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第23話: グラウンドでの誓い


 昌子おばあちゃんの特製唐揚げやいなり寿司を美味しそうに頬張る、担任の島田はるみ先生。


 しかし、お弁当を一切れ口に運んだ直後、はるみ先生の優しい笑顔がふっと曇り、小さく深い溜息が漏れた。


 サユリのポケットでスマートフォンが震えたのは、その時だった。画面に表示されたのは、新橋烏森法律事務所の共有無料相談メールの通知だった。


 送り主の欄には、目の前にいるはるみ先生の夫である『島田ユウマ』の名があった。


「あの……島田先生」サユリはスマホをしまい、ワカナ先生の目を真っ直ぐに見つめた。


「もしかして今、何かのトラブルを抱えていらっしゃいませんか?」


「えっ……!? 滝さん、どうしてそれを……」


 はるみ先生は驚愕に目を見開いた。


サユリが弁護士だと知って、堰を切ったように、レジャーシートの片隅でポロポロと涙を流しながら胸の内を明かし始めた。


 ワカナ先生の夫・ユウマさんには、傲慢で高圧的な兄がいるという。


 その兄が最近、実家の父親が少し体調を崩したことを機に、「自分が親の面倒をすべて見ているんだから、お前たち夫婦は今のうちに『遺産放棄の同意書』にサインしろ」と、毎日のように執拗に実印と書類を迫ってきているのだという。


 逆らえば「親不孝者」「縁を切る」と怒鳴り散らされ、ユウマさんもワカナ先生も精神的に追い詰められていた。


「バカ言っちゃいけねえや!」

 オレンジジュースのコップを持った、元ラグビー部の佐藤さんが真っ先に大激怒して立ち上がった。


「親の面倒を見てるからって、実の弟に事前に遺産を全部諦めろなんて、どんな横暴なスクラムだよ! 法律的にそんなの通るわけねえだろ!」


「佐藤くんの言う通りよ」有吉もカメラを置き、ソフトボールの一塁手らしい鋭い目で頷いた。「スマートな顔して身内を脅すなんて、まるで韓国ドラマに出てくる底意地の悪い悪役そのものじゃない。サユリ、レシーブの出番ね」


 サユリはワカナ先生の震える手を優しく包み込み、安心させるように微笑んだ。


その瞳には、すでに「法廷の狂犬」の、そして街弁としての頼もしい光が宿っていた。


「島田先生、安心してください。……きっぱり言わせてもらうわ。


 日本の民法上、『生前の遺留分放棄』には、家庭裁判所の極めて厳格な許可が必要なの。兄が勝手に作った紙切れに実印を押させたところで、そんなものは法的に一ミリの価値もない、ただの紙屑よ」


 サユリの淀みのない法理の解説に、ワカナ先生は涙を拭い、呆然と聞き入った。


「自分の都合のいいように法律を勘違いして、大切な弟夫婦を脅しにくるお兄さんね。……望むところよ。タイチの担任の先生の家庭を壊すような悪党、私たちの泥臭い法律のスクラムで、完膚なきまで『倍返し』で成敗してあげるわ!」


「よっしゃあ! 月曜の朝一番、そのお兄さんのところに突撃のアポイントっすね!」


 佐藤さんがオレンジジュースを飲み干して吼え、口の周りをマヨネーズだらけにしたヨシオも「僕のPython環境で、お兄さんの不当な要求の記録、すべて時系列データに整理しておきます」と力強く頷いた。


 タイチくんも「ママ、はるみ先生を助けてあげて!」と心配していた。


 秋晴れの心地よい風の中、新橋烏森法律事務所のメンバーは、島田先生の未来を護るための、新たなる力強いスクラムをガチリと組み上げるのだった。

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