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第43話 王都遠征販売


「リリアーナ様、本当に王都に行くんですか?」


ミアが不安そうな顔で荷物の準備を手伝ってくれている。そう、ついに決断した。王都への遠征販売よ。


「ええ。祭りでの勝利で確信したの。私たちの技術なら、王都でも通用するって」


ヴェルナー商会との直接対決で圧勝したことで、自信がついた。でも、それ以上に重要なのは、向こうの本拠地で勝負をつけるという戦略的な意味。


「でも、王都って...」


「相手の土俵で勝ってこそ、本当の勝利よ。それに、王都には夜勤で働く人がたくさんいるはず。きっと需要があるわ」


実際、王都の警備兵、宮廷の夜番、深夜の運送業者など、夜に働く人は村の比じゃないほど多い。でも、夜営業の店は皆無。これは絶好のチャンスね。


「移動式屋台の準備はどう?」


「完璧です!」


ロウが自信を持って答える。


「オルフさんに特別に作ってもらった移動式の設備、魔道具も全て持ち運べるようにしました」


素晴らしい。さすがオルフ、技術者魂を見せてくれたわね。


「加熱炉、保温器、照明魔道具、それから氷の魔道具も全部セット。王都でも村と同じクオリティの商品を提供できます」


「よし、それなら安心ね」


◇◇◇


王都への道中、馬車の中で最終確認をしている。


「営業許可の方は大丈夫?」


「はい!ガレオ村長が推薦状を書いてくださって、一晩限りの特別許可をいただきました」


ゼルドが書類を見せてくれる。村長の人脈に感謝ね。


「場所は貴族街の一角です。夜でも人通りがある場所を選んでもらいました」


貴族街か。ある意味、一番厳しい客層ね。でも、逆に言えば、そこで成功すれば王都全体への宣伝効果は抜群。


「緊張しますね...」


ミアが手をぎゅっと握っている。


「大丈夫よ。いつも通りにやれば必ず成功する」


でも、正直言って私も緊張している。王都デビューなんて、半年前には想像もできなかった。


「それにしても、王都って本当に大きいですね」


車窓から見える王都の城壁は、確かに圧倒的な大きさ。人口10万人を超える大都市。村とは規模が違いすぎる。


「でも、人が多いということは、それだけお客さんも多いということよ」


そう自分に言い聞かせながら、王都の門をくぐった。


◇◇◇


王都の夜は、想像以上に真っ暗だった。


「うわぁ...本当に店が全然ないんですね」


ロウが驚いている。確かに、大通りの商店は全て閉まっていて、街灯だけが寂しく夜道を照らしている。


「これは...チャンスよね」


10万人の大都市で、夜営業の店が皆無。これだけの市場が手つかずで残っているなんて、信じられない。


貴族街に到着すると、確かに人通りはある。夜会から帰る貴族の馬車、夜勤の警備兵、深夜の配達業者など、思った以上に夜の王都は活動している。


「よし、準備開始!」


慣れた手つきで移動式屋台を設営していく。照明魔道具を設置すると、暗い夜道にぽっと明るい空間が浮かび上がった。


「目立ちますね」


確かに、真っ暗な街に突然現れた明るい屋台は、かなり目立つ。通りかかる人たちが、みんな不思議そうにこちらを見ている。


「加熱炉の準備完了!」


「商品の陳列も完璧です!」


「よし、王都初営業、開始よ!」


午後10時、ついに王都での営業が始まった。


◇◇◇


最初は、遠巻きに見ているだけだった通行人たちも、肉まんの湯気と香りに興味を惹かれ始めた。


「何だ、あの香りは...」


立派な服装の中年男性が、鼻をひくひくさせながら近づいてくる。貴族の方かしら?


「いらっしゃいませ!温かい肉まんはいかがですか?」


ミアが笑顔で声をかける。


「肉まん?何だそれは?」


あ、そうか。王都でも肉まんは馴染みがないのね。


「小麦粉の皮で肉餡を包んで蒸した料理です。とても温かくて美味しいですよ」


「ほう...」


男性が興味深そうに商品を見つめる。


「一つ、試してみるか」


「ありがとうございます!熱々をどうぞ!」


男性が一口食べると...


「これは...!」


目を見開いて驚いている。


「美味い!こんな料理があったのか!」


「ありがとうございます!」


初の王都客からの高評価。これは幸先がいいわね。


「しかも、こんな夜中に温かい食べ物が食べられるなんて...革命的じゃないか」


そう、それこそが夜営業の価値。王都の人たちにも、その価値は伝わるのね。


◇◇◇


最初の客の反応を見ていた他の通行人たちも、続々と興味を示し始めた。


「私も一つもらおうか」


「何やら美味しそうだな」


「夜中に温かい食べ物とは、面白い」


あっという間に小さな行列ができた。しかも、みんな貴族や商人など、身なりの良い人たち。


「これはスープです。体が温まりますよ」


「おにぎりもあります。お米の味が引き立ちます」


ミアとロウの接客も完璧。王都の客相手でも、全く物怖じしていない。


「素晴らしい!こんなサービスがあったとは!」


「夜勤の時に、これがあれば助かる」


「明日も来るぞ」


お客さんの反応は上々。王都でも需要は確実にあるわね。


その時、一人の男性が慌てて走ってきた。


「すみません!王都新聞の記者なんですが、取材させていただけませんか?」


王都新聞?それは王都で一番権威のある新聞よ。


「取材ですか?」


「はい!貴族街で夜中に行列ができるなんて、前代未聞です。これは大ニュースになります!」


記者の目がキラキラ輝いている。確かに、貴族が行列を作るなんて、普通では考えられない光景よね。


「どちらから来られたんですか?」


「スノーベル村からです。世界初の夜営業店を運営しております」


「世界初!?それは...大スクープじゃないですか!」


記者がメモを取り始めた。これは良い宣伝になりそうね。


◇◇◇


午後11時を過ぎると、行列はさらに長くなった。


「すごいですね...王都でこんなに反響があるなんて」


ロウが感動している。確かに、予想以上の反応。


「でも、考えてみれば当然よね。王都には夜勤の人がたくさんいるのに、夜営業の店がない。潜在需要は村の比じゃないわ」


実際、警備兵、宮廷の夜番、深夜の配達業者、夜会帰りの貴族など、様々な人たちが来店している。


「あの、私、宮廷で夜番をしているんですが...」


若い警備兵が恐る恐る声をかけてきた。


「いつもは干し肉と水だけで夜を過ごしているんです。でも、これがあれば...」


「ぜひ、ご利用ください!夜勤の方を応援するのが、私たちの使命ですから」


「ありがとうございます!」


警備兵の嬉しそうな顔を見ていると、改めて夜営業の意義を実感する。


「リリアーナ様、商品が足りなくなりそうです」


ミアが心配そうに報告する。


「予想以上の売れ行きですね。でも、品切れになる前に完売の方が良いかも」


初日から在庫過多では印象が悪いし、「売り切れ」という希少性も演出できる。


◇◇◇


深夜0時、ついに全商品完売。


「申し訳ございません、本日は完売いたしました!」


「えー、まだ食べてないのに」


「また来てくれるのか?」


「ぜひ!定期的に王都でも営業したいと思っております」


お客さんたちの反応を見ていると、確実に手応えを感じる。これなら王都進出も夢じゃない。


「すごかったですね!」


記者が興奮気味に話しかけてくる。


「これだけの行列、王都でも滅多に見ませんよ。しかも貴族街で!」


「ありがとうございます」


「明日の朝刊に大きく載せさせていただきます。『貴族街に現れた夜の奇跡』とでも見出しをつけて」


それは嬉しい宣伝ね。王都新聞に載れば、一気に知名度が上がる。


「ところで、今後の展開は?」


「王都への本格進出を検討しています」


「それは楽しみです!ぜひ取材させてください」


◇◇◇


後片付けをしながら、今夜の成果を振り返る。


「売上はどうだった?」


「村の3日分に相当します」


ゼルドが嬉しそうに報告する。


「しかも、これは一晩だけの結果です。もし定期的に営業すれば...」


想像するだけでワクワクする。王都の市場規模は村とは桁違い。


「お客さんの反応も最高でしたね」


ミアが振り返る。


「みんな『また来る』って言ってくれました」


「それに、『友達にも紹介する』って言ってくれた人も多かったです」


ロウも興奮している。


口コミ効果も期待できそうね。王都のような大都市では、口コミの威力は絶大。


「何より、夜営業の価値を理解してもらえたのが嬉しいわ」


そう、今夜一番の収穫は、王都でも夜営業の需要があることを確認できたこと。


「王都進出への確信が持てたわね」


これで、ヴェルナー商会との本格的な戦いも現実味を帯びてきた。相手の本拠地で勝負する準備は整った。


◇◇◇


宿に戻って一休みしていると、興奮がまだ冷めない。


「王都デビュー、大成功だったわね」


今夜の光景は忘れられない。貴族街の暗い夜道に突然現れた明るい屋台。肉まんの湯気に引き寄せられる人々。あっという間にできる行列。そして、みんなの驚きと満足の表情。


「こんなにうまくいくなんて、正直驚いたわ」


もちろん、成功を確信していたけれど、これほどの反響は予想以上。


「明日の新聞が楽しみですね」


ミアが嬉しそうに言う。


「王都新聞に載れば、一気に有名になりますね」


そう、これが社会現象の始まりかもしれない。小さな村から始まった夜営業が、ついに王都で認められた。


「でも、これで終わりじゃないわよ」


「次は?」


「本格的な王都進出の準備。店舗の確保、人材の確保、そして...」


そして、ヴェルナー商会との決戦。今夜の成功で、彼らも本格的に危機感を抱くでしょう。


「いよいよ本当の戦いが始まるのね」


でも、恐怖はない。今夜の成功が、何よりの自信になった。王都の人たちも、私たちの価値を認めてくれる。それが分かれば、もう怖いものはない。


窓の外を見ると、王都の夜景が広がっている。巨大な都市の中で、今夜だけ小さな奇跡が起こった。でも、これは始まりに過ぎない。


「いつか、この街の夜を明るく照らしてやる」


そんな野望を胸に、私は眠りについた。明日からは、本格的な王都進出の準備。夢は現実になりつつある。


◇◇◇


翌朝、宿の食堂で朝食を取っていると、宿の主人が興奮した様子で近づいてきた。


「お客さん、これ見てください!」


手にしているのは、王都新聞の朝刊。一面に大きく載っているのは...


『貴族街に現れた夜の奇跡 世界初の夜営業店が王都上陸』


写真付きで、昨夜の様子が詳しく報道されている。行列を作る貴族たち、湯気を上げる肉まん、そして笑顔で接客する私たち。


「すごいじゃないですか!一面記事ですよ!」


宿の主人が興奮している。


「これで一気に有名になりましたね」


記事を読むと、記者は夜営業の革新性と社会的意義を高く評価している。「夜に働く人々への福音」「新しい商業文化の誕生」など、最大限の賛辞。


「これは...予想以上の宣伝効果ね」


王都新聞の影響力は絶大。これで王都中の人が、夜営業のことを知ることになる。


「リリアーナ様、すごいことになってますよ!」


ミアが慌てて駆け込んできた。


「街の人たちが新聞を見て、『昨夜の店はどこだ』って聞いて回ってるんです!」


「本当に?」


「はい!『今夜も来るのか』って期待してる人がたくさんいます!」


これは...予想以上の反響ね。一夜にして王都で有名になってしまった。


でも、これで確信した。王都進出は必ず成功する。需要はある、技術もある、そして何より、人々の支持がある。


「よし、本格的に王都進出の準備を始めましょう」


いよいよ新しいステージの始まり。王都という大舞台で、夜営業の真価を証明してやる。

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