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第44話 王宮の視線

「リリアーナ様、本当に、お一人で行かれるんですか?」


 王室の封書を前に、ミアの声が震えていた。


「一人ではないわ。アンナに同行してもらう」


 私は平静を装いながら、面会を受ける返書をもう一度確かめた。


 呼び出しではなく、依頼。目的は、王都夜間実証販売と、王宮の夜勤職員への食事提供についての確認。先方は宮内省次官、エドワード・ランバート。


 文字を読めば、それだけだ。


 けれど封蝋の紋章は、私に別のものを見せる。


 臣下の並ぶ謁見の間。床へ落ちた追放命令書。何も言わず目を伏せた人々。あの日、私は王女という身分だけでなく、ここにいてよいという感覚まで取り上げられた。


「大丈夫よ。私、元王女だから王宮には慣れているもの」


 口元は笑っていたが、膝はガクガク一歩手前だった。慣れている? 追放されてから一度も入っていないでしょうが!


 普通なら「大口契約キター!」と飛ぶところなのに、胃では不安が煮えている。


「リリアーナ様」


「何?」


「左右で違う手袋をお持ちです」


 見れば、片方は外出用、片方は厨房掃除用だった。


 スン……。


「慣れている人は、こういう高度な組み合わせをするのよ」


「では、高度でない組み合わせへ交換いたします」


 アンナは正しい一組を差し出した。後ろの二人は必死に口を押さえている。


 アンナが手袋を差し出しながら、静かに首を振る。


「慣れた場所ほど、痛むこともございます」


 私は返事をせず、手袋へ指を通した。


「それでも行くわ。王宮に戻るためではなく、契約を聞くために」


 アンナはうなずいた。


「では私は、護衛ではなく記録担当として同行いたします」


 その言葉で、少し呼吸がしやすくなった。


◇◇◇


 白亜の門は、一年ほど前と何も変わっていなかった。


 変わっていたのは、私の持ち物だ。


 追放の日は、小さな鞄一つ。今日は実証報告の写し、店舗の営業許可、供給可能数の試算表、従業員の交代表を抱えている。


 門番は私の顔を見て、一瞬だけ目を見開いた。


「リリアーナ……様」


 敬称をつけるべきか迷った間が、はっきり分かった。


「宮内省次官との面会です。こちらが受領書です」


 私は身分ではなく、書類を差し出した。


 門番は封印番号と名簿を確認し、訪問者用の札を渡した。


「ご案内いたします」


 特別に歓迎されたわけでも、追い返されたわけでもない。手続きどおりに通されたことが、今はありがたかった。


 廊下を進むたび、知っている景色が現れる。


 朝の光を受ける高窓。冬には冷えた大理石。会議へ遅れぬよう、裾を持ち上げて走った角。


 すれ違う侍女の一人が、私に気づいて立ち止まった。彼女は深く礼をしたが、私はその名を思い出せなかった。


 王女だった頃の私は、多くの人に世話をされながら、その人たちが何時に食事を取り、何時に眠るのかを考えたことがあっただろうか。


 夜勤職員への食事提供。


 封書にあった言葉が、急に顔を持った。


「手が冷えておられます」


 アンナが、私にだけ聞こえる声で言った。


「逃げたいからではないわ」


「逃げたいお気持ちがあっても、ここまで来られた事実は変わりません」


「……逃げたいと言ったら、軽蔑する?」


「いいえ。馬車を呼ぶか、五分休むか、手を握るかを伺います」


「そこは『リリアーナ様なら大丈夫です』って、格好よく励ますところでは?」


「大丈夫でない時に困りますので」


 相変わらず、夢のない正論である。


 今ほしいのは英雄にする言葉でなく、怖いまま次を選べる余地だった。


「五分はいらない。手だけ、袖の陰で貸して」


 アンナの指が、ほんの一瞬だけ私の手を包んだ。


 私は足を止めず、応接室へ入った。


◇◇◇


「お越しいただき、ありがとうございます。宮内省次官のエドワード・ランバートです」


 立ち上がった男性は五十歳ほどで、銀の混じった髪を短く整えていた。


「リリアーナ・フィオーレです。こちらは事業の記録を担当するアンナ。発言と合意事項を記録させていただいてよろしいでしょうか」


「もちろんです。こちらも調達官と書記を同席させます」


 机の上には、王都新聞だけでなく、昨日提出した実証報告の写しが開かれていた。


「百二十食を十二分前に完売。未購入二十三名。事故、会計差異、温度基準外はなし。ただし蓋への苦情が一件」


 エドワード次官は、記事の見出しより先に数字を読んだ。


「新聞だけを見てお呼びになったのではないのですね」


「新聞はきっかけです。相談したいのは、行列の華やかさではありません」


 王宮では、夜警、厩舎番、清掃員、厨房の仕込み係、夜間伝令、灯火管理の職人が夜を通して働く。厨房は宴席や王族の要請を優先し、職員向けの温食は夕刻で終わる。遅れた者は冷えたパンか、各自で持参したものを食べるしかないという。


「昨夜の実証を見た夜警隊から、同様の食事を王宮内で受け取れないかと要望が出ました」


「人数と時刻は?」


「対象は日によって百二十から二百。受渡しは午後十一時と午前二時を想定しています」


 私はすぐに返事をしなかった。


 今の私たちが、村の二店舗を続けながら毎晩二百食を王都へ運ぶことはできない。馬車の遅れや冷却設備の故障が起これば、王宮だからと危険な品を出すわけにもいかない。


「こちらが当初案です」


 調達官が契約書を差し出した。


 月額三百金貨の固定契約。王室御用達商人の称号。王宮から要請された夜は、指定数を優先供給する。


 三百金貨。


 頭の中で金貨がジャラジャラ降った。


 冷却箱、増設できる!


 予備馬車、雇える!


 賃金、上げられる!


 ついでに私の寝台も、腰が痛くならない物へ――いや、最後のは待ちなさい。まず店よ。


 三百金貨が理性の扉をドンドン叩く。開けて、今すぐ署名して、と。


 喉まで「お受けします」が出かかった。


 その時、アンナの筆がカリッと鳴った。彼女は何も言わず、第八条の横へ小さな印を付けている。


 危ない。


 金貨の山へ飛び込む寸前だった。


 村で積み上げてきた月の売上と比べても、心が動かない額ではなかった。二号店の設備を増やせる。予備の冷却箱も買える。皆の賃金を安定させられる。


 だからこそ、額から目を離して、小さな文字まで読む。


 第八条。王室の信用と供給安定のため、契約期間中、受託者は王都内において同種の夜間販売を行わないものとする。


「これは、独占条項ですね」


 エドワード次官の表情が、わずかに固くなった。


「王宮への供給が一般販売によって不足しては困ります。また、御用達の名を掲げた品が無秩序に売られれば、警備と品質の管理ができません」


 囲い込みたいだけ、と切り捨てるのは簡単だ。


 けれど王宮には、混入やなりすましを防ぐ責任がある。緊急時にも決めた食数を必要とする。理由には、守るべきものも含まれていた。


 それでも、このまま受けることはできない。


「申し訳ありませんが、この条件では署名できません」


「三百金貨でも、ですか」


「三百金貨だからこそです」


 言った!


 言ってしまった!


 商売人の私が「三百金貨を逃がす馬鹿ーっ!」と叫び、別の私が「独占は駄目!」と応戦する。脳内は大乱闘だ。


 表面だけは、元王女らしく顎を引いた。


 靴の中で丸まった足先まで、次官に見えませんように。


◇◇◇


「理由を伺えますか」


 エドワード次官は怒らず、契約書の上で手を組んだ。


「第一に、今の供給能力では最大二百食を毎晩約束できません。第二に、王都の一般販売を止めれば、昨夜買えなかった夜勤の方々へ次の機会を作れません。第三に、一つの契約へ収入を依存すれば、更新されなかった時、従業員と生産者が一度に仕事を失います」


「王宮の夜勤者も、あなたが支援したい民では?」


「もちろんです。だから、できる数と条件で受けたいのです。王宮だけを選ぶことと、王宮で働く人を助けることは同じではありません」


 私は試算表を開いた。


「三十日間の試行を提案します。週三夜、午後十一時に八十食。根菜汁は密閉容器を改良できるまで除外し、肉まんと保存条件を確認できる品に限定。遅延、検品不合格、設備故障時の連絡手順も決めます」


「午前二時の職員には届きません」


「最初から二便を約束して両方崩すより、一便を成立させ、受取後の保温時間を確認します。二便目は次の審査事項にしてください」


 調達官が何かを書き留める。


「一般営業の継続は譲れないと?」


「はい。ただし、王室御用達の紋章は指定された納品箱にだけ使い、一般商品へ表示しません。王宮分の材料と記録を分け、要請の上限と期限内で優先枠を確保します」


「固定三百金貨は?」


「実際に検品を通った納品分への支払いにしてください。月額三百金貨を上限とし、試行中の単価、追加費用、支払日を明記していただきたいです」


 部屋が静かになった。


 三百金貨を断ったのではない。三百金貨という光で、できない約束を見えなくしないようにした。


 エドワード次官は契約書を閉じた。


「前例のない条件です。私の一存では回答できません」


「承知しています。調達、法務、警備、厨房、会計の方に確認してください。今日は持ち帰っていただいて構いません」


 勝ち負けを急がず、私は席を立つ準備をした。


「一刻ほど、お待ちいただけますか」


 次官が言った。


「関係部署を集めます。せっかく数字を持って来られた方を、前例の一言で帰したくはありません」


◇◇◇


 別室で待つ一刻は、長かった。


 窓の向こうに、使用人用の中庭が見える。夜勤を終えたらしい二人が、石段へ腰を下ろし、紙に包んだパンを分けていた。


 王女だった頃の私は、王宮を国の中心だと思っていた。


 けれど中心を動かしているのは、会議室に名札のある人だけではない。夜の門を守り、馬を洗い、廊下の蝋を磨き、夜明け前の厨房に火を入れる人たちだ。


 私は、その暮らしを知らなかった。


「民のため、というお言葉だけで断られなくて、よろしかったと思います」


 向かいのアンナが言った。


「耳に立派だから、使いたくなったわ」


「立派な言葉は、数量と責任を隠すことがございます」


「三百金貨にも、心は動いた」


「動かなければ、商売を背負う方ではございません」


「本当に? 『理念をお金で売るなんて』って、失望しない?」


「お金を軽く扱う方が、従業員の暮らしを軽く扱うことになります」


「でも、さっきは寝台まで買おうとしたわ」


 アンナの眉がわずかに上がった。


「口には出していなかったはずよ?」


「三百金貨をご覧になった時、腰をさすっておられました」


「私の身体、内心を喋りすぎじゃない?」


「長年お仕えしておりますので」


 かなわない。王宮の中で、私は声を立てずに笑った。


 アンナの声には、責める色がなかった。


「皆へ安定して払えると思ったの。でも、そのために皆へ無理な夜勤をさせたら、何を安定させたのか分からないわね」


 話しているうちに、震えの理由が変わっていた。


 もう、追放者として裁かれることだけを恐れてはいない。


 事業責任者として、できない約束をしてしまうことが怖かった。


◇◇◇


 再び応接室へ呼ばれた時、机には五人の担当者がいた。


 法務官が独占条項を削り、代わりに御用達表示の使用範囲を書き加える。警備担当は、納品者の事前登録と封印番号を求める。厨房責任者は、受取後の保温と配布を王宮側の責任として記録する。会計官は、検品済み数量に応じた支払いと、月額三百金貨の上限を確認した。


「三十日試行。週三夜、一夜八十食。午後十一時に一便。一般向け営業は妨げない。ただし、王宮分として確保した材料を無断転用しない」


 エドワード次官が一項ずつ読み上げる。


「設備故障、交通遮断、温度逸脱があれば、供給者は直ちに通知し、安全上必要なら納品を中止できる。中止した品への支払いはないが、隠して納めた場合を除き、直ちに契約全体の違反とはしない」


 失敗をゼロと誓わせるのではなく、失敗を隠さず止められる条項だ。


「王室御用達商人の指定は試行期間中の条件付き。正式継続は監査結果と双方の合意による。いかがですか」


 私はアンナが取った記録と照らし合わせた。


「支払日は、納品月の翌月十日。単価の変更は双方の書面合意。従業員個人の氏名や健康情報を、広報目的で公表しないことも加えてください」


 会計官と法務官が相談し、追記した。


「これなら、店へ持ち帰って実施能力を確認できます」


「まだ署名されないのですか?」


「働く人へ見せず、私一人で受ける契約ではありません」


 官僚の前で華麗に署名。元王女の大逆転、キター! でも、その一筆の後始末をする仲間へ相談しなければ、格好よさでなく独りよがりだ。


 エドワード次官は、初めてわずかに笑った。


「明日正午まで、回答をお待ちします」


◇◇◇


 宿へ戻ると、ミアとロウとゼルドが、食堂の一角を空けて待っていた。


「どうでした?」


 ロウが身を乗り出す。


「条件付きの王室御用達。三十日だけの試行よ」


 三百金貨という上限にミアは目を丸くしたが、ゼルドはすぐ配送表を引き寄せた。


「週三夜、八十食。王都まで毎回運ぶなら、天候遅延と御者の交代が要ります。村で作った物を運ぶだけでは、保温限界が厳しい」


「実証で借りた調理場を、納品日の夕方だけ使えるか確認しましょう」


 アンナが言う。


「スノーベル店の仕込み班から毎回人を抜くのも危険です」


「私、王宮へ配る係をやります!」


 ミアが手を挙げる。


「午後十一時の受渡しは、あなたの通常勤務終了と重なる。毎回は任せないわ」


「でも、私も役に立ちたいです」


「役に立っているわ。だからこそ、都合のいい時だけ『まだ子どもだから守る』、忙しい時だけ『立派な戦力だから働いて』なんて使い分けはしない」


「でも、王宮ですよ? わたしが包んだ肉まんが王宮へ行くんですよ? 見届けたいじゃないですか!」


「分かる! 私だって初回は荷車の後ろを走ってついていきたい!」


「走らないでください」


 ロウとアンナの声がぴたりと重なった。


「では、せめて初回だけ?」


 ミアが上目で頼む。


 可愛い。ずるい。でも情に負ければ勤務表が泣く。


「昼の包装確認まで。納品後の報告は、翌朝いちばんにあなたへ渡す。それでどう?」


 ミアは頬を膨らませた後、渋々手を差し出した。


「約束ですよ。良かったことだけじゃなく、失敗も全部教えてください」


「約束するわ」


 ロウは輸送、ゼルドは王都の臨時調理場と仕入れ、アンナは納品記録と請求、私は全体責任。二号店から応援を借りる時も、マークの承認と代替要員を条件にする。


 計算すると、八十食なら通常営業を削らず試せる。設備費を含めても赤字にはならない見込みだが、三百金貨の上限へ届くには追加発注が必要で、それは今回の契約には含まれない。


「つまり、三百金貨もらえると決まったわけじゃないんですね」


「ええ。大きな数字は、上限ほど遠くにあることも多いの」


 全員で条文を読み、最後に署名欄の横へ実施責任者の名を加えた。


「受けましょう」


 私が言うと、皆がそれぞれの不安を残したまま、それでもうなずいた。


 それは熱狂ではなく、背負える重さを測った後の合意だった。


◇◇◇


 翌日の調印には、私とアンナ、輸送担当のロウ、昼の包装確認を担うミアが出席した。ゼルドは臨時調理場の確認を優先する。


 宮内省の小会議室で、エドワード次官が契約の要点をもう一度読み上げた。


「王室御用達商人、リリアーナ・フィオーレ。三十日間、王宮夜勤職員への食事供給を試行する。これは王宮が貴店のすべてを保証するものではなく、本契約外の行為を免責するものでもない」


「承知しました」


「また王宮は、一般向け営業の中止を求めない」


 私たちは署名し、双方の書記が写しを封じた。


 華やかな大広間も、楽団もなかった。けれど、働く人の食事を決める契約には、その静けさが似合っていた。


 ミアが従業員代表の確認欄へ署名する時、手が少し震えていた。


「私の名前も、王宮の紙に残るんですね」


「働く条件を確認した人としてね」


「字、曲がってませんか?」


「少し右上がりね」


「書き直した方が――」


「契約は字の美しさではなく、読めることと内容が大切よ」


「リリアーナ様の最後の一画も、昨日ちょっと震えてました」


 見られていた。


「……お揃いね」


 私が小声で返すと、ミアは緊張した顔のまま、ふふっと笑った。


 功績を飾るためではない。責任の場所を曖昧にしないための名前だ。


 王宮を出る時、昨日の門番がまた訪問札を受け取った。


「ご契約、おめでとうございます」


「ありがとうございます。これから試すところです」


 私は振り返らなかった。


 王宮に受け入れられたから、失った居場所が戻ったのではない。


 自分たちで作った店から、必要な仕事を運び込んだ。ただ、それだけで十分だった。


◇◇◇


 村へ戻ると、ガレオ村長をはじめ、多くの人が祝ってくれた。


 一方で、「元王女なら王宮へ話が通りやすい」「結局は身分がある者が得をする」という囁きも、広場の端で聞こえた。


 胸が痛まないと言えば嘘になる。


 喜んでいた胸へ針が刺さる。違う、と一人ずつ追いかけたい。


 百二十食を売り、要望を記録し、独占案を断り、八十食まで削った――全部まくしたてたい。


 でも、私の事情を知らない人が疑うことまで悪にはできない。


 元王女が王宮と契約した。そこだけ見れば疑うのも自然だ。悔しいけれど、怒鳴り返せば疑いを恐れる店に見える。


 実証報告を読んで面会が決まったことも、条件を何度も直したことも、契約書を見なければ外からは分からない。王室御用達という四文字だけが歩けば、特別扱いに見えるのも無理はなかった。


「全員に分かってもらおうと、今すぐ追いかけますか」


 アンナが尋ねた。


「いいえ。まず、約束した八十食を安全に届ける。質問には、出せる記録で答える」


 称号は盾ではない。


 むしろ、今まで以上に、許可、税、衛生、労務を説明できなければならない印だ。


 その夜、店の戸口に、折り畳まれた紙が差し込まれていた。


 『追放された元王女が、王家の名を使って違法な夜商売をしている』


 差出人の名はない。


 似た文句を市場で聞いたと、翌朝には三人から報告が届いた。


 王宮の視線を得た同じ日に、別の視線もまた、私たちへ集まり始めていた。


 紙を持つ指が、ジワリと冷たくなる。


「捨てますか?」


 アンナが尋ねた。


「いいえ。受け取った時刻と場所を記録して、原本を封じるわ」


 痛くないふりはしない。


 けれど、値踏みする言葉に自分の値段を決めさせもしない。


 私は匿名の紙を証拠袋へ入れ、八十食の納品表をその隣へ置いた。

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