20.お茶会いじめの末路
「アレン殿下……!」
ご令嬢たちが慌てた様子で道を空けた。
そして、お茶をかけてきたローズローザと真っ先に加勢したメルティアだけが取り残される。
「何をしていた? 簡潔に答えろ」
「殿下。わたくしの不注意で、レティ様のドレスにハーブティーを溢してしまいましたの」
ローズローザはしれっと答えた。
少しは焦っているようだけど、本当にしれっと平然と答えている。
(こういうことを仕掛けるのは初めてではないのね)
私は自分のドレスの側面を見下ろした。
太腿から膝あたりまで、ドレスの色が変わってしまっている。
うっかり溢した、なんて範疇ではないことは明らかだ。
「ほう? それは誠か?」
アレンが小首を傾げるようにしながらメルティアに視線を向ける。
メルティアは若干緊張している様子で息を飲んでから「は、はい」と上擦った声で答えた。
「ローズローザ様がレティ様にぶつかってしまわれたようでした」
「そうか。ぶつかったのだな?」
「わ、私の目にはそのように見えましたわ」
メルティアが明らかに怯え始めた。
そして、絶妙に証言を変えている。
ぶつかったこと、つまりローズローザが私に当たったことしか見ていない、と。
(さっきは不慮の事故だったなんて言っていたのに)
違和感に眉を寄せていると、アレンが「ローズローザ・マレッセン」と低い声を出した。
「私が見た光景と、随分異なるようだが?」
アレンは大きな手鏡を私達に見せてきた。
そこには、ビュッフェ台の前でタルトを食べている私が映っている。
そして、私の後ろから近づいてカップを振るい、ハーブティーをぶちまけたローズローザの姿。
すごく気軽に、まるで庭に水を撒くように腕を振るってる。すごい。何の躊躇もない。
「そ、それは……」
「これは王室付き魔法使いマリアの魔道具だ。私には故意に見える」
ローズローザが明らかにうろたえた。
そして、周囲のご令嬢たちもざわつき始めた。
魔道具なんて持ち出されたら、反論のしようがない。
「申し開きはあるか?」
「も、申し訳ございません」
「この場で謝罪は受け付けん。この件はマレッセン公爵家に伝える」
「申し訳ございません! どうか――」
「下がれ」
ローズローザの言葉を遮ったアレンの目には、明確な怒りが滲んでいた。
嘘をついたのだから、当然だとは思う。そんなキレなくてもいいのに、とも思うけど。
ざまあみろーと思っていたところでアレンが振り返ったから、私は慌てて下を向いた。
「レティ、大丈夫か」
「は、はい……」
せっかく俯いているのに、アレンは私の前に膝までついて手を取ってきた。
私の手を、両手で上下から軽く挟んで撫でてくる。
顔を覗き込まれてしまったら、私は必死に悲しげな表情を作るしかない。
「……震えているのか?」
「いえ……」
(これは違うんです。タルトを邪魔されたムカつきと早く帰りたい気持ちと表情を作るための力みが出ているだけです)
「レティ」
立ち上がったアレンにエスコートされるがままに歩き出すと、背後からはご令嬢がたのざわめきが伝わってきた。
そして庭園を抜けた途端、侍女たちが駆け寄ってきて私の肩にショールをかけてくれる。
「殿下、レティ様のお召し替えを……」
「ああ。頼む」
「レティ様、お着替えをご用意いたしました。あちらへ」
(何というか……おおごとになってない? というか――)
数人の侍女たちへと引き渡された私は、アレンを振り返ることができなかった。
(――私が見た光景って、アレンは言ってた?)
アレンは、騒ぎが起きてほどなくして駆け付けてきた。
その場にはいなかったのに。
つまり、魔道具でずっと茶会の様子を見ていた、ということか。
(……なにそれこわい)
大切にされているというよりもちょっぴり怖さが勝つ。
身震いした私を見た侍女は、冷えてしまったのかと勘違いした様子だった。




