31.最悪のコンビ
「このようにすれば出てくると思いましたわ」
頭ふわふわ女の正体は――姿を変えたマリアだった。
いつもの姿に戻った彼女は、呆れ半分笑い半分の眼差しを向けてくる。
絶妙に今まで見たことのない表情だ。
「すごいな、言った通りになってしまった」
アレンは普通に感心している。
グルだったらしい。
「……何なのこれ? どういうこと?」
「どうもこうもありませんわよ」
マリアは溜め息をついた。
「あなた、こそこそと執務室の様子を見ていたでしょう?」
「いや、その、こそこそするつもりはなかったんだけど」
「どのような意図であれ、覗き見でしかありませんわ」
「……」
アレンに視線を向けて助けを求めてみた。
「レヴィリアも事情があってのことではないか?」
アレンは助け船を出してくれた。
「いいえ、殿下。どのような事情があろうとも、覗きは覗き。王室付き魔法使いとして、魔法を経由した外部からの干渉は見過ごせませんわ」
マリアの前では第二王子の言葉など無力だった。
しかし、マリアの主張はもっともだ。
とてつもなく正当だった。
ぐうも何も出ない。
うっかりしていたが、この城は王室付き魔法使いであるマリアが護っている。
悪い魔法かどうかなんて関係ない。
魔法や魔力、魔道具、そういったものの気配や干渉は全て察知できる。
迂闊すぎた。
「さて、何のために魔法を使って様子を窺っていたのか、お聞かせいただきましょうか」
マリアが、にーっこりと笑みを浮かべた。
こんなに可愛いのに、とっても凶悪な笑顔だ。
今すぐにでも離宮に帰りたいけど、帰ったところでマリアからは逃れられない。
外に逃げたとしても、どこまでも追いかけられるだけだ。
そもそも魔法使い同士の逃走劇なんて泥沼でしかない。
「……い、言うわよ。言うから、その顔やめて」
「あら、友好的な笑顔でしてよ」
「こわいからやめて」
「失礼な方ですわね」
素直に伝えてみると、マリアは呆れた表情を浮かべた。
そちらの方が良い。断然良い。
マリアはアレンへ座るよう頷いたあとで私に向き直った。
「……言わないとだめ?」
食い下がってみた。
「当然でしょう。隠すなら無罪放免とはいきませんわよ」
「えっ、罪になるの?」
「魔法を使って王城内――それも執務室内の会話を盗み聞きしたのですから、侵入罪に相当するでしょうね」
「言います」
「賢明ですわ」
アレンが少し困ったような視線を向けてくる。
これ以上は助けを求めても仕方がない。
そのつもりはなかったとはいえ、盗み聞きになってしまったのは事実だ。
「……気になったのよ」
「執務の状況が気になったわけではないでしょう?」
「そんなところに興味なんてないわ」
「では、何が気になったのでしょう? 思い至りませんわ。教えてくださる?」
マリアは引かない。
たぶん、いや、絶対に私が言いたいことは通じているだろうに、本当に全て話すまでやめないつもりでいる。
こうなったときのマリアは手ごわい。
私は即座に白旗を上げた。
「……王子がどう過ごしているのか、気になったのよ」
私が白状した瞬間、マリアはすぐにアレンを振り返った。
「まあまあ、お聞きになりまして? レヴィリアは殿下のことが気になって気になって仕方がなかったようでしてよ」
「や、そこまでは言ってな――」
「……私のことが?」
「本人がそのようにおっしゃっていますもの」
「いや、だから、そこまでは――」
くるりと私に向き直ったマリアは、口許に手を当てて微笑んだ。
「あらあら、殿下のことが。気になりすぎて。わざわざ魔法を駆使してまで? それはそれは、あらまぁ、微笑ましい限りですわ」
「な、何なの、その喋り方……」
「これはわたくしが聞いては野暮というものですわね。さあさあ、殿下。レヴィリアと、さあ、おふたりで、どうぞ」
後ろに回ってきたマリアに押されて、アレンの前に進み出た。
アレンは少し戸惑っている様子だ。
正直、私も戸惑っている。
「――お話、できますわよね?」
脅しのような響きで言い放ったマリアの表情は分からない。
私は振り返ることなんてできず、アレンを見るしかなかった。
「私も聞きたいな、レヴィリアが何を知りたかったのか」
アレンが微笑んだ。
最悪のコンビだと思った。




