14話『鋼鉄の蹂躙、潰える再生か』
突撃は――踏み込んだ瞬間に、殺された。
実験体Eの左腕が回転する。 その動きは“振るう”ではない。 機構そのものが、空気を圧縮し、弾丸へと変換していく。
ドドドドドドドドドッ!!
「が、ああッ……!」
衝撃が、連続で肉を穿つ。
骨が砕ける。 筋繊維が千切れる。 だがダリストの肉体は、壊れながら再生を始め――そしてその再生すら、撃ち抜かれていく。
一発ではない。 二発でもない。
“同じ箇所”に、正確に、繰り返し叩き込まれる。
修復。 破壊。 修復。 破壊。
――破壊が、再生を上回る。
「ギギ……再生閾値、計測完了」
Eの声は冷たい。 そこに殺意はない。 あるのは観測だけだ。
「……過負荷へ移行」
多脚が床を叩く。
距離が消える。
ゼロ距離。
右腕が変形。 スナイパーライフルが“そこにあるべき形”のまま、ダリストの視界を埋めた。
逃げる余地はない。
発射。
――消失。
右肩が、存在ごと吹き飛んだ。
肉も骨も翅も、まとめて引き剥がされる。 アストンの翅が、根元から千切れ落ちた。
「あ、が……あッ!!」
痛みは遅れてやってくる。
だがこれは痛みではない。
“欠落”だ。
身体の一部が、最初から存在しなかったことにされる感覚。
ダリストは崩れ落ちる。
鉄屑の山へ叩きつけられ、肺から空気が抜ける。 視界が揺れる。 焦点が合わない。
吐こうとする。 酸を。
だが――出ない。
喉が潰れている。 代わりに、傷口から液体が漏れるだけだった。
意味のない、生存反応。
Eは止まらない。
多脚が、音もなく近づく。 規則的な足音。 迷いのないリズム。
頭部が、ゆっくりと持ち上がる。
砲身。
そこに熱が集まる。 空気が歪む。 世界が“撃たれる準備”を始める。
「……終わりだ」
初めて発された言葉。
だがそれは宣告ではない。
ただの工程名だ。
発射。
光。
音すら置き去りにして、空間が破裂する。
ダリストの身体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。 鉄骨にめり込み、そのまま落ちない。
焼ける匂い。
皮膚は剥がれ、肉は炭化し、骨が露出する。 再生は、確かに始まっている。
だが――遅い。
紫の左目が、かすかに明滅する。 消えかけては、また灯る。
まるで“諦めるな”とでも言うように。
指が、動かない。
呼吸も浅い。 生きているかどうかすら曖昧だ。
カチ……カチ……
音がする。
Eだ。
一定の速度。 一定の距離。
逃げる必要がないという歩き方。
ダリストの視界に、影が落ちる。
それはゆっくりと広がり、 やがて――すべてを覆った。
完全に。
その瞬間。
“終わり”が、確定した。




