第3話 手紙に書かれていたこと
玄関に辿り着いた俺は、さっき起きた唐突すぎる出来事をもう一度脳内で整理していた。
俺の人生に何か面白いことが起きてる。
そんな感覚だった。
誰に話す訳でもないが、ネタになるという期待。
「男からラブレターもらっちゃったよー!!!」と自分で自分に照れてみせた。
何て書いてあるんだろう。
俺は下駄箱の上に置いてあるハサミで丁寧に封筒を開封した。初めてもらったラブレターだ。せっかくだから永久保存するつもりだった。もう、そんなものをもらうことは一生ないのは確実だった。
封筒の中には手紙だけでなく、ご丁寧に写真まで入っていた。
写真を入れるということはよっぽど外見に自信があるんだろう。
俺だったら最後まで顔は隠したくなる。
まあ、かわいかったし…自信があっても仕方ない。
写真の1枚目は顔のアップで、紅顔の美少年だった。
うわー。俺は赤くなった。
すんげーかわいい。
テレビに出れんじゃねえか…。
本当に俺なんかでいいのかな…。
俺は降ってわいたような幸運に身がすくんだ。
勉強もできて、多分家も金持ち、顔もいいって最強過ぎるだろ!
自分とはレベルが違いすぎるのだが、あっちは気にしないんだろうか。
人の好みはまちまちだ。あえて不細工が好きな人もいるみたいだし。
どこかに、たまたま俺の顔が好みだっていう変わり者がいてもおかしくない。
そして、もう一枚の写真は…。
手が止まった。
何だこれ!!!
俺は目を丸くした。
それは裸で床に寝ている写真だった。
部屋の中ではなく、学校の床みたいに冷たく固い灰色のやつだ。
全裸で下半身に手を回した状態で、切なそうな顔でカメラのレンズに目線を向けていた。もしや恍惚のまなざしか。
え?
嘘だろ?
あの若さで見られて興奮するタイプの人間がいるのか。
しかも見ず知らずの相手に…!!!。
勉強のし過ぎで頭がおかしくなってしまったんだな。
そうに違いない。
自分の裸の写真を渡すなんて、どんなメンヘラかよ!
通報されるぞ!
俺はさすがに引いてしまった。
顔がかわいいだけに痛すぎる。
普通の男だったら、イケメンを生かして取り巻きの女たちを手玉に取るほうにいくと思う。
道ですれ違っただけのイケメンでもない普通の大学生を誘ったりはしない。
やるとしても、ゲイ人口の多い地域でやらないと、ノンケの男はひっかけられないと俺でも思う。
場所間違ってるよ…!!!
そして、追い打ちをかけるように、同封されていた手紙の文面がさらに俺を打ちのめした。
『はじめまして。
突然の手紙でごめんなさい。
僕は〇〇高校に通うSMが大好きな男の子です。
あなたのことが前から気になっていたので思い切って手紙を書きました。
性奴隷にしてください。
いっぱい虐めてもらえたら喜びます。
何でもできます。
NGはありません。
連絡待ってます。
名前 下城アナン
住所 〇〇区〇〇3丁目8-9
電話番号 070-XXX-XXXX
Lime@*****
血液型 A型 生年月日2008年9月3日』
SMだって?!
まじかよ!
俺は興奮した。
俺もちょっとだけ興味はある。
実践する側ではなく、無料動画で人がやっているのを見るだけだが。
別に恥ずかしいことではない。
前に何かのアンケートで見たのだが、ちょっとでも興味がある人は全体の半数くらいだというし、特にLGBTではもっと支持率が高いらしい。
でも、何で俺がSM好きだってわかったんだろう!
ただ道ですれ違っただけで、俺の潜在的なサディスト的側面に気が付いたんだろうか。
俺自身がそんな嗜好については知りもしない。
大体、俺はSでもMでもないと思うのだが…。
それでも、この子とちょっと話してみたい。
心理学を専攻していても本気のメンヘラはあまりいない。
メンヘラというのは今はカルチャーやファッションであって、偏見を持っている訳ではない。
ただ、少しでも彼の人生をいい方向に向かせてやりたい。
一介の22歳の男として。
後から振り返ると、この時の俺は、人の問題にかまけているほど暇で余裕があったのだろうと思う。




