第5章:「スピットライトの魔力」── パート5
KPL-TVのローカル局から目と鼻の先にあるダイナー「デイリー・グラインド」は、古びたフライヤーの油の臭いと、コーヒーメーカーが吐き出す熱気で満ちていた。
ケイト・コリンズは、窓際のブース席で、第一報の視聴率レポートと次のスタジオ生放送用の台本に赤ペンを走らせていた。彼女の心は、夕方のニュースの凄まじい反響への興奮で、まだ熱く昂っている。
「その席、空いているか」
低く、掠れた声が頭上から降ってきた。
ケイトが顔を上げると、そこには、雨を吸ってずっしりと重くなったヨレヨレのトレンチコートを着た男が立っていた。ジェリー・マッケンジー刑事だった。ケイトが拒絶する間もなく、マッケンジーは勝手に彼女の向かいの席に腰を下ろし、冷たい目で彼女を見つめた。
「マッケンジー刑事。どうやってここが分かったの?」
ケイトは赤ペンを置き、挑戦的な笑みを浮かべた。
「テレビ局の周りの安ダイナーを三軒回れば、スクープに浮かれている若いリポーターの居場所くらい、すぐに見つかる」
マッケンジーはウェイトレスが持ってきた冷たい水のグラスには目もくれず、ケイトの目の前にある台本を指差した。
「夕方の放送を見た。お前はいったい、自分が何を垂れ流したか分かっているのか?」
「報道よ、刑事さん」
ケイトは胸を張り、ブロンドの髪を後ろに払った。
「私は、警察が前途有望な法学生に対して、物証もないまま不当な嫌がらせを行っているという『事実』を報じただけ。ベネットさんは極めて紳士的に取材に応じてくれたわ。彼はアリバイを持っている。あなたこそ、なぜそこまで彼に執着するの?」
「奴が『連続殺人犯』だからだ」
マッケンジーの声は静かだったが、その奥には底知れない怒りが渦巻いていた。
「コリンズ。お前はベネットの『顔』と『言葉』に騙されている。奴は平凡な嘘つきじゃない。他人の心理を完璧に見抜き、自分の有利なように操るサイコパスだ。奴が大人しくお前の取材に応じたのはなぜか、考えたことはないのか? 奴は、お前の『のし上がりたい』という野心を利用して、自分を無実の被害者に仕立て上げるための舞台を手に入れたんだ。お前は奴を利用しているつもりだろうが、実際は奴の手のひらの上で躍らされている道化に過ぎない」
ケイトの心に、小さな怒りの火が灯った。男社会のニュースルームで浴びせられてきた、男たちの侮蔑的な視線がマッケンジーの言葉と重なったのだ。
「道化? 失礼ね。私は自分の力で彼をカメラの前に引っ張り出したのよ。次のスタジオ生放送のインタビューで、彼が本物の殺人鬼なのか、それともあなたの妄想の被害者なのか、白日の下に晒してみせるわ。視聴率はKPL-TV史上最高を記録するはずよ。これは私にとってチャンスなの」
「チャンスだと?」
マッケンジーは身を乗り出し、ケイトの目をじっと見つめた。その濁った瞳に宿る軽蔑が、彼女の皮膚を刺すように冷たかった。
「失踪したサラ・ジェンキンスやリンダ・カーターの遺体がどこかで冷たくなっているその瞬間にも、お前は視聴率の話をしている。奴も視聴者の視線を浴びたがっている。テレビの生放送という巨大なスポットライトは、奴の脳に直接注がれる麻薬だ。そこにお前が奴を解き放てば、世論は完全に奴に支配される。捜査は永久に泥沼だ」
「証拠を持ってきなさい、刑事さん」
ケイトはテーブルの上の台本に挑戦的に手を置き、冷たく言い放った。
「証拠がないなら、ハリス議員や大学の法学部があなたをハラスメントで告訴するわ。テレビが証明してくれる。生放送で彼がボロを出せばあなたの勝ち、出さなければ私の勝ちよ。それだけのことだわ」
マッケンジーはゆっくりと立ち上がった。彼の背中は疲れ切っていたが、そのトレンチコートの奥にある殺気のような緊迫感は薄れていなかった。
「いいか、コリンズ。奴は飢えた殺人鬼だ。お前は自分が檻の外から殺人鬼を観察しているつもりだろうが、奴はすでに檻の鍵を壊し、お前のすぐ後ろに立っている」
マッケンジーはポケットから、クシャクシャになった煙草の箱を取り出し、テーブルの上に置いた。
「奴の仮面が剥がれ落ちたとき、最初に喰われるのはお前だ。……忠告はしたぞ」
マッケンジーはそれだけ言い残すると、ヨレヨレのトレンチコートの襟を立て、ダイナーの自動ドアを開けて外へと出ていった。冷たい雨が彼を包み込み、その姿はすぐに夜の闇に溶けていった。
ケイトは、テーブルに残された煙草の箱と、冷え切った自分のコーヒーを見つめた。
指先が、微かに震えていた。マッケンジーの言葉にあった「最初に喰われるのはお前だ」という不気味な響きが、彼女の心臓の奥に冷たい棘のように突き刺さっていた。
だが、彼女はすぐにその恐怖を首を振って打ち消した。
(私はお天気お姉さんで終わるつもりはない。これは、私の、私だけのチャンスよ……!)
ご指摘ありがとうございます。バッグに片付けたにもかかわらず、マッケンジーが去った直後に、まるでテーブルの上にまだそれらが出ているかのように「再びレコーダーを握りしめて台本(構成案)にペンを走らせる」描写になっており、物理的な動作の辻褄が完全に破綻しておりました。推敲が行き届いておらず、大変失礼いたしました。
ご指摘の通り、会話中もレコーダーや台本はテーブルの上に置いたままで対峙し、マッケンジーが去った後にそれらに再び手を伸ばす形に動作を修正いたします。
以下に、該当箇所の修正版を提示いたします。
小説『名もなき荒野のブッシュ』
第4章:「恋人のブラインド」── パート5(再修正版)
(前略)
「証拠を持ってきなさい、刑事さん」
ケイトはテーブルの上の台本に挑戦的に手を置き、冷たく言い放った。
「証拠がないなら、ハリス議員や大学の法学部があなたをハラスメントで告訴するわ。カメラは嘘をつかない。生放送で彼がボロを出せばあなたの勝ち、出さなければ私の勝ちよ。それだけのことだわ」
マッケンジーはゆっくりと立ち上がった。彼の背中は疲れ切っていたが、そのトレンチコートの奥にある殺気のような緊迫感は薄れていなかった。
「いいか、コリンズ。奴は飢えた殺人鬼だ。お前は自分が檻の外から殺人鬼を観察しているつもりだろうが、奴はすでに檻の鍵を壊し、お前のすぐ後ろに立っている」
マッケンジーはポケットから、クシャクシャになった煙草の箱を取り出し、テーブルの上に置いた。
「奴の仮面が剥がれ落ちたとき、最初に餌食になるのはお前だ。……忠告はしたぞ」
マッケンジーはそれだけ言い残すると、ヨレヨレのトレンチコートの襟を立て、ダイナーの自動ドアを開けて外へと出ていった。冷たい雨が彼を包み込み、その姿はすぐに夜の闇に溶けていった。
ケイトは、テーブルに残された煙草の箱と、冷え切った自分のコーヒーを見つめた。
指先が、微かに震えていた。マッケンジーの言葉にあった「最初に餌食になるのはお前だ」という不気味な響きが、彼女の心臓の奥に冷たい棘のように突き刺さっていた。
だが、彼女はすぐにその恐怖を首を振って打ち消した。
(私はお天気お姉さんで終わるつもりはない。これは、私の、私だけの千載一遇の好機よ……!)
ケイトはテーブルの上のレコーダーを強く握りしめ、自分を鼓舞するように、目の前に開かれた台本の構成案へと、再び赤ペンを走らせるのだった。




