第3章:「ハイウェイの泥水」── パート3
トタンの屋根を叩く雨音は、時に耳が痛くなるほどの静寂を室内に連れてくる。
ジェシーはベッドの上に膝を抱え、薄暗い空間をただ見つめていた。州間高速道路を走る大型トラックのヘッドライトが、不規則に窓硝子を白く染め、そして去っていく。そのたびに、ジェシーの心臓は小さく跳ね上がった。
(ロキシー……まだ帰らない)
サイドテーブルの上には、ぬるくなった安物のウォッカのボトルが置かれている。彼女はその口を直接あて、喉に苦い液体を流し込んだ。胃の奥がカッと熱くなる。だが、その熱さも、胸の奥にこびりついた冷たい恐怖を完全に消し去ることはできなかった。
ジェシーの手は、小さく震えていた。
かつて、彼女にも「普通の生活」があったはずだった。しかし、自らの同性愛という指向が露見した瞬間、その穏やかな日常は一瞬にして崩壊した。実家の親たちからの侮蔑に満ちた言葉、「異常者」と呼び汚物のように避ける世間の目、そして無理やり「治療」と称して監禁されそうになった恐怖。社会から引き裂かれ、心を踏みにじられた彼女の精神は、すでに薄いガラスのようにひび割れていた。
その破片をどうにか繋ぎ止め、自分を守ってくれているのがロキシーだった。
ロキシーは強かった。男たちに殴られても、泥水を浴びせられても、牙を剥いて立ち向かっていく。外界という名の狂暴な獣から自分を隠してくれる、頑強な盾。
だが、その盾が何で作られているかを、ジェシーは嫌というほど知っていた。
夜遅く、ロキシーがトレーラーに戻ってきたとき、その衣服からは男たちの安っぽい香水と、汗と、湿った雨の匂いが漂う。時折、頬や腕に作られている新しい痣。それを、ロキシーは「転んだだけだ」と不器用に笑って誤魔化す。
(私のせいで、ロキシーの身体は汚されていく)
ジェシーの胸に、鋭い剃刀の刃を突き立てられたような罪悪感が走る。
自分が食べるパンも、寒さを凌ぐためのストーブの灯油も、心を静めるための安酒も、すべてロキシーが男たちに値踏めされ、尊厳を削り取られて持ち帰る「はした金」で買われているのだ。自分の存在そのものが、ロキシーの肉体と心を消費させている。
その罪悪感から逃れるために、ジェシーはまたボトルを傾けた。アルコールが脳を痺れさせる。だが、薬物やアルコールで酔いが深まるほどに、別の、さらに恐ろしい怪物が暗闇から這い上がってきた。
──もし、ロキシーが帰ってこなかったら。
もし、あの凶暴なハイウェイの男たちの誰かが、ロキシーを力ずくで壊して、どこかの荒野に捨ててしまったら。あるいは、ロキシー自身が、こんな役立たずで脆いジェシーに嫌気がさし、ある日突然、雨の霧の中に消えてしまったら。
「嫌……お願い、置いていかないで……」
声にならない悲鳴が口から漏れた。ジェシーは耳を塞ぎ、身を縮めた。
彼女はロキシーなしでは生きていけなかった。呼吸の仕方も、明日の迎え方も忘れてしまうほどに、ロキシーに依存しきっていた。ロキシーという「盾」がなければ、外界の風が吹き込んだ瞬間に、自分の心は木っ端微塵に砕け散るだろう。
その依存心の強さが、自分自身をさらに追い詰め、ロキシーへの申し訳なさで胸を押し潰す。この終わりのないループの中で、ジェシーはただひたすらに、湿った毛布を握りしめて待つししか、術はなかった。
不意に、トレーラーの外で、ザリ、ザリと濡れた砂利を踏む足音が聞こえた。
ジェシーは弾かれたように顔を上げた。
いつもの、少し引きずるような、重いブーツの足音。ロキシーだ。
ジェシーは慌ててウォッカのボトルをベッドの下に隠し、シャツの襟元を整えた。ロキシーに心配をかけてはいけない。自分を命がけで守ってくれる彼女に対して、これ以上の「お荷物」であってはならない。
錆びついた鉄扉が、不快な金属音を立ててゆっくりと開き始める。ジェシーは、震える脚でどうにか立ち上がり、ドアの向こうから差し込む冷たい雨の匂いに向かって、精一杯の笑みを作ろうとした。




