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小説『名もなき荒野のブッシュ』 第1章:「猟犬と美しき獣」── パート2

オレゴン大学のキャンパスに隣接する「ブルームズ・カフェ」は、暖房の熱気と安っぽいシナモンロールの匂いで満ちていた。学生たちの談笑、フォークが皿に当たる軽い金属音、そしてジュークボックスから流れるカーペンターズの穏やかなメロディ。ポートランドを濡らす冷たい雨を逃れてきた若者たちにとって、そこは束の間の楽園だった。

クリストファー・ベネットは、窓際の円卓で二人の女子学生に囲まれていた。

「本当に素晴らしい講義だったわ、クリス。あなたのアドバイスがなかったら、あの中間レポートはパスできなかった」

栗色の髪を真ん中で分けた小柄な女子学生が、頬を少し赤らめて言った。クリスは彼女に温かい眼差しを向け、少しだけはにかむように微笑んだ。

「僕がしたことなんて、図書館の資料の場所を教えただけだよ、ジェーン。君自身の努力の成果さ。何か困ったことがあれば、いつでも言って。自殺予防ホットラインのシフトが入っていない夜なら、喜んで相談に乗るよ」

その控えめでありながら自信に満ちた物言いに、女子学生たちは熱っぽい視線を送った。クリスの仕立ての良いコーデュロイジャケット、綺麗に整えられた長い指先、そして何よりも知的で優しい眼差しは、キャンパス内の誰もが好意を抱く理由を物語っていた。

だが、カフェの片隅、タバコの煙が淀むカウンターの端から、その様子をじっと見つめる濁った両の眼があった。

マッケンジー刑事だった。

クリスはそれに気づいていた。彼がカフェに入ってきた瞬間から、その古びたレザージャケットの匂いも、ひび割れた靴底が床を鳴らす音も、すべて把握していた。

しかし、クリスは慌てない。それどころか、心臓の奥が心地よく疼くのを感じていた。彼は女子学生たちに丁寧に別れを告げると、コーヒーの入ったマグカップを手に、マッケンジーのいるカウンター席へとゆっくりと歩み寄った。

「お疲れのようですね、マッケンジー刑事」

クリスは隣の丸椅子を引き、自然な動作で腰掛けた。その声は驚くほど穏やかで、何の警戒心も感じさせない。

「僕の顔に、何か凶悪な犯罪の証拠でもついていますか?」

マッケンジーはゆっくりと視線を上げ、手元の冷めかけたコーヒーを見つめた。

「ベネット。大学の講義は忙しいか?」

「ええ、憲法の判例研究が山積みでして。ですが、社会奉仕やボランティアを辞めるつもりはありません。忙しい時ほど、他人のために時間を使うべきだと母から教わりましたから」

「ホットラインのボランティア、だったな。深夜のシフトが多いそうじゃないか」

「はい。火曜日と木曜日の午後十時から午前二時までです。夜の闇は、人を寂しくさせ、時に狂わせます。僕たちの仕事は、その暗闇の中で彼らの手を握ってあげることです。刑事さんの仕事と、少し似ているかもしれませんね」

クリスは穏やかに言い、マグカップに口をつけた。

マッケンジーの顎の筋肉が微かに硬直した。ホットライン。それは深夜に堂々と外出する、この上ない「免罪符」だ。深夜二時にシフトを終えた後、彼がどこへ行き、何をしているか。当時の貧弱な勤務記録や、同僚たちの「クリスはいつも真面目に働いていた」という曖昧な証言だけでは、空白の時間を証明することは不可能に近かった。

「お前の愛車は、ベージュのフォードだったな」

マッケンジーは、錆びた声で問いを重ねた。

「ええ、祖父から譲り受けた古いセダンです。エンジンの調子が悪くて、よく夜中に自分で整備していますよ。それが何か?」

「いや、ただの世間話だ。……図書館の近くで失踪したリンダ・カーターという女子学生のことは覚えているか?」

クリスは表情を曇らせた。その同情と悲痛の混じり合った表情はあまりにも自然で、誰が見ても不審を抱く余地はなかった。

「もちろん覚えています。本当に痛ましい事件です。僕も図書館で何度か見かけたことがあります。彼女、いつも真面目にノートを取っていました。……刑事さん、警察は何か手がかりを掴んでいるのですか?」

「捜査中だ」

マッケンジーは短く言った。

「そうですよね」

クリスは深くため息をつき、身を乗り出した。

「僕も法を学ぶ身として、この街の治安には危機感を持っています。もし犯人がいるのだとしたら、彼はキャンパスの死角を熟知しているはずです。例えば、東側の駐車場は夜間、街灯が切れていて真っ暗になります。あそこなら、大声を上げられても誰も気づかない。……そんな邪推をしてしまうのは、僕が未熟な法学生だからでしょうか」

クリスは少しだけ困ったように眉を下げた。

その言葉は、マッケンジーの脳裏に電撃を走らせた。東側の駐車場。そこはまさに、リンダが消えたと推定される場所だった。警察はその事実を一般には公表していない。

マッケンジーは、クリスの目をじっと見つめた。

クリスの瞳は、澄み切った水のように穏やかだった。そこには挑発も、焦りもない。ただ、「刑事の役に立ちたいと願う、聡明な若者」の熱意だけがあった。

だが、マッケンジーには分かっていた。クリスは今、自分をテストしているのだ。警察がどこまで情報を掴んでいるかを探り、同時に「お前たち警察は、俺が教えてやった場所すらまともに捜査できない」と暗にあざ笑っている。

「ベネット」

マッケンジーは、低い、地を這うような声で言った。

「お前がどれだけ賢いつもりでいても、いつか足元をすくわれるぞ」

「忠告、ありがとうございます」

クリスは席を立ち、微笑みを浮かべた。

「ですが刑事さん、法は証拠によってのみ語るものです。僕の足元には、本物の法律の教科書しか転がっていませんよ。……では、レポートの続きがありますので、これで」

クリスは軽く会釈をし、カフェの温かな光の中へと戻っていった。

マッケンジーは、残された冷たいコーヒーを見つめながら、テーブルの下で拳を硬く握りしめた。爪が手のひらに食い込み、微かな痛みが走る。

完璧な仮面。一分の隙もない論理。

この男を追い詰めるには、生半可な捜査では足りない。マッケンジーは、クリスという深い霧の奥に潜む「本物の獣」の輪郭を捉えようと、さらに目を凝らすのだった。

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