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第5章:「スポットライトの魔力」── パート6

「スタジオ内、三十秒前。……十、九、八……」

フロアマネージャーの掲げた手のひらが、カウントダウンを刻んでいく。

KPL-TVのメインスタジオは、数台の巨大なカラーカメラの重い作動音と、何十本もの強力な照明の熱気で満ちていた。ライトの光を浴びるケイト・コリンズの額には、ファンデーションの下に微かな冷たい汗が滲んでいた。

彼女は自らの命運のすべてをこの数十分間に賭けていた。向かいのゲスト席に座るクリスは、仕立ての良いグレーのスーツをまとい、リラックスした様子で脚を組んでいる。その端正な顔立ちと、乱れの全くないブロンドの髪は、まばゆい照明の下で神々しさすら放っていた。

「オンエア、三、二、一……」

フロアマネージャーの指先が、ケイトを鋭く指し示す。カメラの上部にある「ON AIR」の赤いランプが、不吉に灯った。

「こんばんは、KPL-TVのケイト・コリンズです。今夜は特別インタビューをお送りします」

ケイトは、極めて真摯で、挑戦的なキャスターの表情を作り、カメラに向かって語りかけた。

「オレゴンを揺るがす若い女性たちの連続失踪事件。その重要参考人として警察からマークされているという、一人の若き法学生。クリストファー・ベネットさんをスタジオにお招きしました。ベネットさん、まずは単刀直入に伺います。なぜ、警察はあなたにこれほどまで執着するのでしょうか?」

生放送のスタジオに、一気に緊張感がみなぎる。ケイトは最初から容赦のない、鋭いナイフをクリスの胸元に突き立てた。だが、クリスは穏やかに微笑み、カメラのレンズを、そしてケイトをまっすぐに見つめ返した。その瞳には、恐怖も焦りも、微塵の泥もなかった。

「コリンズさん。まず、その質問に対して僕が語る前に、視聴者の皆さんに理解していただきたいことがあります」

クリスの声が、スタジオのスピーカーを通じて、ポートランドの何十万もの家庭へと静かに、しかし深く響き渡る。

「僕はただの、孤独な法学生です。親元を離れ、このポートランドで、夜間は自殺予防ホットラインのボランティアとして、孤独に苦しむ人々の声をただ黙々と聞き続けてきた。……マッケンジー刑事というベテランの方が、なぜ僕を標的にしたのか。それは、警察が事件を解決できず、世間からの非難に焦り、手頃な『都合のいい容疑者』を必要としていたからに他なりません。僕が彼らの活動エリアの近くにいたという、ただそれだけの理不尽な符合だけでね」

「ですが、ベネットさん」

ケイトは資料をめくり、カメラを見つめるクリスにさらに鋭い視線を向けた。

「警察はあなたの深夜の行動について、重大な疑念を抱いています。何人かの被害者が失踪した夜、あなたの行動には数時間の空白があり、それを証明する第三者の証言、つまりアリバイが存在しないと指摘されています。もしあなたが無実であるなら、その深夜の空白の時間について、どう説明されますか?」

ケイトは自らの命運をかけ、核心に迫る問いを完全に投げきった。クリスが慌てて言葉を遮るのを予想していたが、クリスはただ静かに、その美しい瞳で彼女を見つめながら、最後までその質問を辛抱強く聞き届けた。

スタジオに、重苦しい沈黙が流れる。

クリスは慌てるどころか、少しだけ首を傾げ、理解の遅い子供を見つめるかのような、慈愛と哀愁の混ざり合った微笑みを浮かべた。その静寂そのものが、スタジオの空気を吸い込んでいく。

「コリンズさん。その質問をしてくださって、本当に感謝します」

クリスの声は、少しだけかすれ、どこか切なげな響きを帯びていた。

(ここで、シンシアの名前を出す必要はない)

「深夜に家で恋人と過ごしていた」などという安易な言い訳は、クリスを平凡な男に引き下げてしまう。女性視聴者たちが求めているのは、孤独な夜の闇の中で、たった一人で苦悩と戦う、美しくも不憫な悲劇の男性像だ。クリスは自らの私生活を完璧に排除し、孤独な若者としてのペルソナを徹底的に演じることを選択した。

「警察が『空白』と呼ぶその時間は、僕にとっては『誰かの命を繋ぎ止めるための戦いの時間』でした。僕は夜間、自殺予防ホットラインの相談員としてボランティアをしています。深夜、絶望の淵に立たされた若者から電話がかかってきたとき、僕たちは時計を見ることはしません。相手が受話器を置くまで、何時間でも、ただその声に耳を傾け続ける。それが僕たちの義務だからです」

クリスはそっと自分の両手を見つめ、それからカメラに視線を戻した。

「六時間におよぶ過酷なシフトを終え、誰かの命を救えたかもしれない、あるいは救えなかったかもしれないという極限の疲労状態で事務所を出るとき、僕の脳は心配で眠ることを拒否します。だから、深夜のポートランドの冷たい路上を、ただ一人で何時間も歩き続け、あるいは寂れたダイナーの片隅で、自分の心を落ち着かせるために冷たいコーヒーをすする。……確かに、その孤独な徘徊の時間を証明してくれる『第三者の証言』はありません。ですが、命を救うために心身をすり減らしたあとの、その静かな孤独の時間までが犯罪の証拠とされるなら、この国でボランティアをする人間は、全員が犯罪者予備軍になってしまいます」

その完璧な、そして胸を打つ弁論。

クリスはケイトの言葉を遮るのではなく、彼女の鋭い刃を正面から受け止め、それを自らの「高潔な献身と孤独な苦悩」を証明するための盾へと、劇的に作り替えてみせたのだ。

スタジオ内の空気は完全に凍りついていた。副調整室(サブ)のスタッフも、フロアのカメラマンたちも、クリスのその美しくも悲痛な独白に、言葉を失って聞き入っている。

ケイトは、自らの命運をかけた鋭い質問が、クリスの圧倒的なカリスマ性の前で、単に彼の「高潔な献身と孤独な苦悩」を引き立てるための踏み台にされてしまったことを悟った。マイクを握る手が微かに冷たくなっているのを感じる。

自分がカメラの前に引きずり出したはずの「生贄」が、いまやこの生放送のスタジオでの主導権を握り始め、煌めく主人公として君臨し始めている。ケイトはクリスに鋭い言葉を投げかけていたはずが、気がつけば、彼の発言力を際立たせるための、都合の良い引き立て役に仕立て上げられていたのだ。

スタジオのまばゆいスポットライトの下で、クリス・ベネットの、これまでにない巨大な「視聴者扇動」が、今、完全に幕を開けた。

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