第3章:「ハイウェイの泥水」── パート1
大型トラックが州道を通過するたび、ブリキの箱のようなトレーラーハウス全体が、不快な小刻みな悲鳴を上げて揺れた。
ガタガタと震える窓硝子の隙間から、ディーゼルエンジンの煤けた排気ガスと、巻き上げられた砂埃が、容赦なく室内に滑り込んでくる。テーブルの上に置いたひび割れたマグカップの底には、いつの間にか黒い塵が薄く積もっていた。オレゴンの雨は絶え間なく降り続いていたが、このハイウェイ沿いでは、雨水は全て油と煤煙に塗れ、アスファルトの上の「泥水」へと姿を変えていた。
ロキシーは、安物のウインストンに火をつけ、深く煙を吸い込んだ。肺がチクリと痛み、彼女は低く咳き込んだ。
狭いベッドの上で、ジェシーがびくりと肩を震わせた。
その青白い、陶器のように薄い皮膚の下を、不吉な毛細血管が青く這っている。ジェシーの短いブロンドの髪は寝汗で額に張り付き、小さく開いた唇からは、ひび割れた寝息が漏れていた。彼女は何か恐ろしい夢を見ているのか、時折、小さな指先を何かに抗うように震わせていた。
ロキシーは煙草を咥えたまま、ベッドの傍らに歩み寄り、ジェシーの額に手を置いた。熱っぽい。だが、このカスケード山脈の裾野を走るハイウェイの片隅で、彼女にまともな医者や薬を与えてやることなど、今のロキシーには不可能だった。
この錆びついた、天井から雨漏りのするトレーラーが、二人の世界の全てだった。
外界の全てが、ジェシーを脅かす敵だった。男たちの値踏みするような淫らな視線、社会の底辺を見る冷酷な警察の目、そして彼女を「変態」「汚物」と罵って追い出した実家の親たちの冷たい声。それら全ての暴力からジェシーを隠し、守るための硝子の盾が、この薄汚いトレーラーであり、ロキシー自身だった。
「大丈夫よ、ジェシー……」
ロキシーは低く、ハスキーな声で囁き、ジェシーの額を包むように撫でた。
「私がいる。ここに誰も入れやしない」
ジェシーがゆっくりと目を開けた。その濁りのない、しかし恐怖に怯えた子供のような瞳が、ロキシーの顔を捉える。彼女はハッと息を呑むと、痩せた両腕を伸ばし、ロキシーの首に縋りついてきた。
「ロキシー……行かないで。私を一人にしないで。あいつらが、あの男たちが、また私を暗いところに連れて行こうとするの……」
ジェシーの細い身体が、落ち葉のように激しく震えている。彼女の細い指先が、ロキシーの古びたレザージャケットの襟元を、ちぎれんばかりに握りしめた。
「どこにも行かないわ。どこにも」
ロキシーは煙草を灰皿に押し付け、ジェシーの温もりを強く抱きしめた。
ジェシーの身体から漂う、安物のベビーパウダーの香りと、微かなアルコールの匂い。それだけが、ロキシーにとってこの世界に存在する、唯一の「綺麗なもの」だった。
幼い頃から男たちに玩具のように扱われ、殴られ、裏切られ、ただ生き延びるためだけに身体を切り売りしてきたロキシーにとって、人間とは憎悪と侮蔑の対象でしかなかった。男という生き物は、自分たちから経済的にも肉体的にも搾取し、陵辱し、使い捨てるだけの怪物だ。
だが、ジェシーだけは違った。彼女はロキシーを必要としてくれた。自分の傷だらけの肉体を、泥に塗れた過去を、ただ一つの「救い」として、無条件に求めてくれたのだ。
ジェシーを守ること。彼女がこの冷たい世界に壊されないように、身体を張って防壁となること。それだけが、ロキシーがこの汚れたハイウェイの路上で、男たちの卑俗な欲望を浴びながら、泥水をすすってでも生き延びるための、唯一の生きる理由であり、プライドだった。
「お腹が空いたでしょう。何か食べるものを買ってくるわ」
ロキシーはジェシーの涙を親指で拭い、優しく微笑みかけた。
「……お金は、あるの?」
ジェシーが不安そうに上目遣いで尋ねる。
「心配しないで。いくらでもあるわ」
ロキシーは、クローゼットの奥から、使い古された茶色いレザーバッグを取り出した。
その重み。バッグの底には、先週、泥酔したトラック運転手の財布から抜き取った数十ドルの紙幣と──そして、金属の冷たい実感を放つ、錆びついた38口径のリボルバーが静かに眠っていた。
ロキシーは、バッグの口を固く閉め、ジェシーの額に最後のキスの痕を落とした。
「いい子で待っていてね。すぐに戻るから」
トレーラーの錆びた鉄扉を押し開けると、外は激しい排気ガスの煙と、終わりのないオレゴンの雨が冷たく渦巻いていた。ロキシーは襟を立て、泥水が流れるハイウェイの路肩へと、一歩を踏み出した。




