25話『監視者A』
重い金属扉をこじ開け、ダリストはふらつきながらB5へと踏み込んだ。
――監視エリア。
壁一面に並ぶモニター。
半数以上は砂嵐を垂れ流し、死んだ魚のように明滅している。
だが、いくつかは“生きている”。
無人の廊下。
引き裂かれた死体。
崩壊した下層。
この施設のすべてが、無機質に“観察”されていた。
視界が揺れる。
内側の声が、脳を掻き毟る。
――だが。
熱が、見える。
モニターの影。
死角。
そこに“いる”。
「……出てこい」
低く、這う声。
電子音の隙間に沈む。
沈黙。
そして――
「まさか、ここまで来るとはな」
影が、動いた。
ゆっくりと光の中へ。
それは“人”の形をしていた。
顔だけは、かろうじて人間だった。
知性を残した老いた男。
だが――
額には、赤い角。
下半身は無機質な二脚機構。
そして腹部。
そこに臓器はない。
代わりに、裂けたような“口”が開いていた。
「私は実験体A」
静かな声。
「この地獄が生んだ、最初の検体だ」
その瞬間。
内側が、弾けた。
『……あああ……あの男だ……!!』
Jの記憶が焼けるように浮かび上がる。
『俺を“失敗”と呼んだ……!!』
憎悪が視界を赤く染める。
『……警戒しろ』
冷たい声。
セドリック。
『単体じゃない……施設と繋がっている』
ダリストは、ゆっくりと顔を上げた。
赤い角が軋む。
蛇の瞳が、Aを貫く。
「……関係ない」
短く、吐き捨てる。
右肩が唸る。
照準が、胸と腹部の“口”を同時に捉える。
翅が開く。
黄色の毒が、空気を歪めた。
「道を空けろ」
一歩。
「さもなければ――」
間。
「お前も、俺の中で生きることになる」
沈黙。
そして。
Aの腹が、わずかに歪んだ。
笑っている。
「いいだろう」
低い声。
「喰らい、繋ぎ、肥大した“バグ”」
視線が交差する。
「君が私を喰うか」
間。
「それとも、この施設が君を消化するか」
モニターが、一斉に瞬いた。
まるで“観測”そのものが呼吸しているかのように。
「――試してみよう」
監視室。
無数の視線の中で。
最初の“設計者”と、
積み重なった“異形”が。
静かに、衝突の準備を整えた。




