12話『継承、あるいは異形の産声』
「――ああああああッ!!」
ダリストは喉を引き裂くように咆哮した。
腹の底。 アストンから奪い取った“酸”の核が、暴走している。
それを抑え込むという発想は、もうない。
ただ――解き放つ。
口を開く。
そして全方位へ、吐き出した。
――濃緑の濁流。
ジュワァァァァァァッ!!
極彩色の花弁が焼け落ちる。 蔓が崩れ、根が溶け、床を覆っていた“生命”が一斉に死んでいく。
煙と異臭が空間を満たす。
ここはもう植物園ではない。
ただの、腐敗した残骸だ。
「……バ、カな……私の……領域が……」
融合体の女が膝をつく。
背の花弁は焼け爛れ、もはや原形を失っている。
守るものは、もうない。
ダリストは煙を踏み分けて進む。
ぐちゃり、と何かが潰れる音。
気にしない。
右目はただ、獲物だけを見ていた。
「お前の領域など、俺の“飢え”に比べれば箱庭だ」
迷いなく、踏み込む。
女の身体を押し倒す。
驚くほど軽い。
そのまま背の花弁を掴み――
引き裂く。
ベリ、と肉と植物の混ざった音。
(……まだ、生きていたい……)
(……私、まだ……)
声。
記憶の残滓。
その奥にある“核”。
肉でも石でもない。
生命そのものを凝縮した結晶。
(……まだ、終わりたくない……)
「……やめて……私は……ただ……」
女の声は、もう空気と変わらない。
ダリストは一瞬だけ、それを見下ろした。
ほんの一瞬。
「……なら」
低く、吐き捨てる。
「俺の中で、生きろ」
ガブリ。
躊躇なく噛み砕いた。
――瞬間。
全身を雷のような衝撃が貫く。
「――ッ!!」
毒ではない。
侵略だ。
流れ込んでくる。
緑の奔流。
再生。 増殖。 侵食。
壊れた肉が、音を立てて組み替わっていく。
焼け爛れた皮膚が再構築される。
だがそれは“元の肉”ではない。
どこか植物じみた、異質な質感。
「……は……っ」
呼吸が乱れる。
そして――ダリストは左目に触れた。
潰れていたはずの眼窩が、内側から蠢く。
神経が再接続される。
視界が、開く。
新たな瞳。
――紫。
毒と再生が混ざり合った、濁った光。
「……ハ……」
笑いが漏れる。
その瞬間。
(……まだ、生きていたい……)
声。
頭の内側から。
「……っ」
呼吸が止まる。
誰の声かも分からない。
だが、確かに“いる”。
残っている。
消えていない。
「……黙れ」
低く吐き捨てる。
しかし声は消えない。
アストンの酸。 植物の再生。 そして“核”の記憶。
喰ったものが、消えない。
積み重なっていく。
自分という器の中に。
「……次だ」
そう言った。
――はずだった。
だが、その言葉はどこか他人のものに聞こえた。
ダリストは仮面を押さえる。
呼吸。
一拍。
そして迷いなく扉を蹴り破った。
地下7階へ。
名前を刻むために。
そして――
どこまで“自分”でいられるのかも分からないまま。




