新章1-1 ニューヨーク・アセット・フリーズ
「新橋の街弁が、まさかの国際リーガルサスペンスに!? と驚かれた方も多いと思います。でもご安心ください。サユリさんはニューヨークの洗練されたエリート法廷に、新橋の『泥臭い赤提灯の精神』のまま殴り込みをかけに行きました。形はサスペンスですが、中身は変わらずスカッとする街弁の逆襲劇です!」
新章 - 新橋のジャンヌ・ダルク 〜ニューヨーク・アセット・フリーズ〜
読者のための「ニューヨーク編」超かんたんガイド
ここからのニューヨーク編は、サユリさんが「資格を持たない潜入スパイ」のように、アメリカの法廷を裏からハックする最高に熱い展開です!
「カタカナが多くて難しそう…」という方のために、今回のバトルの基本をめちゃくちゃ簡単にまとめました!
3秒でわかるニューヨーク編のあらすじ
日本の新橋で被害者を出した「国際ロマンス詐欺」の黒幕が、ニューヨークに金を隠した!
サユリはアメリカの弁護士資格がないため、「通訳」と「裏方」のフリをして法廷に潜入。
敵が裁判を秘密裏に終わらせようとする罠をひっくり返し、過去のルール(判例)を使って悪党の全財産をカチコチに凍結させる大逆転劇です!
これだけ読めば一瞬でわかる法律用語
小説に出てくる難しい言葉は、このイメージだけ持って読めばOKです!
非公開審理
敵の作戦。世間にバレないよう、「カーテンを閉め切った暗い部屋」でこっそり裁判をして、金を隠し逃げしようとする卑劣な罠です。
公開審理
サユリの狙い。カーテンを力づくで開けて、「日本中の被害者の怒りとスポットライト」を敵に浴びせ、逃げ道をなくす作戦です。
資産凍結
今回のゴール。詐欺師の銀行口座を文字通り「カチコチに凍らせて、1円も使えなくする」ウルトラCの厳罰です。
パラリーガル / インタープリター
サユリの今回の仮の姿。アメリカで弁護士として戦えないサユリが選んだ、「天才的な裏方(弁護士補佐)」と「被害者の心の通訳人」という最強の隠れ蓑です。
【登場人物】
中村サユリ:新橋烏森法律事務所の弁護士。「新橋のジャンヌ・ダルク」と呼ばれる。今回は現地資格の関係上、アメリカではパトリックの「パラリーガル兼法廷通訳人」として戦う。
青木キリコ(63):新橋の烏森通りで40年間ブティックを営む女性。国際ロマンス詐欺に遭い、店と人生のすべてだった虎の子の2,000万円を騙し取られる。
パトリック・山田:ニュージャージーの中堅法律事務所「グレイソンファーム」に所属する日系アメリカ人弁護士。大学時代のサユリの元カレ。当時は一線を越えないプラトニックな関係だった。
アンディ・ファイファー:アメリカ国内から国際ロマンス詐欺の網を操る、冷酷な巨大黒幕。
「新橋の街弁が、まさかの国際リーガルサスペンスに!? と驚かれた方も多いと思います。
でもご安心ください。サユリさんはニューヨークの洗練されたエリート法廷に、新橋の『泥臭い赤提灯の精神』のまま殴り込みをかけに行きました。形はサスペンスですが、中身は変わらずスカッとする街弁の逆襲劇です!」
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「しがらみのない新橋の街弁だからこそ、大企業の都合を無視して、ニューヨークへフットワーク軽く殴り込みに行けた」
これはコロンブスの卵というか、もの凄く痛快な逆転の発想です。
大手の法律事務所だと、大型の企業案件やクライアントの顔色、国際的な利害関係の調整に縛られて、絶対にこんな破天荒な動きはできません。新橋の小さな事務所で、守るべきは「目の前の泣いている被害者だけ」だからこそ、ルール無用のゲリラ戦ができる。
大企業案件がないという一見デメリットに見える環境を、「だからこそ、何でもありの最強の自由を手に入れた」という武器に転換する。
これこそが、サユリの本当の強みです。
それでは、新章スタートです。お楽しみください。
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新章 新橋のジャンヌ・ダルク 〜ニューヨーク・アセット・フリーズ〜
第1話:新橋の涙と、国境の壁(前編)
新橋駅烏森口を出てすぐ、昼夜を問わずサラリーマンたちの喧騒が響く路地の一角に、その店はある。
『ブティック・キリコ』。
お世辞にも広いとは言えない店内には、店主である青木キリコが長年の確かな審美眼で買い付けた、上品な婦人服や小物が美しく並んでいた。
新橋の殺風景なビジネス街において、そこは働く女性たちがホッと一息つける、ささやかなオアシスのような場所だった。
「サユリ先生、私は、どうしたらいいんでしょうか」
新橋烏森法律事務所の応接スペース。
パイプ椅子の背を丸め、小さなハンカチを握りしめて震えているキリコを、弁護士の中村サユリは静かに見つめていた。
キリコの目の前には、スマートフォンの画面が虚しく光っている。そこに映し出されているのは、海外の軍医を名乗る男との、甘く、そして最後は無惨に引き裂かれたメッセージのやり取りの足跡だった。
「国際ロマンス詐欺……。被害総額は、二千万円ですね」
サユリの隣で、パラリーガルの山村が、銀行の振込明細の束をめくりながら苦渋の表情を浮かべる。
二千万円。
それは、キリコがこの新橋の地で、朝から晩まで四十年間立ち続け、コツコツと築き上げてきた財産のすべてだった。
「最初は、ただの世間話だったんです。
突然、FacebookにDMがきたんです。
彼が戦地で孤立して、資産を日本に送るための手数料が必要だと言われて。
信じてしまった私が馬鹿だったんです。
あの二千万円は、店のこれからの運転資金で、私の人生そのものだった……!」
キリコが顔を覆い、堰を切ったように涙を流す。
サユリは立ち上がり、静かにキリコの肩に手を置いた。
「キリコさん。自分を責めないでください。悪いのは、人の善意を泥靴で踏みにじる詐欺師です。――マナブくん、警察への相談状況は?」
山村は、首を横に振った。
「ダメです。管轄の警察署の生活安全課に行きましたが、『相手が海外のサーバーと口座を使っている以上、日本の警察では捜査のしようがない。民事不介入だ』の一点張りで。サイバー犯罪対策課への繋ぎも、前例がないと断られました」
「なるほど、いつもの『縦割りの壁』ね」
サユリの目が、鋭く細められる。
警察は海外案件だからと腰が引け、法務省の入国管理局や外務省も、正式な逮捕状や国際手配がなければ犯人の情報を精査することすらしない。官僚機構の不作為という名の冷たい壁が、被害者の前に立ちはだかっていた。
「相手の男のアカウント、解析がおわりました」
ノートパソコンを携えた山村は、その画面には、複雑なIPアドレスの追跡データが並んでいる。
「男の正体は軍医なんかじゃない。アメリカのニュージャージーを拠点に、東南アジアの実行犯グループを遠隔で操っている巨大国際詐欺組織の幹部。
名前はアンディ・ファイファー。
金融の街ニューヨークの銀行口座を資金洗浄のハブに使ってる、とびきりの大悪党だ」
「アンディ・ファイファー……」
サユリはその名前を口の中で繰り返した。
相手は国境の向こう側、しかもアメリカの司法の裏に隠れている。日本の法律の手は、普通にやれば届かない。
「先生、やっぱり、お国が動いてくれないんじゃ、もう無理なんでしょうか……」
絶望に濡れたキリコの瞳が、サユリを見上げる。
サユリは窓の外に目をやった。烏森通りの向こう、夕暮れの新橋の街が、ネオンの光で徐々に彩られていく。
四十年間、あの街の片隅で懸命に生きてきた一人の女性の人生を、このまま暗闇に突き落とさせてたまるか。
サユリはゆっくりとキリコに向き直り、不敵な、しかし最高に頼もしい微笑みを浮かべた。
「キリコさん。日本の警察が動かないなら、私たちがアメリカの裁判所を動かします。―
山村くん、今すぐパスポートの準備をして。ニューヨーク行きのチケットを二枚取るわ」
「えっ!? サユリ先生、本気ですか?」
サユリはすでに自分のデスクへと歩き出していた。
「新橋の街弁が、地元の仲間を見捨てるわけにいかないでしょ。
アメリカの法律には、アメリカの法律の叩き方があるわ。……行くわよ、大西洋の向こう側へ」
国境の壁を越え、巨大な悪に挑むための、新橋の女弁護士の命懸けの旅が、今始まろうとしていた。




