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第45話 情報戦、悪評を逆手に


「リリアーナ様、大変です!」


王室御用達の調印式から戻って、ほっと一息ついていたところに、ミアが血相を変えて駆け込んできた。


「今度は何?」


「街で変な噂が流れてるんです!『元王女が違法商売をしている』って!」


「違法商売?」


何それ、聞いたことのないデマね。でも、タイミングが良すぎる。王室御用達になった直後にこんな噂が流れるなんて。


「具体的にはどんな内容?」


「『夜営業は法律違反』とか『税金を払っていない』とか『不衛生な環境で食べ物を作っている』とか...」


全部デタラメじゃない。営業許可はきちんと取っているし、税金も正しく納めている。衛生管理に至っては、医師のお墨付きまでもらっている。


「誰がそんな噂を流してるの?」


「それが...発信源がはっきりしないんです。『人から聞いた』『どこかで聞いた』ばかりで」


典型的な情報戦の手口ね。発信源を曖昧にして、噂だけを一人歩きさせる。


「客足に影響は?」


「それが...」


ミアが申し訳なさそうに答える。


「昨日より2割ほど減ってます。『本当かもしれない』って心配する声も聞こえて...」


やっぱり。どんなにデタラメでも、噂の威力は侮れない。


◇◇◇


その日の夕方、ロウが市場から戻ってきて、さらに詳しい情報を教えてくれた。


「リリアーナさん、噂の詳細を調べてきました」


「ありがとう。どうだった?」


「かなり組織的です。同じ時間帯に、複数の場所で同じ内容の噂が流されています」


組織的...やっぱりヴェルナー商会の仕業ね。王室御用達になったことで、相当焦っているのでしょう。


「内容も悪質で、『元王女だから特別扱いされている』『庶民を騙している』『王室も騙されている』など、感情に訴える内容が多いです」


巧妙ね。私の元王女という身分を逆手に取って、嫉妬心を煽っている。


「でも、常連のお客さんは信じてませんよ。『あんな店が違法なわけがない』『いつも清潔だし、美味しいし』って擁護してくれてます」


それは救いね。でも、新規のお客さんには影響があるでしょう。


「ゼルドはどう見る?」


「完全に情報戦ですね」


ゼルドが冷静に分析する。


「正面攻撃で失敗したから、今度は信用を失墜させて間接的に潰そうという戦略です」


「対抗策は?」


「通常なら、同じように情報戦で対抗するところですが...」


「でも、それは私たちらしくないわね」


そう、泥試合に持ち込まれたら、相手の土俵で戦うことになる。それでは勝ち目がない。


「私たちは、真実で対抗しましょう」


◇◇◇


翌朝、私は思い切った決断をした。


「公開内覧会を開催するわ」


「内覧会?」


「そう。全てを見せるの。厨房、倉庫、帳簿、すべて公開して、疑問に答える」


ミアが驚いている。


「でも、そんなことしても大丈夫ですか?企業秘密とかもあるでしょうし...」


「企業秘密より信頼の方が大切よ。隠すものがないことを証明すれば、デマは自然に消える」


これは逆転の発想。相手が隠蔽を期待している時に、完全な透明化で対抗する。


「参加者はどうしましょう?」


「誰でも参加可能。村人、近隣住民、商人、記者...来る者拒まずよ」


「記者も?」


「もちろん。王都新聞だけでなく、他の新聞社にも声をかけて」


メディアを味方につけることで、正確な情報を広範囲に伝えられる。


「準備は大変ですが...面白そうですね」


ロウが興味深そうに言う。


「正々堂々と真実を見せることで、逆に信頼度が上がるかもしれません」


そう、これは単なる防御じゃない。攻撃への転換よ。


◇◇◇


内覧会の準備に3日かけた。店内の隅々まで清掃し、書類を整理し、説明資料を作成。


「これが私たちの基準です」


衛生管理のチェックリストを壁に貼り出し、日々の清掃記録も公開する。食材の仕入れ記録、保存方法、調理手順...全て可視化した。


「すごく丁寧ですね」


オルフが感心している。


「ここまでやってる店は、王都でもそうそうないぞ」


「ありがとうございます。でも、これが当たり前だと思っています」


安全対策についても、詳細な説明パネルを用意。警報魔法陣の仕組み、避難経路、緊急時の連絡体制...全て図解付きで説明。


「お客様を第一に考えた設備」


これが私たちのモットー。それを形にして見せることで、真意が伝わるはず。


◇◇◇


内覧会当日、予想以上の人が集まった。


村人はもちろん、近隣村からの参加者、王都からの記者、そして...明らかに様子を探りに来た商会関係者らしき人物も何人か見える。


「皆様、本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます」


私は参加者全員に向けて挨拶した。


「昨今、私どもの店について様々な憶測が飛び交っております。それらの疑問にお答えするため、今日は全てを公開いたします」


ざわめきが起こる。中には懐疑的な表情の人もいる。


「まず、厨房からご案内いたします」


普段は関係者以外立ち入り禁止の厨房を、完全公開。


「こちらが調理スペースです。毎日の清掃記録がこちら」


壁に貼られたチェックリストを指差しながら説明。


「食材の保存方法はこの通りです。温度管理、湿度管理、全て記録しています」


参加者たちが真剣に見入っている。


「清潔ですね...」


「こんなに管理が行き届いているなんて」


「噂とは全然違うじゃない」


だんだん雰囲気が変わってきた。


◇◇◇


続いて倉庫と事務所も公開。


「こちらが仕入れ記録です。全て正規の業者から適正価格で購入しています」


帳簿を見せながら説明。


「税務申告書もこちらにあります。税金は法律に従って正しく納めています」


「営業許可証がこちら。村長の正式な認可を受けて営業しております」


参加者の一人、商会関係者らしき男性が帳簿をじっくり見ている。粗を探そうとしているのでしょうが、残念ながら不正は一切ない。


「従業員の労働条件についてもご説明します」


雇用契約書、給与明細、労働時間記録...全て公開。


「働く人を大切にすることが、良いサービスの基本だと考えています」


ミアとロウが誇らしそうに頷いている。


「質問がございましたら、何でもお答えします」


参加者から次々と質問が出る。


「夜営業は法律的に問題ないのですか?」


「村長の正式な許可を得ており、法的に全く問題ありません」


「食中毒などの事故は?」


「開店以来、一件も発生していません。こちらが保健所の検査記録です」


「利益率が高すぎるのでは?」


「適正な利益率です。詳細な原価計算書もお見せできます」


全ての質問に、データと証拠で答えていく。


◇◇◇


内覧会の終盤、参加者の雰囲気は完全に変わっていた。


「デマだったのね」


「こんなにしっかりした店だったなんて」


「逆に安心して利用できるわ」


王都新聞の記者が興味深そうに質問してくる。


「なぜここまで透明性にこだわるのですか?」


「隠すものがないからです。そして、お客様に安心していただきたいから」


「通常、企業はもっと秘密主義ですが」


「秘密主義は不信を生みます。透明性こそが真の競争力だと考えています」


記者がメモを取りながら頷いている。


その時、一人の男性が慌てて会場から出ていこうとした。商会関係者らしき人物の一人。


「あの方、先ほどから落ち着きがありませんね」


ゼルドが小声で言う。


「もしかして...」


私たちの視線に気づいた男性が、さらに慌てて逃げるように立ち去った。


「発信源の特定、完了ですね」


◇◇◇


内覧会終了後、参加者たちからは感謝の言葉が相次いだ。


「疑っていて申し訳ありませんでした」


「こんなに誠実な店だったなんて」


「今度から安心して利用させていただきます」


村の人たちも誇らしそう。


「リリアーナ様の透明性には頭が下がります」


ガレオ村長が感心している。


「普通なら隠したくなることまで公開するなんて」


「隠すものがありませんから」


「それが一番強い武器ですね」


翌日の王都新聞は、内覧会の様子を大きく報道。


『透明性で勝負 夜営業店が完全公開』

『デマを一蹴 誠実経営の実態』


記事の中で、記者は私たちの透明性を高く評価し、「新しい企業経営のモデル」と称賛している。


◇◇◇


内覧会から1週間後、状況は完全に逆転していた。


「客足が過去最高です!」


ミアが嬉しそうに報告する。


「内覧会を見た人たちが、『安心できる店』って口コミで広めてくれてるんです」


デマが逆に宣伝効果を生んだのね。


「信頼度も大幅向上ですね」


ロウが売上データを見ながら言う。


「新規客が3割増えています」


「透明性が評価されたということですね」


ゼルドが分析する。


「隠蔽体質が当たり前の商業界で、完全公開は革新的でした」


そして何より、デマの発信源も特定できた。


「あの慌てて逃げた男性、調べてみたらヴェルナー商会の職員でした」


ゼルドの調査で判明。


「しかも、他の場所でも同じ噂を流していたという証言が複数出てきています」


完全に証拠を押さえた。


「でも、告発はしないの?」


ミアが聞く。


「その必要はないわ。真実が明らかになれば、嘘は自然に消える」


実際、デマは完全に沈静化した。逆に、ヴェルナー商会の信用失墜につながっている。


◇◇◇


その夜、一人で店内を見回しながら、今回の教訓を整理する。


情報戦に対する最強の武器は、透明性だった。隠すものがなければ、どんなデマも恐くない。


「正々堂々と戦えば必ず勝てる」


これが今回得た確信。汚い手を使わなくても、誠実さと透明性があれば必ず勝てる。


むしろ、相手の汚い手が明らかになることで、こちらの株が上がった。正義は必ず勝つということね。


「次はどんな手で来るかしら?」


でも、もう恐くない。どんな攻撃でも、真実と透明性で跳ね返してやる。


窓の外を見ると、村の夜景が穏やかに広がっている。デマの嵐を乗り越えて、店はより強くなった。


「便利は正義」の理念に、「透明性こそ力」という新しい信念が加わった。


これからも、隠すことなく、堂々と歩んでいこう。真実ほど強い武器はないのだから。


◇◇◇


翌週、驚くべきニュースが飛び込んできた。


「リリアーナ様!王都新聞を見てください!」


ミアが興奮して新聞を持ってきた。


『ヴェルナー商会職員、虚偽情報拡散で処分』


記事によると、内覧会で逃げた男性職員が、上司の指示で組織的にデマを流していたことが内部告発で発覚。会社として公式に謝罪し、関係者を処分したという。


「自滅したのね」


結局、汚い手を使った方が自滅した。正義は勝つものなのね。


「でも、これで終わりじゃないでしょう」


「もちろん。向こうもまだ諦めないでしょうね」


でも、もう怖くない。どんな攻撃が来ても、真実と透明性があれば必ず乗り越えられる。


「次は正面から勝負してくるかもしれませんね」


「それなら大歓迎よ。正面勝負なら、絶対に負けない」


技術力、サービス品質、顧客満足度...どれを取っても私たちの方が上。正々堂々と戦えば、必ず勝てる。


情報戦という汚い戦いを制したことで、また一つ成長できた。そして何より、正義は必ず勝つという確信を得られた。


これが、真の強さというものなのね。

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