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「かりそめの花嫁になれ」と冷遇されましたが、むしろウェルカム!~問題ありません、私は魔法の研究と実験さえできればそれで!~  作者: YoShiKa


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26.一転しての形勢逆転

「どどどっ、どうして王子がここに!?」

「わたくしがお呼びしましたのよ」

「それはそうだろうけど!!」


 アレンへの挨拶を終えたマリアは、彼に椅子を勧めてから再び腰を下ろした。

 いつの間にか私の隣にもう一脚の椅子が追加されていて、アレンは当然のようにそこに座ってくる。


「不本意ですけれど、あなたが逃げてばかりですので同席いたしますわ」


 頼もしいような、退路を断たれたような――そんな気持ちだ。

 私がフォークを握り締めたままで頭を抱えていると、隣から心配そうな眼差しが向けられた。


「……幻滅したでしょ」


 開き直って残りのチーズケーキにフォークを刺す。

 アレンは少し驚いたような顔をして首を振った。


「魔法使いレヴィリアは、どんな魔法使いだと言われてるか知ってる?」

「もちろん。美しくて聡明で幻想的な魔法使いだとも」

「そうね」

 

 だから、こんなにケーキにがっついてる姿なんて見られたくなかった。

 私にだって、私なりのイメージというものがある。

 それを守りたかったのに。

 なのに、アレンは微笑んで私の顔を眺めた。


「幻滅するはずがない。私の知らない一面を知ることができて嬉しいくらいさ」

「あなただって、美しい魔法使いのレヴィリアが好きなんでしょ」


 そういう男はたくさんいた。

 昔ならそういう男にころりといっていたけど、今は違う。

 今は研究がしたいだけ。

 

(だから、放っておいてほしいのに……)


 マリアをちらりと見てみたけど、助け舟を出してくれそうな気配はない。


「確かに君は美しいよ、レヴィリア」


 アレンが甘い声でささやいてくる。

 その瞬間、とてもうんざりした気持ちになった。


「月明かりのような髪も、雪のような肌も、異なる宝石のような瞳も、とても美しい」


 少し椅子を引いたアレンは、私の方へ身体を向けた。

 無視して最後の一口を食べた。

 勿体ない。あんなに美味しかったチーズケーキは、もう味がしない。


「だが」


 金色の髪がゆったりと揺れた。


「美しい女性は多い。マリアのようにね」

「あら、お上手ですわね、殿下。光栄ですわ」


 マリアはそのタイミングでそっと立ち上がった。

 そして、まるで『あとはお二人でごゆっくり』とでも言いたげに微笑んで去ってしまう。


(待って行かないで! 何そのタイミング! 打ち合わせでもしたの!?)


 慌てて立ち上がろうとした私を引き留めたのは、当然ながらアレンだった。


「私が惹かれたのは、あなたが美しいからではない。見ず知らずの子どもを助けたからだ」

「こ、子どもを助ける人こそ、いくらでもいるでしょ」

「いいや。あなたは見返りを求めることもしなかった」


 アレンの目は真剣だ。

 あの日はとてもよく晴れた日で、森の中はいつもより明るかった。

 村の子ならまだしも、身なりの良い子どもはよく目立つ。

 王族だと知らなかったとしても、それなりの家の子どもだということは見ればわかる。

 斜面から転がり落ちそうだった子どもを助けてやったのだ――と、そう言えば、お礼としてそれなりのお金は受け取れたかもしれない。


(……あのときは、全然考えてなかったなぁ)


 そういう意味では、彼の身なりが良かったから助けたわけでもなかったのかもしれない。

 もうそれなりに遠い昔の話で、どうして助けたのかなんて理由はもう思い出せなかった。


「レヴィリア」


 アレンの声がすぐ近くで私を呼ぶ。

 興奮して叫ぶような声ではなくて、そっと優しくささやく声はちょっと心臓に悪い。


「君が驚くほどの健啖家だとしても、私は幻滅などしないと誓うよ」

「そこまでのことじゃないわ」

「誓わせてほしい。君が不安なら、その不安を薄れさせたい」


 アレンの言葉も、眼差しも、真っ直ぐに私へと向いている。


(……ずるい。さっき会ったときは、あんなに興奮して少年みたいな顔をしていたのに)


 これではまるで形勢逆転だと思って、落ち着くために紅茶を飲んだ。

 アレンの前にも、いつの間にかケーキと紅茶がきちんと置かれている。

 最初からこのつもりだったのかと、マリアを呼びつけたくなってきた。


「……レティ」

「えっ?」


 思わず顔を上げて視線を向けると、アレンは笑った。

 まるで、悪戯が成功した少年のように。


「ははっ、やっぱりだ。レヴィリア、君がレティだね」

「……マリアから聞いたのね」

「違うさ」


 アレンの手が、私の手の甲に触れた。

 さっき返してもらったばかりのリングが中指に着いている。


「先ほど執務室に人が来ただろう? レティが部屋にいないという知らせだった」


 あのときのノックはそれか。

 だからどうしたのかと思っていると、アレンは再び口を開いた。


「部屋の前には人を配置していた。レティが誰にも知られずに部屋から出られるはずがないんだ。それに……窓が開いていた」

「……」

「あの高さの窓から出入りしたとしたら……そんなことができるのは、魔法使いだけだろう?」

「そんなの、私が連れ出したのかもしれないでしょ」


 そっと顔を背けて抵抗を試みた。


「君の髪から、レティの香油が香っている」

「うっそ!」


 慌てて髪に触れた。

 なめらかな触り心地がするだけで、匂いはちょっと自覚できない。

 そんなにキツい香りの香油じゃなかったはずだ。


「ははっ、前もそうだよ。君がくれた贈り物から、レティと同じ香りがしたんだ」


 笑うアレンは楽しそうだ。

 贈り物――ああ、そうだった。忘れていた。

 ブラッディ・ベアの件。

 マリアからガン詰めされたのに、すっかり忘却の彼方だった。


 悔しくなって、アレンの手を払った。

 でも、ここで逃げても仕方がない。いい加減、腹をくくらなければならない。

 運良く逃げられたとしても、どうせアレンにはマリアがついている。

 

「さあ、今度は君の話を聞かせてくれないか。どうしてこんなことを?」


 アレンは真剣に問いかけてきた。

 腹をくくろうとしたのに、一瞬でチェックメイトになりそう。


「そ、それは……マリアに聞いてくれる?」

「君から聞きたいんだ」


 アレンが今度は私の手をそっと握ってきた。

 しっかりとした大きな手。

 

 逃げ道は、もうなかった。

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