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第4章:「恋人のブラインド」── パート1

窓の外で、灰色の雨が音もなくポートランドの街を濡らしている。

しかし、クリス・ベネットのアパートメントの室内は、まるで外の世界から切り離された温室のように暖かく、静かだった。

台所のコンロの上では、ホーローの鍋がコトコトと小さな音を立て、バターとデミグラスソースの芳醇な香りが部屋いっぱいに広がっている。シンシアは木ベラでゆっくりとビーフシチューをかき混ぜながら、自らの口元が自然と綻んでいるのに気づいた。

大学の図書館員として働く彼女は、日々、何百人もの学生たちの喧騒に接していた。大声を上げて騒ぐ者、傲慢に本を放り出す者、自堕落な時間を貪る若者たち。そんな中で、いつも静かに憲法の本を広げ、丁寧な口調で資料を求めてくるクリス・ベネットの存在は、最初から際立っていた。

「勉強の邪魔をしていないといいのだけど」

彼に声をかけた日のことを、シンシアは今でも鮮明に覚えている。クリスは驚いたように顔を上げ、それから、凍りついた彼女の心を一瞬で溶かすような、あの極上に優しい微笑みを浮かべたのだった。

交際を始めてから半年。クリスは一度として彼女を失望させたことはなかった。いつもシンシアの言葉に熱心に耳を傾け、歩くときは歩調を合わせ、ドアを開けて彼女を先に通した。彼のその非の打ち所のない紳士的な振る舞いは、シンシアにとって「自分は愛されている」という絶対的な確信そのものだった。

カチャリ、と玄関のドアが開く音がした。

「シンシア?」

「おかえりなさい、クリス。ちょうどシチューが出来上がったところよ」

シンシアが振り返ると、濡れたレザージャケットを脱いだクリスが、リビングに入ってくるところだった。彼の整った顔立ちには、連日の勉強によるものだろう、微かな疲労の影があった。

「ああ、素晴らしい匂いだ。冷たい雨の中を歩いてきた甲斐があったよ」

クリスは優しく微笑むと、背後からシンシアの細い身体をそっと抱きしめた。

彼の腕の確かな温もり、首元に触れる柔らかな髪、そしていつも通りのウッディなコロンの香り。シンシアは目を閉じ、その確かな幸福感に身を委ねた。

だが、彼女は気づかなかった。彼のジャケットが、昨夜の冷たい雨で激しく濡れたまま乾いておらず、その手の指先が、わずかに微細な泥で汚れていたことに。

「昨日の夜、午前二時すぎにあなたの部屋に電話をかけたのよ」

シンシアは彼の胸に背中を預けたまま、少し済まなそうに言った。

「ホットラインのボランティアのシフトが終わる頃でしょう? 少しだけ声が聞きたくて。でも、呼び出し音が響くだけで誰も出なかったわ。きっと、そのまま別の静かな場所で勉強していたのね。身体を壊さないか心配だわ」

「心配をかけてごめんよ」

クリスは彼女の髪にそっと唇を寄せた。

「憲法の判例研究の締め切りが近くてね。ホットラインのシフトを終えた後、どうしても頭が冴えてしまって、二十四時間営業のダイナーでコーヒーを飲みながら朝までレポートを書いていたんだ。でも、ずっと君のシチューの温かさを考えていたよ」

「まあ。お世辞が上手なのね」

シンシアは嬉しそうに笑い、彼の胸から離れてテーブルに皿を並べ始めた。

その時、彼女の鋭い目が、クリスの右手の甲に刻まれた赤く細い三筋の傷跡を捉えた。

「あら、クリス。その手、どうしたの?」

彼女は心配そうに彼の右手を取り、その傷跡をそっと撫でた。

「……ああ、これかい?」

クリスは一瞬だけ瞳の奥の光を消し、だが次の瞬間には、いつもの穏やかな困り顔を作って見せた。

「昨日の深夜、ホットラインの事務所の裏で、迷い犬を見かけてね。寒さで震えていたから、持っていたサンドイッチを分けてやろうとしたんだ。そうしたら警戒されて、爪が少し引っかかってしまって。大したことじゃないよ」

「気をつけてね。雑菌が入ったら大変だから、後で消毒しましょう」

シンシアは彼の傷口に、優しくキスを落とした。

「ありがとう、僕の小さなお医者さん」

クリスは彼女の頭を愛おしそうに撫で、テーブルへと着いた。

クリスは、その右手の傷が、昨夜の暗い州道の泥濘の中で、必死に命乞いをしながらクリスの顔や手を掻きむしった女子大生サラ・ジェンキンスの、最後の抵抗の痕跡であることを知っている。

シンシアは、彼がどれほど優しい心で、震える野良犬に手を差し伸べたのかを想像し、彼の人間的な温かさに改めて胸を熱くしていた。

「本当に美味しい。君の料理を食べるだけで、すべての疲れが消えていくよ」

シチューを一口運んだクリスが、至福の表情で言った。

「気に入ってくれて嬉しいわ」

シンシアは、窓を叩く雨の音を遠くに聞きながら、ぬくるみに満ちた室内を見渡した。この温室のような平穏が、いつまでも続くことを心から願っていた。彼女の愛する完璧なクリス。その美しい横顔を見つめながら、シンシアは自分が世界で最も幸福な女性であると信じて疑わなかった。

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