第20話: 新橋烏森法律事務所のディフェンス
街弁だからこそ、新橋烏森法律事務所のディフェンスは鉄壁だった。
「サユリさん、源さんの手元にある『普通借地権の契約書原本』という紙の証拠がある限り、法的には僕たちの100%勝ちです」
貸し切られた『赤提灯・源ちゃん』のカウンターで、山村ヨシオが1リットルの牛乳パックをラッパ飲みしながら断言した。
きび砂糖のマフィンを咀嚼する彼のPC画面には、すでに敵の不穏なデータアクセスが映し出されている。
「そうよ。だから新藤サキなら、次はその紙の原本を物理的に盗み出すか、燃やしにくるはず。……でも残念だったわね、原本はもう源さんの店にはないわ」
有吉がビールグラスを傾けてニヤリと笑う。原本はすでに、新橋烏森法律事務所の頑丈な金庫内に厳重に保管されていた。
事務所には、ヨシオと天才ホワイトハッカーの長門マモルが構築した、常時監視カメラと夜間人間センサーが張り巡らされている。
「罠を仕掛けましょう」
サユリはオレンジジュースのグラスを掲げる佐藤さんを見つめ、不敵に微笑んだ。
「不法侵入者をその場で逮捕しても、トカゲの尻尾切りで終わるわ。それより、金庫の中にはヨシオくんに作ってもらった『精巧な偽物の契約書』を入れておくの。あえて泳がせて、奴らがその偽物の罠に飛びつくのを待つわよ」
――その夜、案の定、狙い通りに罠は弾けた。
深夜の事務所に侵入した闇バイトの窃盗犯は、センサーに検知されているとも知らず、金庫から『偽の契約書』をまんまと盗み出し、カールトン法律事務所の平井秀平の元へと持ち帰った。
翌日、ヨシオと長門マモルは、その偽の契約書がカールトンに渡った瞬間を、Pythonのパケット解析スクリプトで完璧に捉えた。
さらにマモルが神谷町の最高級ホテルの監視カメラをハック。部屋から出てきた新藤サキと秋元常務が、その偽物の書面を手に「これで原本は消えた。敷地を公売にかけられる」と確信し、密約を交わしている姿を、ヨシオのAI画像解析(口唇術)ソフトが瞬時にテキスト化した。
『秋元常務、これで新橋のガード下は私たちのものです』
『ああ、新藤先生。滝サユリめ、原本を奪われたとも知らずにマヌケなものだ』
「――引っかかったわね」
画面に浮かび上がる、不倫の証明、不正なデータ改ざん、そして『窃盗教唆(威力業務妨害)』の動かぬ電子証拠。
サユリは立ち上がり、完璧に仕上がった告訴状と示談書の書面をカバンに叩き込んだ。
「ヨシオくん、長門くん、最高のハッキングをありがとう。佐藤さん、今すぐメガ・グローバル社へアポイントを取りなさい。……今度こそ、あのクソシステムと傲慢なキャリアを、根元から引きずり倒してあげるわ!」




