41話『 覚醒の軍勢:B2解放の咆哮』
ダリストは、奪取した管理権限を迷いなく実行した。
そこに「選択」はない。すでに所有権は移っている。
指がコンソールに触れる。
――解除。
次の瞬間、十基の培養タンクが同時に呼吸を失った。
ゴォォォ……。
圧力が抜ける音は、まるで巨大な生物の最期の吐息だった。
続けて、強化ガラスが横に滑るように開く。
ドシャッ。
培養液とともに、十体の“兵器”が床へ落下する。
鎌腕。
外骨格。
神経触手。
どれも「生き物」ではない。
意志を削ぎ落とし、戦闘機能だけを残して“完成させた”軍用異形。
床に伏したまま、微細な痙攣だけが走る。
まだ世界を理解していない。
最初に動いたのは、一体だった。
首が持ち上がる。
次に、もう一体。
視線が一点へ収束する。
――ダリスト。
そこに立つ存在を、彼らは理解できない。
だが本能だけが告げていた。
「従っていた上位存在よりさらに上」
という矛盾した認識を。
ダリストは静かに言う。
「……自由だ」
短い沈黙。
それは命令ではない。
解放でもない。
ただ、“条件の解除”。
「ただし、俺の指示には従え」
翼が広がる。
その内側では三人の幼児が影に守られている。
破壊と保護。
相反する構造が、同一の肉体で成立していた。
「グレイパレスを潰せ」
言葉は簡潔だった。
曖昧さは一切ない。
「俺は上に行く。来るかどうかは、お前らが決めろ」
命令ではなく、選択の提示。
それはこの施設で初めて与えられた「自由」という概念だった。
沈黙。
一体が立ち上がる。
外骨格が軋む。
次の個体が触手を震わせる。
鎌腕が床を削る。
やがて理解が連鎖する。
――敵。
この施設そのもの。
その認識が、十体に同時に走った。
咆哮。
それは誕生の声ではない。
抑圧され続けた機能が「方向」を得た音だった。
――破砕。
格納庫の扉が内側から吹き飛ぶ。
金属が裂け、ボルトが弾け、災厄が廊下へと流れ出す。
『敵襲! 第四格納庫より実験体――』
通信は最後まで届かない。
断末魔と金属音が混ざり合い、B2は一瞬で「戦場」へと変質した。
ダリストは動かない。
必要がない。
すでに戦いは“彼の外側”で始まっている。
多足が壁を捉える。
静かに、上へ。
血と火花の回廊を背に、上昇路へと進む。
その先にあるのはB1。
そして地上。
背の影では、三人の呼吸だけが静かに続いている。
「……行くぞ」
短く告げる。
翼が一度、強く羽ばたいた。
戦場から切り離されるように、影が上昇する。
下では十の災厄が軍という秩序を食い破り、
上では二十万の兵が待機している。
だが、もはや比喩は不要だった。
これは侵入ではない。
――戦争は、すでに開始されている。




