも、彼のサポーターであり、虐待の噂があってもすべて揉み消されてしまう。……でも、あの山奥の檻の中には、今も助けを求めて泣いている子供たちがいる。ハリス議員の選挙活動の手伝いと、警察からの理不尽な嫌疑に対処することで手一杯な僕には、彼らを救う力がない。……ケイト。君なら、あの不気味な施設の闇を暴き、彼らを救えるかもしれない」
クリスはゆっくりと手を下ろし、ケイトの手を優しく握りしめた。
「お願いだ。僕の名前は出さなくていい。僕はただ、あの少年たちが救われることだけを願っている。……君なら、やってくれるね?」
その瞬間、ケイトの胸の内で、再びプロのジャーナリストとしての「飢え」が激しく燃え上がるのを感じた。
極限を生き抜いた世界的な有名人である冒険家が、人跡未踏の山奥で繰り広げる、おぞましい暴力の帝国。これほどまでに大衆の目を惹きつけ、倫理的な義憤を煽る大スクープが他にあるだろうか。「クリス事件」で一躍時の人となった彼女が、次にこの巨悪の闇を暴けば、彼女の地位はKPL-TVの枠を超え、ニューヨークやロサンゼルスの全米ネットワークのメインキャスターへと一気に駆け上がることができる。
「わかったわ、クリス。私が調べる」
ケイトは強く頷き、クリスの手を握り返した。
「あなたの優しさが、その少年たちを救うのよ。この神崎アカデミーの闇、私が必ずカメラの前に引きずり出して見せるわ」
「ありがとう、ケイト。君を信じているよ」
クリスは微笑みを浮かべた。
その瞳の奥にある、冷徹極まりない深淵に気づくことのないまま、ケイトは自ら「悪魔の誘い」へと足を踏み入れ、クリスが仕掛けた最悪の罠の猟犬として、カスケードの深い森へと走り出そうとしていた。




