27.うまい話には裏がある
こうなってしまったら、隠していたところでどうしようもない。
私はあらいざらい吐くことにした。
マリアとの賭けに負けたこと、そもそも金欠だったのに借金までしてしまったこと。
そして、賭けに負けた代償として、宴へ参加するように言われたこと。
昼間だけの花嫁として扱われるようになったとき、夜に自由時間を確保できて嬉しかったこと。
更には離宮へ追いやられたことで、自由気ままな研究ライフを謳歌できると考えたこと。
ついでに万年金欠だったから王子妃の予算として研究費を確保できると大喜びしたことも。
(……我ながら、なかなか最悪よね)
追い出されてもおかしくないと考えていたのに、アレンは静かに聞いているだけだった。
それどころか、「わかった」と頷いた。
(何が?)
手元に落としていた視線を持ち上げると、がっつりアレンと目が合った。
「君が望むなら、これからも離宮暮らしで構わない」
「え?」
「もちろん、これまで通り予算の使い道は自由だ」
「えぇ?」
「必要なら額も引き上げよう。無尽蔵というわけにはいかないが、君のために最大限の協力はする」
「いや、え?」
「加えて、これまで通り普段の社交の場には出なくて良い。同席が必要な場合は依頼する」
「それはいいけど……」
「ただ、ひとつ」
大いに戸惑っている私を見つめて、アレンは言葉を切った。
とんとん拍子だ。
願ったりかなったりすぎて怖い。
タダより高いものはない。
私が身構えていると、アレンはふっと息を漏らして微笑んだ。
「君はもう私の妻だ。『昼間だけの花嫁』で終わらせたくない」
「ええ……?」
「もちろん、君の過ごし方に口出しはしない。だが、私と過ごす時間についても検討してほしい」
「……まあ、検討くらいなら」
私が肩を竦めると、アレンは柔らかく微笑んだ。
途轍もなく好待遇ではある。
これまで通りの生活はできる。ただ、たまにアレンの相手をしないといけない――ということくらいか。
「……何が目的?」
思わず聞いてしまった。
「そうだな。敢えて言うのであれば、君には私と共に在ることに利益があると感じてもらいたい」
「……つまり?」
「私と形だけではない夫婦になってほしいと考えている」
「えっ、やだ!」
あっ、と思って口を塞いだ。
反射的に言い放ってしまって、恐る恐るアレンを見遣る。
アレンは困ったように笑って「無理強いするつもりはない」と言い切った。
「だから、君の決断を待つよ。急かすつもりもない。ただ、居心地が良いようにはしたい」
「悪い話ではないけど……」
悪くない条件だが、だからこそ警戒してしまう。
渋っていると、アレンが急に頭を下げてきた。
「えっ、ちょっ、や、やめてくれる!?」
こんなところをマリアに見られたら、本気で殴られそうな気がして慌ててしまった。
「レヴィリア」
「なによ!」
「私は君に恩返しがしたかった。きちんとした礼も言えなかった。君に、何も返せていないんだ」
「離宮で贅沢させてもらってたけどね!?」
「それでは足りない。運が良かったと思って、どうか受け取ってほしい。その上で、考えてくれると嬉しいんだ」
顔を上げたアレンの真剣な眼差しに、少したじろいでしまった。
別にアレンのことは好きじゃない。
夫婦になったのも、賭けの代償だった。それは伝えた通りでしかない。
「魔法研究の時間、場所、そして資金、すべて提供する」
「パトロンかな?」
うっかり心の声が出た。
「そう思ってくれて構わない」
アレンは気にしていない様子で、真剣そうに頷いた。
本当に、ただの資金提供者でいいのかと問いたい。
「悪い話ではないはずだ」
それはそう、その通り。今の婚姻状態を解消したら、マリアへの借金チャラという約束まで失いかねない。
レティとして王子妃の立場のまま、これまで通りの生活が続く。
アレンの言うとおり、悪い話ではない。
私は曖昧に頷いたものの、それでもちょっと疑いの気持ちは持っていた。
このまま丸め込まれるわけにはいかないのだから――。




