第5章:「スポットライトの魔力」── パート1
ポートランドのローカルテレビ局「KPL-TV」のニュースルームは、不快な熱気と、何十本ものタバコの煙、そしてテレタイプが吐き出すザラザラとした受信音で満ちていた。
「よくやったぞ、ケイト。今日のペットショーのレポート、お前の笑顔は最高だった。視聴者の主婦どもは大喜びだ」
デスクのフォスターが、ぬるいコーヒーの紙コップを片手に、ケイトの肩を乱暴に叩いた。彼の太い指からは、いつも安物のシガーの臭いが漂っている。
「ありがとう、フォスター。でも、次は例の連続失踪事件の追跡を取材させてほしいの。ワシントン州との州境でまた──」
「おいおい、冗談だろ?」
フォスターは声を上げて笑い、周囲の男性リポーターたちを顧みた。
「聴いたか、みんな。お天気お姉さんのケイトが、連続殺人鬼を追いかけたいそうだ。悪いことは言わん、ケイト。お前はその綺麗なブロンドの髪と、真っ白な歯をカメラに向けていればいい。泥臭い死体や不審者の追跡は、もっと骨のある野郎どもの仕事だ。明日は市内のバラ園の開花宣言をレポートしてもらう。衣装は明るい黄色がいいな」
周囲の男たちが一斉に卑俗な笑い声を上げた。
ケイト・コリンズは、爪が手のひらに食い込むほど拳を握りしめ、精一杯の愛想笑いを浮かべて彼らの前を去った。
(この、無能な男どもめ……)
彼女は化粧室に駆け込み、大きな鏡に映る自分の顔を睨みつけた。
豊かにカールさせたブロンド、きらきらと輝く瞳、完璧に整えられたミニスカート。テレビ局の上層部が彼女に求めているのは、ニュースの「華」としての機能だけだった。男たちの怒号が飛び交う報道の現場から締め出され、彼女に与えられるのは、お天気カメラの前での微笑みや、どうでもいいローカルな行事のレポートばかり。
だが、ケイトの胸の内に燃える野心は、そんな「お飾り」の枠に収まるような生温いものではなかった。彼女は、男たちが支配するこのニュースルームの天井を叩き割り、自分の名前を全米に轟かせるための「起爆剤」を、ずっと探し求めていたのだ。
そして、そのチャンスは、すでに彼女の手の中にあった。
ケイトは化粧室の個室に入り、古いレザーバッグから、手書きのメモがびっしりと書かれた小さな手帳を取り出した。それは、彼女が警察署の受付の男(彼女が自らの美貌を武器にして手懐けた情報源)から密かに聞き出した、極秘の噂話だった。
州警察の執念深いベテラン、ジェリー・マッケンジー刑事が、上層部に内緒で一人の若者を執拗に追跡しているという。
ターゲットの名はクリストファー・ベネット。二十四歳。
オレゴン大学法学部のエリート学生であり、次期市長候補であるハリス議員の選挙事務所でボランティアを務める、非の打ち所のない好青年。
マッケンジーは、この「絵に描いたような模範的青年」こそが、ポートランド周辺を震撼させている若い女性の連続失踪事件の真犯人だと確信しているらしい。だが、物証がないため上層部に相手にされず、単独で狂ったようにベネットをマークしているのだという。
手帳を見つめるケイトの指先が、興奮で微かに震えた。
(エリート法学生が、裏では若い女性を次々と拉致する怪物かもしれない……?)
これ以上の大スクープが、この世にあるだろうか。
もしマッケンジー刑事の睨んだ通り、クリスが本物の殺人鬼であるなら、彼を最初にメディアの前に引っ張り出したリポーターは、一瞬にして全米のスターキャスターにのし上がることができる。逆に、もしクリスが完全に無実であるなら、それはそれで「偏執的な無能警察による、前途有望な若者への不当な人権侵害」という、これまた全米の涙を誘う大キャンペーンのネタになる。クリスがクロ(有罪)であろうがシロ(無罪)であろうが、このカードを最初に切った者が「勝ち」なのだ。
男たちがデスクでくだらないジョークを言い合っている隙に、ケイトはアパートの駐車場から自分のコンパクトカー、シボレー・ベガのエンジンをかけた。
局のカメラマンを同行させる時間はない。彼らを引き連れれば、すぐにフォスターにバレて企画を奪われてしまう。ケイトは助手席にポータブルの録音機とスチールカメラを放り込み、アクセルを強く踏み込んだ。
向かう先は、オレゴン大学。クリストファー・ベネットが通う、あの美しいキャンパスだ。
雨に濡れたポートランドのハイウェイを走りながら、ケイトはバックミラーに映る自分の、野心にぎらついた瞳を見つめた。
「待っていなさい、ベネット。あなたのその綺麗な皮を、私が剥いでみせるわ」
男たちのニュースルームを出し抜き、栄光へと駆け上がるための孤独な戦いが、今、始まった。




