第4話:新橋烏森法律事務所
あれから、1か月後。
司法取引が成立し、政府の闇組織の関与は伏せられたものの、マサヒロの殺人未遂容疑は完全に晴れ、微罪での釈放が決定した。
神谷町タワーの最高階。
釈放された中村マサヒロは、かつての代表室の椅子に深く腰掛け、サユリに向かって満足そうに微笑んだ。
「完璧な弁護だった、サユリ。やはりお前は俺の妻だ。さあ、エイミーを追い出して、この事務所を二人で支配しよう」
サユリはマサヒロを見つめた。その目には、もはや情愛も、従順さもなかった。
彼女の隣には、松井あさこが立っていた。あさこは1通の書類をマサヒロのデスクに滑らせた。
「離婚協議書よ、マサヒロさん」あさこは微笑んだ。
「あなたの隠し口座、そして今回の事件の裏であなたが受け取るはずだったファンドからのキックバックの証拠、すべて押さえてあるわ。中村家の資産の8割、そして子供たちの親権はサユリさんがいただくわ。拒否すれば、あなたが本当に手を染めていた別の横領の証拠を、検察に再提出するわよ」
マサヒロの顔が、恐怖で凍りついた。
さらに、サユリは、失脚寸前のエイミーと、サユリの圧倒的なリーガル・ロジックに脱帽せざるを得なくなったいとうかよこの前に、新しい事務所のロゴを置いた。
「私は中村マサヒロの『妻』としての利益をすべて放棄しました。だから、利益相反の申し立てはもう通用しない。これからは、あなたたちの対等なライバルとして、この街で戦うわ」
数日後。
新橋の古い雑居ビルの一角に、新しい真鍮の看板が掲げられた。
『処』- 新橋烏森法律事務所
オフィスからは、そびえ立つ東京タワーと、かつて自分を縛り付けていた神谷町の高層ビル群が見えた。
サユリはヒールの音を響かせながら、自らの足で新しい書類を開いた。彼女の後ろでは、マツコがガハハと笑い、あさこが優雅にコーヒーを淹れている。
組織の駒、誰かの駒だった時代は終わった。
中村サユリの、本当の「法の正義」のための闘いは、この新橋から始まるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
謎めいたキーワードから始まった本作ですが、舞台を神谷町へと移し、さらに松井あさこ氏、いとうかよこ氏、有吉マツコ氏、市川ノエル氏といった強烈な個性を持つ実力派たちが加わったことで、日本を舞台にした最高にスリリングなリーガルドラマが誕生しました。
組織の駒、あるいは誰かの善き妻で、
しかなかったヒロイン サユリが、法の力で真の自立を果たす爽快感を、少しでも感じていただければ幸いです。




