第5章:「スポットライトの魔力」── パート4
テレビの画面が通常の番組に切り替わっても、シンシアの震えは止まらなかった。
彼女はリモコンを握りしめたまま、立ちすくんでいた。ブラウン管に映し出されたクリスの穏やかな横顔と、その傍らに不吉に躍る「連続失踪事件」「重要参考人」という文字。たとえニュースが「警察による不当な嫌がらせの可能性」を示唆していたとしても、最愛のフィアンセの名前が、これほどおぞましい凶行の容疑と並べられたという事実だけで、彼女の呼吸は浅くなり、心臓は引き裂かれそうだった。
「ひどいわ……こんなの、あんまりよ……」
シンシアは振り返ると、クリスにすがりついた。彼女の涙が、クリスのシャツの胸元に冷たく染み込んでいく。
「あのマッケンジーっていう刑事のせいよ! あいつがテレビ局に嘘の情報を流したに違いないわ。あなたの輝かしい未来を奪って、泥を塗るために……! ねえクリス、警察を訴えましょう。ハリス議員の事務所に言って、あの刑事を今すぐクビにしてもらうのよ!」
クリスは彼女の背中に両腕を回し、優しく、そして頼りなげに抱きしめ返した。
彼の顎は彼女の肩に乗せられ、その表情はシンシアからは見えなかった。
暗闇の中で、クリスの口元が愉悦に歪んでいた。
(実に従順で、愛らしい防波堤だ)
マッケンジーの無粋な追跡や、ケイトの仕掛けたニュースの第一報は、シンシアの愛する者を守ろうとする、猛烈な「庇護心」という防波堤に遮られ、クリスの元には1滴の泥水も届かない。それどころか、彼女は自ら進んで泥を浴び、クリスを守るための強固な「盾」としての役割を完璧にこなそうとしていた。
クリスは彼女の耳元に、傷ついた若者を装った静かな声を届けた。
「シンシア、落ち着くんだ。マッケンジー刑事を訴えたところで、一度流れてしまった噂は消えない。ハリス議員の選挙スタッフや、大学の友人たちも、このニュースを見ただろう。彼らは僕の顔を見るたびに、心のどこかで『もしかしたら』と疑うようになる。……それが、一番恐ろしいことなんだ」
「そんな……クリスは何も悪いことをしていないのに!」
シンシアは顔を上げ、涙に濡れた瞳で彼を見つめた。クリスは彼女の頬に優しく手を添え、親指で涙を拭った。
「影でささやかれる噂から逃れる唯一の方法は、光の下に出ていくことだけだ。……実は、さっきリポーターのコリンズさんから連絡があったんだ。彼女の番組で、スタジオの生放送に僕を呼びたいと」
シンシアは息を呑んだ。
「スタジオの、生放送に……? そんなの、危険すぎるわ。マスコミはあなたを罠にはめようとしているのよ」
「いや、違うんだ、シンシア。これは僕たちにとって、最初で最後のチャンスなんだ」
クリスは彼女の瞳の奥をじっと見つめ、一言一言を言い聞かせるように、熱を帯びた声で語りかけた。
「僕がスタジオの生放送に出て、カメラの向こうにいる何十万、何百万という人々の前で、直接自分の言葉で語るんだ。マッケンジー刑事が僕に対して行ってきた、物証も根拠もない不当な追跡の事実をすべて公表する。そうすれば、誰の目にも真実が明らかになる。僕が逃げも隠れもしない無実の人間であること、そして、警察がどれほど乱暴な捜査をしているかをね」
クリスの言葉は、シンシアの脳内に新たな、そして強固な希望の光を灯した。
シンシアは思った。クリスは誰よりも知的で、雄弁で、そして美しい。彼がテレビの生放送という大舞台で、その非の打ち所のない気高さを示せば、オレゴン中の人々が警察の愚行に憤り、クリスの味方になるはずだ。
「……わかったわ、クリス。あなたがそう言うなら、私、全力で応援する」
シンシアは、自らの手でクリスを「生放送のステージ」へと押し出す決意を固めた。彼女はクリスを信じ切っていた。彼をテレビに出演させることが、彼を守るための最善の手立てだと確信していたのだ。
「ありがとう、シンシア。君の信じてくれる心が、僕をどれだけ強くしてくれるか」
クリスは彼女をもう一度抱きしめた。
彼女の小さな防波堤は、クリスという殺人鬼を「スタジオのスポットライト」という名の欲望の主戦場へと解き放つための、完璧な発射台となった。彼は彼女の髪を撫でながら、カメラの前に立つ己の栄光の瞬間を、精密に、そして誇らしげに描き始めていた。




