第5話 SNSを送る決断をするまで
俺はベッドに腰かけながら、どうやって連絡を取ろうか考えた。もらった手紙には、住所、電話番号、LIN〇アカウントが書かれていた。普通なら、身バレを危惧してフリーメールなどを使うのかもしれないが、随分壊れた人なんだろうなと思う。高校生だから仕方ないのか。
彼の名前「下城アナン」君をネットで検索したら、何と出て来た…!
バイオリンコンクリートで賞を取っていたのである!
身バレ上等。こういう育ちのいい人が知らない相手にSMやりたいなどという手紙を送るなんて…。どうかしている。相手が俺だったからよかったけど、性犯罪者みたいな相手だったらどうするんだろう。
さらに俺は地図ソフトで家の外観写真を見てみた。
塀に囲まれた超豪邸だった。
白い建物で屋根がないおしゃれな外観だ。
俺には金持ちの友達がいないので、そうした立派な家には入ったことはなかった。
芸能人が住んでいるような資産価値数億というような家である。
住所は東京都世田谷区の某住所。
世田谷といえば金持ちが住むところというイメージしかなかった。
次いで高校のことも調べた。
彼の通う高校は偏差値は75くらいの超難関校で、東大に行くような人が通うようなところだった。俺は地方出身者だからよく知らないが、一般人が人生で交わることのない層が通うところである。俺の大学も有名大学と言われているのだが、同級生でその高校出身の人には会ったことがない。
もし、俺たちが現実に会えることになったとしても、俺がSの役割になって彼を鞭でしばいたりするのはちょっと違うんじゃないかと思った。むしろ俺の方がしばかれるべき立場なのだ。
何で彼が指名したのが俺なのか…。
俺って何者でもないし、勝てるものは身長くらいしかない。
全くわからなかった。
しかし、SMのAVに出演するつもりで、俺がSを演じたら、何とかやれるだろうか。こんなに自分に自信がなく、人を攻撃するのが苦手な俺が?
アイドルみたいにかわいい子に向かって、「お前は本当は不細工なんだ。勘違いすんな」と言えるだろうか。彼は絶対に不細工ではない。むしろ誰から見てもイケメンなのだ。非の打ち所がないタイプだ。
しかし、この時、俺はあることを思い出した。
大学1年の頃の話なのだが、バイトを始めた頃のこと。
バイト先にいた中卒のおやじが俺に向かって「〇〇大学行ってるからいい気になるな。俺は中卒で働いているんだ」と言っていたのを思い出した。その時、俺たちは初対面だったし、そいつは店長などでもなかった。
俺にもこういうマインドが必要なのかもしれない。一般的に世間で価値のあるものを否定するマインドが。
「〇〇高校に通っているからっていい気になるな、お前は変態なんだと」
俺は〇〇大学だが、お前みたいな変態とは違うんだと。
俺は彼との接し方について、どうすべきかを延々と悩んだ挙句、ひとまずLineを送ることにした。
コミュ障だから電話は苦手だった。
流ちょうにしゃべれないことから変な人だと思われて、自然消滅したくなかった。
何て送ろうかな。
ここまでに5時間くらいかかっていた。
ただLineを送るまでにここまで悩むとは…。
恋愛というのは人生最大の時間の無駄であると思う。
5時間あったら本一冊読めたのに。
しかし、俺の人生に初めて訪れた、千載一遇のチャンスだ。
俺はこれから、友達でも同僚でもない複雑でもっと新しい関係をこれから築くのだ。
早い人は中学から彼女がいたり、初体験を済ませているのだ。
それなのに、俺は22歳で恋愛経験ゼロ。
女性とプライベートで喋ったことがほとんどなかった。
バイトでは仕事の話だけ。
プライベートな会話をしようと思っても、緊張しすぎて話が続かない。
それでも、同性だったらまだ話せる。
相手が誰であれ前に進むしかなかった。




