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「かりそめの花嫁になれ」と冷遇されましたが、むしろウェルカム!~問題ありません、私は魔法の研究と実験さえできればそれで!~  作者: YoShiKa


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19/30

19.刺々しいお茶会

 招待状が届いてから数日後――私、レティは既に後悔していた。

 そもそも離宮から王宮までの道のりが遠すぎる。馬車に座り続けたせいでお尻が痛い。

 魔法使いレヴィリアとしてさっと移動できないなんて、かなり面倒くさい。

 そして、第二王子であるアレンの妻としては久しぶりにやってきた王宮の光景は何も変わっていない。

 変わってはいない、けれど。


 (……嫌な感じだわ)


 表向きは丁寧に歓迎してくれる王宮の侍従たちだが、明らかに空気がよそよそしい。

 離宮についてきてくれた侍従たちのうち、今回は数名の侍女が私についてきている。

 けど、そんな侍女たちにまで、冷たい空気が向けられているように感じた。


 (……何なのこれ。どういうこと)


 跡継ぎも望めない王子妃として疎まれているのかもしれない。

 それにしたって、あんまりにも空気が悪い。

 私が眉を寄せていると、同行している侍女のひとりが「レティさま」と呼んできた。


「あちらです。お足元にお気を付けください」

「ありがとう」


 案内された庭園には、色とりどりの花。そして花々のように鮮やかなドレスを纏った令嬢たちが集まっていた。

 晴れ渡った空の下、咲き誇る花とご令嬢がた。立食式でお茶やお菓子を楽しんでいる。

 まるで秘密の花園のようなのに、私はすっかり気が滅入っていた。

 私が庭園に姿を現した途端、周囲が一瞬にして静まり返る。

 そして、さざ波のようにひそひそと囁き合う声が一気に広がっていく。


 気が弱くて大人しい地味な娘であれば、この時点であまりの居心地の悪さに倒れてしまうかもしれない。

 魔法使いレヴィリア(私)で良かった。


「あの方がアレン殿下の?」

「まあ、なんて控えめなドレスなのかしら」

「質素な方なのかもしれないわ」

「離宮暮らしも止む無しじゃありませんこと?」

「うふふ、お可哀想に」


(聞こえてますよー)


 私は心の中で舌打ちしつつ、地味な娘レティとして怯えた小動物のように肩を縮めた。

 今の私は第二王子に見初められたとはいえ、早々に離宮へ引っ込んだ大人しくて地味な王子妃。

 しかも平民だ。平静平静。落ち着こう。

 私は努めて冷静に、しかしちょっと怯えたように演技しながら真っ直ぐに会場を歩いていく。

 周囲には目を向けないまま、侍女から教えてもらった主催者のもとへ向かった。


「お初にお目にかかります。レティと申します」

「ごきげんよう、レティ様」


 このお茶会の主催者である公爵令嬢――ロズローザが、にこにこと笑みを浮かべて私を見た。

 でも、その目は全く笑っていない。

 明らかに「この平民風情が」と言いたげな目をしてる。


「離宮はお寂しいでしょう? 今日のこの場が気分転換に繋がればと思いましたの」


 ロズローザの言葉に周囲の令嬢たちがくすくすと笑い声を漏らした。

 残念だったな。夜はひとりで寂しいどころか、大忙しです。

 とは言えないから、私は曖昧に笑うことにした。高級お菓子だけ食べてさっさと帰りたい。


「お招きいただき光栄です」


 私は言葉少なに挨拶を交わして軽く一礼をしてから、その場を離れた。

 目当てはビュッフェ台にある旬のフルーツをふんだんに使ったタルト。

 あれさえ食べることができれば、今日のミッションは完了だと言って良い。

 なのに、私の前に別のご令嬢が出てきてしまった。え、誰なの知らない。


「レティ様、今宵は離宮へお戻りに?」

「え、ええ、まぁ」


 私が引き攣った笑みを浮かべて答えると、次から次へとご令嬢がたが集まってきた。

 どうして。

 

「まあっ、わたくし達、もっとお話ししたいのですが」

「そうですわ。夜会もございますのに、お帰りになってしまうだなんて」

「来月には王都でお祭りがありますけれど、そちらにはお出になりませんの?」

「アレン殿下のご公務がございますでしょう?」

「そういえば、殿下のお心はどのように射止められたのかしら?」

「そのお話、私もお聞きしたいですわ」


 (退いてよ!!)


 私は心の中で頭を抱えながら叫んだ。

 全然ビュッフェ台に辿り着けない。

 しかも、この人たち絶対そこまで興味ないでしょ。

 私が王子妃でありながら、夫であるアレンの公務やら何やらに同席しないことを面白がってるんでしょ。

 

 (女の嫌なところ煮詰め大会みたい!!)

 

 どうにかこうにか話を切り上げてビュッフェ台に辿り着いた。

 丸い皿にタルトを乗せて、フォークを入れる。


「ん!」

 

 瑞々しいフルーツも、ふわふわのクリームも、サックサクの生地も美味しい。

 ああ、面倒臭くて気分も悪かったけど、これを食べられただけで来て良かったと思える。

 離宮にもパティシエを呼んでほしい。贅沢かな。


 二つめのタルトもぺろりと食べて、三つめを皿に乗せて食べ始めた――その瞬間、


 バシャッ!と背後から液体をかけられた。

 

「あら! 嫌だわ、私ったら。ごめんなさい! お話に夢中になっておりましたの」


 背後からぶつかってきたのは、主催者のローズローザ。

 彼女の手にある空のカップからは、赤いハーブティーが滴り落ちていた。

 対する私のドレスはびしょ濡れ。地味なコルク色にハーブティーがしみ込んでしまっている。


「ああ、お召し物が……申し訳ございません。お着替えはお持ちですの?」

「い、いえ、この程度でしたら……」

「そんなそんな、いけませんわ。こんなにも濡れてしまって……嫌だわ、本当。ごめんなさいね」

 

 (し、白々しい!)


 タルトに夢中になっていた私も悪いけど、こんなに露骨な嫌がらせをされるとは思わなかった。


 (つまり、さっさと立ち去れということね。自分で呼んでおいて!)


「まあっ、レティ様! いかがなさいましたの?」


 そこに別のご令嬢が来た。だめだ、この人の名前も知らない。

 あれ、いや、うん。花嫁探しの宴にいたかもしれない。


「メルティア様、わたくしがお茶を溢してしまいましたの」

「まあまあ! レティ様、どうかローズローザ様をお許しになってくださいませ」

「わたくしもわざとではございませんの、レティ様」

「そうですわ、私も見てましたけれど、不慮の事故でしたわ!」


(あれ、なにこれ)


 私が必死に記憶を辿っている間に、わらわらとご令嬢たちが寄ってきた。

 まるで私がローズローザを理不尽に責め立てているかのように言ってくる。

 あれよあれよという間に、取り囲まれてしまった。


 どうすれば波風を立てずに事態を終わらせることができるのか。

 考えながら俯いたそのとき、

 

「何をしている」


 氷点下の声が響き渡り、庭園の空気が一瞬で凍りついた。

 私たちに近づいてきたのは、険しい顔をしたアレンだった。


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