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8話 『片目で見る世界』

ダリストは止まらない。

 一機目を砕いた勢いのまま、弾丸を背に受けながら二機目へ踏み込む。

 爪が振るわれる。

 鋼鉄の胸装甲が裂ける。

 紙のように。

 そのまま、貫く。

 駆動中枢へ。

 火花が弾ける。

 焼ける匂い。

 オイルが血のように降りかかる。

 機体が沈黙した。

 だが。

 遅い。

 潰れた左目。

 その“空白”が、一瞬だけ世界を欠落させる。

 距離が狂う。

 奥行きが消える。

「──しまっ……!」

 死角。

 三機目。

 アストンへ。

『優先排除対象、固定』

 銃口が向く。

『掃射、開始』

 乾いた連射音。

 逃げ場はない。

 弾丸が、叩き込まれる。

 肉を削る。

 骨を砕く。

「……ぐ、ぁ……!」

 アストンの悲鳴。

 翅が裂け、音が途切れる。

 青い体液が床に広がる。

 翅の付け根が崩れ落ちるように折れた。

 呼吸が壊れる。

 肺が空気を押し出すだけの器になる。

『対象、生理機能停止寸前』

 一瞬の間。

『トドメに移行』

 マシンガンが捨てられる。

 金属音。

 腕部が展開する。

 振動ブレード。

 ギィィィン……

 赤いスキャナー。

 アストンを捉える。

 ゴミとして。

 脚部が火花を散らす。

 加速。

 一直線。

 狙いは――胸。

 動けない。

 間に合わない。

 振動ブレードが、振り下ろされる――

 その瞬間。

「……ッ!!」

 アストンの喉が、潰れるように鳴った。

 仮面の隙間から、濃緑の酸が噴き出す。

 自分の身体ごと焼く一撃。

 スキャナーが焼ける。

 軌道が、逸れる。

 一瞬。

 その“隙”に――

 ダリストが踏み込んだ。

 空気が潰れる。

 加速。

 背後へ。

「死ねッ!! ガラクタがああああッ!!」

 腕が振り下ろされる。

 衝撃。

 通路が軋む。

 ハンターが、潰れる。

 装甲ごと、粉砕される。

 沈黙。

 最後の一機が、ただの鉄屑に変わった。

 ダリストは、息を切らす。

 すぐに振り向く。

「アストン!!」

 這うように駆け寄る。

 抱き起こす。

 軽い。

 あまりにも、軽い。

 ヒュー……ヒュー……

 壊れた肺から、空気が漏れる。

「だ……い、じょうぶ……だと……思う……」

 声が、途切れる。

「ダリ……スト……」

 焦点の合わない瞳。

 もう、何も見えていない。

「俺は……今……どう……なってる……?」

 ダリストは、答えられなかった。

 腕の中の身体は、壊れている。

 弾痕。

 砕けた翅。

 止まらない体液。

 助かるはずがない。

 それでも。

「……急所は外れてる」

 嘘だ。

「かすり傷だ」

 さらに嘘だ。

「すぐ止まる。布を探してくる」

 声が、わずかに震える。

「だから――動くな」

「目を、開けてろ」

 嘘で塗り固めた言葉。

 それでもダリストは、目を逸らさない。

 赤く染まった片目で、周囲を睨みつける。

 諦めない。

 “アストン”を、死なせないために。

 ――そのためなら、何でも喰う。

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