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第8話 昼の試験営業

内装工事と魔道具の設置が終わり、店はようやく客を迎えられる姿になった。


 明るい壁。


 木目の揃った低い棚。


 入口と売り場を見渡せる会計台。


 冷却箱の中では、透明な瓶へ入れた茶が静かに冷えている。


 廃屋だった頃を知っているだけに、胸の奥がムズムズする。


 ここへ商品が並び、お客様が入ってきて、硬貨がチャリンと鳴る。


 想像しただけで、今すぐ扉を全開にして「どなたでもどうぞぉぉ!」と叫びたい。


 でも、勢いだけで開ければ、失敗も勢いよく雪崩れ込んでくる。


「夜営業の前に、昼間だけ店を開けましょう」


 朝の打ち合わせで告げると、ミアが目を丸くした。


「昼のお店とは競わない約束じゃなかったんですか? 許可をもらったばかりなのに、もう破ったと思われません?」


「だから1日だけ。午前10時から午後4時まで、6時間の試験営業よ」


 その疑問がすぐ出たことが、私は嬉しかった。


 前日にパン屋、雑貨屋、肉屋を回り、目的と商品を説明してある。


 売上を奪うためではなく、会計や設備を実際のお客様で試すため。


 雑貨屋と重なる品は石鹸やタオルなど少量だけで、値段も下げない。


 おにぎりに使う鮭や昆布、子供向けの菓子も、村の商人を通じて仕入れた。


「試験結果と、お客様から出た要望は店主の皆さんにも伝えるわ。昼に売れそうな物は、むしろ昼のお店で扱ってもらえるかもしれない」


「夜明けの星だけじゃなく、村のお店にとっても試験なんですね」


「ええ。通常の昼営業を始めるわけではないし、ガレオ村長にも報告済みよ」


 今日の商品は、おにぎり5種類。


 塩、梅、鮭、昆布、刻んだ野菜の漬物。


 冷たい茶。石鹸やタオルなどの日用品。小さな菓子。


「棚が空いておりますが、これだけでよろしいのですか?」


 アンナが並べ終えた商品を見る。


「今日調べたいのは、品数の多さではないわ。お客様が入口で迷わないか。値札を読めるか。会計で詰まらないか。何味を選ぶか。冷たい茶へ本当に5銅貨を払うか」


 そして、もう一つ。


「ミアの接客デビューね」


「わ、私ですか!?」


「ほかに誰がいるのよ」


「研修ではリリアーナ様がお客様役でした。でも本物のお客様は、何を言うか分からないじゃないですか! 急に『空を飛びたい』って言われたら、私どうしたら……!」


「少なくとも、うちでは飛ばせないと答えましょう」


「そういう意味じゃないですぅぅ!」


「分かってるわ。私とアンナも会計台に立つ。困ったら『少々お待ちください』。一人で全部を完璧にしようとしないこと」


 ミアは緊張した顔で、何度も頷いた。


◇◇◇


 午前9時30分。


 アンナが外へ看板を運んだ。


 試験営業、いよいよ開始。


 失敗は歓迎――でも、お客様の前では、できれば少なめでお願いします!


 そう心の中で祈った直後、ミアが看板の裏表を逆に置いた。


 通りから見えるのは、何も彫られていない木の板である。


「ミア」


「はい!」


「最初の改善点が見つかったわ。看板は、文字を街道へ向ける」


「……はい」


 返事の勢いが半分になった。


 分かる。私も今すぐ、何も見なかった顔で店の裏へ隠れたい。


 アンナが看板をクルリと返す。


「開店前に見つかって幸運でした」


「アンナさん……!」


 ミアの目が潤む。


 失敗を成功へ言い換える技術まで、共同事業者が上手すぎる。


 看板には、夜明け前の空へ一番最後まで残る星と、その下で両手に温かな椀を包む意匠が彫られていた。


『便利屋 夜明けの星』


「コンビニ、ではないんですね」


「こちらでは意味が伝わらないもの。便利な物がある店だと、一目で分かる呼び方にしたかったの」


「夜明けの星は?」


「一番暗い時間に、もうすぐ朝が来ると知らせる光でしょう?」


 口にすると、少し照れくさい。


 追放された夜、私が欲しかったものも、人生が終わったのではないと知らせてくれる小さな光だった。


「すごく、いい名前です。夜にこれが光っていたら、帰ってきたって思えそう」


 ミアの言葉に、返事が一瞬遅れた。


 商品を売る店だけではない。


 誰かが戻ってこられる明かりになれたら――そんな大きな願いが胸へ湧く。


「まずは、今日の6時間を乗り切ってからね」


 照れ隠しで現実へ戻すと、アンナが黙って看板の傾きを直した。


 照明。冷却箱。加熱炉。値札。釣り銭。包み紙。手洗いの水。試食用の小皿。


 確認項目を一つずつ読み上げる。


「あと30分です」


 ミアの声が震えていた。


「怖い?」


「はい。誰も来なかったら、私たちが考えたものを誰も欲しくないってことですよね」


 胸へ刺さる。


 必要ないと言われる怖さは、私も知っている。


「そのときは、おにぎりが3人分増えるわ。それを食べながら、どうして来なかったのか考えましょう」


「逆に、たくさん来たら?」


「きっと何か失敗する。そのための試験営業よ。失敗を見つけられたら、夜に直せる」


「失敗しても、終わりじゃないんですね」


「ええ。記録しなかった失敗だけが、次も同じ顔でやって来るの」


 ミアは大きく息を吐き、拳を一度だけ握った。


◇◇◇


 午前10時。


 扉の札を『閉店中』から『開店中』へ返す。


「便利屋『夜明けの星』、試験営業を始めます!」


 扉を開けた。


 シン……。


 誰もいない。


 街道を荷車が一台通り、御者がこちらを見たが、そのまま行ってしまった。


 向かいの衛兵詰所からハンスが手を振る。


 店内では、冷却箱の低い唸りだけが続いていた。


 5分。


 8分。


「看板、読めない位置でしょうか」


 ミアが3度目に入口を覗いた。


「外で呼び込みした方がいいですか? 私、大声なら得意です!」


「それは研修で村中を起こしかけたから、待ちましょう。知らない店へ最初に入るのは、勇気が要るもの」


 口では落ち着いて答えながら、心の中では秒ごとに叫んでいた。


 お願い、誰か来て!


 見るだけでもいい!


 なんなら入口で首を突っ込んで帰るだけでも、客数へ0.5人と書きたい!


 10分ほど過ぎた頃、道を歩いていた中年の男が足を止めた。


 窓から店内を覗き、私たちと目が合うと、一度離れかける。


「新しいお店です。見るだけでも、どうぞ」


 私が声をかけると、男は頭をかきながら扉をくぐった。


 来た。


 来た、来た、来たぁぁぁ!


 記念すべき最初のお客様!


「い、いらっしゃいませ! お、お疲れ様でひゅ!」


 ミアが最後を盛大に噛んだ。


 男が目を瞬き、私は唇を噛んで笑いを堪える。


 ミアの耳まで、ボッと赤くなった。


「本日が初めてのお客様なんです。店員も少し緊張しております」


「俺が最初か。それなら、まあ、噛むこともあるよな」


 男の表情がほぐれた。


「それにしても、ずいぶん明るいな。昼なのに灯りまで点けるのか?」


「夜と同じ状態で、商品の見え方を試しています」


 ミアは一度深呼吸し、今度は落ち着いた声で冷却箱を案内した。


「暑いので、冷たいお茶はいかがですか?」


 瓶を渡すと、男は掌で包み、驚いて持ち替えた。


「本当に冷たい。井戸水より、ずっと冷えてるぞ」


「氷属性の魔石で冷やしています。一瓶、5銅貨です」


「5銅貨なら、もらおう」


 チャリン、チャリン。


 最初の硬貨が、会計台へ置かれる。


 その音だけで、胸が熱くなった。


 王女として受け取った宝石より、小さな5枚の銅貨が今は眩しい。


 ミアは受け取った額を数え、なぜか釣り銭箱へ手を伸ばした。


「代金と、お預かりした額が同じよ」


 小声で伝えると、ハッとして手を止める。


「5銅貨、ちょうどいただきました。ありがとうございます!」


 男は茶を一口飲み、冷たさを味わうようにゆっくり息を吐いた。


「畑帰りにこれはいいな。夜だけってのが惜しいくらいだ」


「今日は試験です。昼のお店でも冷たい物を扱えるよう、結果は村の店主さんと相談します」


「そうか。じゃあ、いい結果の一人に数えといてくれ」


 笑って出ていく背中を、3人で見送った。


「ありがとうございました。またお越しください!」


 今度のミアは噛まなかった。


 扉が閉まった瞬間、ミアが私へ振り返る。


「売れました……! 本当に、私たちのお店で!」


「ええ。最初の5銅貨よ!」


 抱き合いたいほど嬉しい。


 でも、次のお客様が扉の外からこちらを見ていたので、3人同時にスンと姿勢を正した。


◇◇◇


 次に入ってきたのは、買い物籠を持った女性だった。


 店内を見回す目には、興味と同じくらい警戒がある。


「いらっしゃいませ。ごゆっくりご覧ください」


 ミアが道を塞がないよう一歩下がると、女性は安心したようにおにぎりの棚へ近づいた。


「握り飯にしては、ずいぶん形が揃ってるね」


「おにぎりと呼んでいます。よろしければ、こちらを一口どうぞ」


 小さく切った塩むすびを差し出す。


 女性は口へ運び、ゆっくり噛んだ。


 すぐには何も言わない。


 また無言の試食!


 ミアの面談でも思ったけれど、作り手の心臓に悪すぎる。せめて眉毛だけでも感想を教えて!


「強く握ってないのに、崩れないね。塩も、後からちょうどよく分かる」


 よかったぁぁ。


「具は5種類ございます」


「じゃあ、梅と鮭と昆布を一つずつ。家の者にも食べさせよう」


 さらに棚を一周し、石鹸とタオルも籠へ入れた。


「食べ物と日用品が同じ店にあると、あちこち探し回らなくて済むね」


 便利という価値が、初めてお客様の言葉になった。


 胸の奥で、パァッと何かが灯る。


 私が前世から持ってきた考えは、独りよがりではなかった。


「ありがとうございます。温かい物と日用品は、袋を分けますね」


 ミアが丁寧に包むと、女性はその手元を見て頷いた。


「よく気がつくね。また来るよ」


 その一言で、ミアの背筋がスッと伸びた。


 女性は店を出ると、通りで会った隣人へ「握り飯が柔らかくて、茶が冷たいよ」と話していた。その声につられ、店を覗く人が少しずつ増えていく。


 口コミって、本当に足が速い。


 次に来たのは、廃屋の窓から話した子供たちだった。


「最初のお客になるって言ったのに、もう二人いる!」


「約束の時間を伝えていなかったもの。ごめんなさい」


「ずるい!」


「では、最初の子供のお客様ということでどう?」


「それならいい!」


 切り替えが早い。


 子供たちは色鮮やかな飴や、小さな焼き菓子の棚へ駆け寄った。


「これを2つ買ったら、あれも買える?」


 ミアは答えを教えず、硬貨を一緒に並べる。


「ここから2枚使ったら、何枚残る?」


「3枚! じゃあ、こっちも買える!」


「お母さんに聞いてからね」


「えぇぇ……」


 その一言には、世界が終わったような絶望がこもっていた。


 やがて母親を連れて戻る子もおり、店内には少しずつ笑い声が増えていった。


◇◇◇


 正午前には、3人から4人のお客様が途切れず店内にいる時間もできた。


 同時に、問題も起きる。


「鮭のおにぎりはどこ?」


「冷たい茶を2本ください」


「この石鹸、雑貨屋と同じ値段かい?」


 質問が重なり、ミアが全部へ答えようとして、会計中の硬貨を見失った。


「えっと、鮭は右で、お茶が……石鹸は……あれ、今どこまで数えました!?」


 顔から血の気が引いている。


「少々お待ちください」


 アンナが茶を渡し、私が石鹸の値段を説明する。


 ミアは一度目を閉じ、最初のお客様の硬貨から数え直した。


「急がなくていい。速く間違えるより、待っていただいて正しく渡す方がいいわ」


「はい。私、全部できると思って、また手と口が足りなくなりました……」


「研修で一度やった失敗だから、今は止まれた。ちゃんと前へ進んでいるわよ」


 昼過ぎ、ガレオ村長が入ってきた。


「試験の様子を見に来ました」


「一日限定であることは、入口にも掲示しました」


 ガレオはまず掲示を確かめ、次に手洗い場、値札、会計台と見て回る。


 冷たい茶と塩むすびを買い、店の隅でゆっくり味わった。


「うまいですね。それに、外から中がよく見える。明るくて清潔なら、夜でも入りやすいでしょう」


「改善点も出ています。質問が重なると、3人でも声がぶつかりました」


「良い話だけでなく、その内容も月の報告へ書いてください」


「もちろんです。売上だけ並べて『大成功でした!』と胸を張ったら、あとで困るのは私たちですから」


 許可を取った日より、ガレオの声は少し柔らかい。


 それでも村長としての目は、店の喜びだけでなく危険も探している。


 その視線を、今はありがたいと思える。


 午後2時。


 おにぎりの棚が、きれいに空になった。


「……売り切れました!」


 ミアの顔が輝く。


「喜びたいところだけど、まだ営業中よ」


「あっ」


 来店した女性が空の棚を見て、残念そうに眉を下げた。


「もうないの?」


「ただいま追加を作っています。30分ほどお待たせします」


「じゃあ、今日は茶だけにするよ」


 一品は買ってくれたが、おにぎりの売上を一つ失った。


 嬉しい品切れ――なんて、店側の言い訳だ。


 欲しいときに買えなかったお客様には、ただの欠品でしかない。


「最初から、もっと作ればよかったです。私、棚が空になって喜んじゃいました」


 ミアが悔しそうに唇を噛む。


「余って捨てる可能性もあった。今日の時間別の数を、次の予測に使いましょう」


「でも、さっきのお客様には……」


「次に同じ時間へ切らさない。それが一番誠実な謝り方よ」


 失敗を責めるのではなく、数字へ変える。


 前世の店長が私にしてくれたことを、今度は私が伝える番だった。


◇◇◇


 午後3時。


 杖をついた老人が、ゆっくり店へ入ってきた。


「薬はあるかね。喉が少しつらくて」


 ミアは、すぐ私を見た。


「申し訳ありません。薬は扱っていないんです。症状が続くなら、村の先生をご案内します」


「いや、畑を歩いて喉が渇いただけじゃ」


「でしたら、冷たいお茶があります。ただ、冷たすぎる物が苦手なら常温の水もお出しできますよ」


 老人は茶を少しずつ飲み、ほっと息をついた。


「ああ、生き返る。こんな暑い日に、冷たい物をすぐ飲めるとはな」


「無理はなさらないでくださいね。今度は、お孫さんとお菓子も見にいらしてください」


「そうしよう。ありがとう」


 薬を求める人がいるからといって、すぐ棚へ置くわけにはいかない。


 効き目がある物は、間違えれば害にもなる。


 医師の資格、保管方法、症状を判断しない売り方。確認することが多すぎる。


 要望と、提供してよい物は別なのだ。


 午後4時。


 最後のお客様を見送り、札を『閉店中』へ戻した。


「お疲れ様でした」


 扉を閉めた途端、ミアがその場へヘナヘナとしゃがみ込む。


「足が棒です……笑顔って、頬まで疲れるんですね。私、今なら真顔の彫像になれます」


「最初から最後まで立ち続けないよう、次は休憩を交代で入れましょう」


「アンナさんは、疲れていないんですか?」


「疲れております。ですが、今座ると立てない気がするので、先に硬貨を数えます」


 共同事業者も、無敵ではなかった。


 私も腰を下ろした瞬間、脚がジンジンと痛みだす。


 6時間。


 たった6時間でこれなら、10時間の営業時間を3人で分担するには、休憩と交代をもっと詰めなければならない。


 アンナが会計台の硬貨を数える。


「320銅貨です」


「320!」


 ミアがガバッと顔を上げた。


「やったぁぁぁ! 初日から320銅貨の利益です!」


「待って。売上よ。まだ全部が儲けではないわ」


「違うんですか?」


「材料費。仕入れた日用品と菓子。試食分。包み紙。今日使った魔石の補充費。それに、ミアの賃金」


「私のお給料も、そこから……」


「そう。売上は、お客様から預かった評価。利益は、店を明日も続けるために残る力よ」


 帳簿へ一つずつ記入すると、320という数字は目に見えて小さくなった。


「数字が、しぼんでいきます……」


「分かる。その気持ち、痛いほど分かるわ」


 それでも赤字ではない。


 お客様は、本当にお金を出して私たちの商品を選んでくれた。


 その事実は、誰にも縮められない。


◇◇◇


 3人分の茶を置き、そのまま会計台で反省会を始めた。


「良かった点から挙げましょう」


「おにぎりが好評でした。冷たい茶も、暑い日にすごく喜ばれました」


 ミアが答える。


「明るくて清潔、値札が見やすいという声もありました。食品と日用品を一度に買える点も評価されています」


 アンナが帳面を読み上げた。


「改善点は、おにぎりが午後2時に欠品。質問が重なると会計を止めた。休憩の予定がなかった。薬を尋ねられたときの案内先が決まっていない」


「失敗、こんなにあったんですね……」


 ミアの肩が少し下がる。


「だから成功よ。夜に同じことが起きる前に、全部見つけられたもの」


 私は紙を4つに分け、担当と期限を書いた。


 おにぎりは時間別の製造表を作る。


 会計中の人は会計に集中し、別の一人が案内する。


 休憩を交代で取る。


 薬は村の医師へ相談し、許可なく売らず、診療所の場所と時間を掲示する。


「薬も置くのですか?」


「まだ置かないわ。先に医師へ相談する。お客様の要望を叶えることと、言われたまま何でも売ることは違うもの」


 窓の外では、昼の光が傾き始めている。


 今日喜んでくれたのは、普段から買い物のできる村人たちだ。


 本当にこの店を待っているのは、店が閉じた後も働く人、夜に村へ着く旅人、朝を待てない事情を抱えた人たち。


「昼の試験営業は、これで終了。明日から通常の昼営業を始めるわけではありません」


 私は、二人へ確認するように言った。


「次は夜の安全を整える。警報、窓の補強、衛兵への連絡。それができてから本番よ」


「はい!」


 ミアは、今日最初の失敗を書いた帳面を大切そうに閉じた。


 看板を店内へしまう前、私はもう一度その名を見上げる。


『便利屋 夜明けの星』


 今日、小さな星は昼の光の中で試しに瞬いた。


 看板を抱えたミアが、今度は文字をきちんとこちらへ向けて尋ねる。


「次は間違えません。夜は、いつ開けますか?」


「安全の確認が終わったら。急いでも、手順は飛ばさないわ」


「はい。でも私、早く『いらっしゃいませ』って言いたいです」


 6時間で足が棒になったと言ったばかりなのに、もう次のお客様を待っている。


 その顔を見たら、私まで胸がムズムズしてきた。


「私もよ」


 次にこの看板を表へ向けるとき、外はきっと真っ暗だ。


 だからこそ、今日よりずっと明るく見える。

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