第4話 ボロい劇狭物件に住んでいるという現実
俺は汗ばんだTシャツを洗濯機に放り込んだ後、シャワーを浴びた。
SMをやるには服を脱がないといけないのに、スポーツをやったことがないせいで、体は貧弱だった。
自分の体形について本気で何かしようと思ったのはこの時が初めてだった。
しかし、外を走るにしてもウェアーすら持っていない。
スエットで走っていたら変だ。
何か新しいことを始める時は金がかかる。
社交も金がかかる。
誰かと付き合う余裕が俺にあるのか。
だけど、金がないから彼女を作らないというのはもったいなさすぎる。あの子は男だから彼女にはなりえないが、将来、本気の相手につながるための道筋にはなるはずだ。
俺はエアコンのついた部屋でベッドに座った。
そこにも悲惨な現実が待ち構えていた。
俺という入れ物自体がぱっとしないが、部屋はもっと散々だった。
築40年の木造アパートのワンルーム。
ユニットバスの風呂トイレが付いていて、15平米くらいしかない。この間取りとしては、最低限の広さといえる。狭くて解放感ゼロ。1階なので眺望無しだった。
洗濯機はベランダに置かなくてはならず、一年の半分以上の期間、窓を開けるたび蚊が入って来た。
防犯面も最悪、2階と隣の音が丸聞こえで、もし部屋に誰か来たら隣の人に会話を全部聞かれてしまうくらいだった。
ラッキーだったのは、俺の部屋が角部屋という絶妙な位置で、隣に住んでいるのは80代と思しきおじいさんだったことだ。ちょっと喋ったことがあるけど、昔は建築現場で働いていたらしい。俺がアパートで喋ったことがあるのはその人だけだった。お金はなさそうだけど、まともな人だった。時々、部屋からうめき声が聞こえて来た。年だからどこか悪いのかもしれない。
だけど、その人が孤独死する心配はないと思う。俺が毎日気にしてるからだ。
他の部屋には、夜中騒いでしまう精神疾患のあるおばあさんも住んでいた。姿を見たことはないが、何度か警察を呼ばれていた。
それに、よく家庭訪問があるので、生活保護の人も住んでいるみたいだった。俺以外に大学生らしき人はいない。若い人で住んでるのはちょっと変わった感じの人だった気がする。
俺が通ってた大学は私立だったので、比較的余裕のある家庭の人が多かった。親しい友達がほぼいないので、実情はよくわからなかったが、俺ほど貧乏な学生には会ったことがなかった。
俺は学生としては底辺に位置する立場で、服も大学1年の時に買ったものが大半。Tシャツなんかは襟が伸びて色褪せていた。
急に自分がみすぼらしく思えて来た。
少なくとも大学生というのは、もっとこぎれいなところに住むものなのかもしれない。俺はもともと見た目や世間体を気にしないタイプだったせいでそんなところを選んでしまったが、普通はそんなアパートには恥ずかしくて住めないのだ。
しかし、俺は田舎出身で仕送りも多くなかったから、できるだけ安いところを借りたいというのがあった。見栄のために、いもしない恋人や友達を想定して引っ越すなんてあり得なかった。
巷にはシェアハウスもあるが、プライバシーを考えるとキッチンや風呂が各部屋にある方がいい。俺はあまりコミュニケーションが得意ではないから、人に気を使いながら風呂に入ったりするのが嫌だった。
俺の部屋の取柄といえば、前の住人がエアコンを置いていってくれたことくらいだった。真新しくて、オーバースペックなエアコンを稼働させながら、バイト終わりに一息つく時が至福だった。
手紙を開いた。
そしてアナン君のかわいい顔を見ながら、どうやって連絡を取るのがベストなのか考えはじめた。




